がん(骨肉腫)闘病記

抗がん剤治療、放射線治療、人工関節置換手術、MRSA感染、身体障害者となっての生活の記録を残します。

底割れしている「西松」捜査

2009年03月26日 | Weblog
2009年03月25日 19時05分記載

Author 児玉 博



URL http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090318/189324/



「3月17日付「朝日新聞」朝刊は次のように伝えている。

 「準大手ゼネコン『西松建設』から民主党・小沢代表の資金管理団体『陸山会』への違法献金事件に絡んで、東北地方のゼネコン談合組織が小沢事務所側の意向をくんでいたとされる問題に、大手ゼネコン『鹿島』の東北支店元幹部が関与していた疑いのあることがわかった」

 記事にあるように小沢の公設秘書の逮捕に端を発した違法献金事件はかつてのゼネコン汚職を彷彿させるような様相を呈し始めた。

 1993(平成5)年、自民党最高実力者だった元自民党副総裁、金丸信の逮捕をきっかけに起きたゼネコン汚職事件。

 莫大な予算がつぎ込まれる公共事業を背景にして受注を調整し、業者を指名する“天の声”を発する。見返りは受注額の3%が相場とされた裏献金。“天の声”を発するのは自民党建設族の大物議員や地方の実力首長たち。工事受注の調整役はゼネコンの有力者たちだった。

 こうした構図が戦後日本の保守政治を支え続けてきた。その戦後を象徴する癒着の構図にメスを入れたのがゼネコン汚職であった。

 現役の衆院議員、県知事、政令指定都市の市長、大手ゼネコンの幹部などが逮捕されたこの汚職事件は自民党、中でも権力の中枢を担い続けてきた旧田中派の流れを汲む竹下派(経世会)の内部分裂を決定的なものにし、非自民党政権である細川護熙を首班とした連立政権誕生をもたらした。

 そして、政権交代が現実的なものとして語られようとする矢先に起きたのが今回の事件であった。

 検察は霞が関の意向を斟酌した、検察は小沢政権の阻止に走った・・・。様々な憶測、様々な怪情報が乱れ飛んでいる。ただ、一点言えることは事件を手がける特捜部が小沢の公設秘書の逮捕に踏み切った大義名分をいかに理論づけるかに躍起になっているという事実だ。

 特捜部は原資が「西松建設」と知りながら受け取った献金額2100万円の性格に限りなく贈収賄の意味合いが強い、だから逮捕に踏み切ったとの絵図を描いているようである。小沢への献金はかつてのゼネコン汚職の構図に限りなく近い、とする検察はその情報をリークする一方で「鹿島」をはじめとするゼネコン各社からの事情聴取に必死になっているのである。



確かに特捜部が狙い定めている節がある国土交通省発注の「胆沢ダム」(岩手県。総事業費およそ2440億円)に代表されるように東北地方は小沢王国である。

 手元に残る資料を見れば大手ゼネコンで作られていた小沢後援会「桐松クラブ」の名簿には「鹿島」盛岡営業所所長を会長として大手ゼネコンの盛岡営業所所長の名前がずらりと並ぶ。また、同じように「鹿島」盛岡営業所所長の名前で選挙の動員を呼びかける通知書などもある。

 先のゼネコン汚職でも小沢王国はびくともしなかった。その中心には常に「鹿島」の影が見え隠れしていた。

 しかし、である。検察当局が流している情報は自らの正当性を必要以上に強調しようとしているように見えてならない。これでは逮捕の正当性の弱さを自らが証明しているようなものではないか。

 小沢とゼネコンとの談合疑惑の情報が山のように流される中、やはり「西松建設」がダミー政治団体を使いパーティー券800万円以上購入し、また「西松建設」が個人献金を装い社員の個人名で献金していた事実が明らかになっている経済産業大臣、二階俊博の捜査はどうなっているのか。二階の資金管理団体の会計責任者の事情聴取が予定されていながら、自民党幹部らの抗議によって検察幹部の判断でいったん事情聴取が見送られたのはなぜなのか。

 「西松建設」から押収した膨大な資料の中からは同社と二階との親密さを示す資料やメモが多数見つかってもいる。建設業界では、

 「二階は西松(建設)の顧問みたいなもんだ」

 とする声は少なくない。

 経産相の地位にある二階だが、その二階の元を日に何度も国土交通省の幹部が訪ねるほど、国土交通省への二階の影響力は絶大である。

 数週間前には再び経営危機が噴出している日本航空の社長、西松遥が経営幹部を伴い、二階を訪れている。二階はその場で自ら電話を取り、経済産業政策局長、松永和夫を呼び出し、

 「話を聞いてやってくれ」

 と両者を引き会わせている。

 日本政策投資銀行からの融資について話が出たのではないかとも言われている。二階の力の一端が垣間見えた一幕だった。

 国土交通省案件のゼネコン工事は相当な裾野を持つ。その分野にも影響力を持つ二階の捜査が事実上ストップしていることは何を物語るのか。検察的“正義”。括弧つきの“正義”の底が割れている。そうした冷ややかな目が検察に向けられている。 」

検察は説明責任を果たしたか

2009年03月26日 | Weblog
2009年03月25日 19時00分記載

Author 郷原 信郎


プロフィール 桐蔭横浜大学法科大学院教授 コンプライアンス研究センター長

1955年島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事などを経て、2005年から現職。「不二家問題」(信頼回復対策会議議長)、「和歌山県談合事件」(公共調達検討委員会委員長)など、官庁や企業の不祥事に関与。主な著書に『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)のほか、不二家問題から事故米不正転売問題まで食品不祥事を幅広く取り上げた『食の不祥事を考える』(季刊コーポレートコンプライアンスVol.16)など。近著には『思考停止社会~「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)がある



URL http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090324/189886/?P=1



「24日、逮捕事実に若干のプラスアルファが付いただけで民主党小沢代表の公設第一秘書が起訴された。

 昨日のこのコラム(「小沢代表秘書刑事処分、注目すべき検察の説明」) に書いたように、今回の事件は一般の刑事事件とは違う、政治資金規正法という民主主義の根幹にかかわる事件であり、それに対して検察がどのような罰則を適用し運用するのかは政治的に極めて重要な問題だ。したがって、検察は基本的な考え方をきちんと説明し、今回どんな考え方でこの事件を起訴したのかについて説明すべきだと主張した。



検察からは一般論的な説明のみしかなかった




 ところが聞くところによると、検察からはそのような説明はまったくされなかったという。政治資金規正法は非常に重要な法律で、違反する行為というのは重大だという一般論的な説明のみしかされなかったとのことだ。

 今回のような事件を、こういう時期に政治的影響を生じさせてまで摘発したことについて説明責任を回避するというのは、検察としては許されない。なぜこの事件だけが悪質と言えるのか、結局まったくわからない。強制捜査に対する疑問点については「代表秘書逮捕、検察強制捜査への疑問」 で書いた。

 当然のことながら、寄附をするゼネコンは公共事業の受注に少しでも役に立てばということが目的だが、具体的にある工事について、政治家に動いてもらって発注者に働きかけてもらい、それで対価をもらえばあっせん収賄罪になり、口利きだけでもあっせん利得罪になる。

 しかし、その当時はみながやっていたことであるのに、過去の一時点のことだけをつまみあげて悪質だというのは、検察がその気になればいくらでも処罰できるということになってしまう。これは民主主義の否定であり、検察が国会より上に位置づけられる「検主主義」であると昨日のこのコラム で述べた。

 しかも談合による受注のメカニズムは単純なものではない。特定の工事に関して小沢事務所に頼んだら、談合の仕切り役に声を掛けてくれそれで受注できたというようなそんな単純な世界ではない。

 談合受注の構造が単純ではないことについてもすでに述べて きた。私は公正取引委員会に出向して埼玉土曜会事件に関わった時から、公共工事を巡る腐敗構造の解明には10年以上にもわたって取り組んできた。この経験から言っても、談合の解明は応援検事を集めて10日か20日でできるようなものではない。



今回の断片的で説明にもならない検察のコメントを読むと、ほとんど理屈にもなっていない。なぜこのようなことになったのだろうかという思いだ。検察は少なくとも理屈に通ったことをやらなければいけないのに、まったくそうなっていない。

 政治的な影響だけが生じて、あとは公判で明らかにするというのは、完全に民主主義の否定だ。まさかそんな無茶なことはしないだろうと、強制捜査が始まった時から私はずっと思ってきた。そして私なりのコメントを出してきた。それでもこういう無茶なことをやってしまったというのは、検察という組織の現状を端的に象徴しているとしか言いようがない。

 なぜこんなばかなことをやってしまったのかというのが、今回の1つの疑問点である。検察の真の意図はどこにあったのだろうか。国策捜査だとか自民党つぶしなどとかの憶測を呼んだが、私はそのような高尚なものではなく、基本的ミス、誤算という可能性が強いと思う。



検察は重大な基本的ミスを犯した?




 誤算というのは小沢氏側の対応の見誤りだ。秘書の事件で強制捜査に入り、小沢氏に対する批判が強まれば小沢氏は辞職するだろう。そうすれば政治力がなくなり、秘書も事実を認めて大した問題にはならないだろう。検察がこういった甘い見通しを持っていたのではないかということだ。そうだとすると、それなりの目算がなければならないが、そのことを教えてくれるのが、3月8日付の産経新聞の記事だ。ここで述べられているのは、監督責任の問題だ。

 これは、陸山会代表としての小沢氏の「監督責任」に関して、「捜査関係者」として、「特捜部は監督責任についても調べを進めるもようで起訴されれば衆院議員を失職する可能性も」という内容だった。

 同記事には、特捜部が摘発した埼玉県知事だった故土屋義彦氏の資金管理団体の政治資金規正法違反で、土屋氏から事情聴取し、監督責任を認め知事を辞職した土屋氏を「反省の情がみられる」として起訴猶予にしたことも書かれている。

 しかし、代表者の責任は「選任及び監督」に過失があった場合で、ダミーの会計責任者を選任したような場合でなければ適用できない。土屋氏の場合と同様に代表者の監督責任による立件をちらつかせて小沢氏を辞任に追い込めると判断していたとすると重大な基本的ミスだ。



同じ8日のテレビ番組や新聞のインタビューで私が、監督責任だけでは代表者の立件はできないことを指摘したところ、小沢代表聴取の報道は急速に鎮静化し、その後、「小沢氏聴取見送り」が一斉に報じられた。



強制捜査までのハードルは本来もっと高くあるべき




 過去にあった談合構造のもとで小沢氏が政治資金を集めていたとしたらそれが問題であることは否定できない。しかし、このことと検察の説明責任は別の問題だ。

 貧すれば鈍するという言葉があるように、低レベルのことを始めてそれが許されると、その組織はそのレベルに落ちていく。私は自民党長崎県連事件では、必死の思いで苦しんでハードルを乗り越えていった。この事件とは、公共事業受注業者から上前をはねるように裏献金などの様々な献金を集め、パーティー券収入を何千万と裏に隠していたというものだ。

 私は長崎でこの事件をやったとき、これでもかこれでもかと最高検や法務省から厳しく高いハードルを課せられ、それを乗り越えなければ前に進めないという状況に追い込まれていた。そういった状況をたった野球1チームほどの、検事任官2年目、3年目の“アマチュア”といっていいようなメンバーばかりのチームで乗り越えていった。しかし、その過程でスキルアップしたと思っており、大変なハードルを課されたことには感謝している。

 その時、法務省から口をすっぱくして言われたのは、ここで手をつけたことが横に広がったらどうするかということだった。この事件がほかとは差別化できるということでなければだめなのだということだ。私はこう言われたことに納得し、これならいけるというような事実を我々なりにがんばって聞き出して立件し、強制捜査の対象にしていった。

 今の特捜の姿勢はこの時とはあまりに違う。政治家の事件の強制捜査に着手するまでのハードルは本来もっと高くなければいけないということに立ち返り、特捜部はそれを乗り越えられるようになってもらわなければいけない。そして、そうなってもらいたいというのが、私の検察への思いだ。(談) 」

小沢代表の秘書逮捕で思い出す長銀経営陣への「国策捜査」

2009年03月26日 | Weblog
2009年03月25日 00時04分記載

URL http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/177/



経済アナリスト 森永卓郎氏コラム「構造改革をどう生きるか~成果主義・拝金思想を疑え~」3月23日掲載第177回記事



「3月3日、民主党の小沢一郎代表の公設第一秘書が逮捕された。容疑は、西松建設関連の政治団体から受けた政治献金について、不実記載をしていた容疑である。

 これ以降、日本の政界を取り巻く環境が一変してしまった。麻生内閣の政党支持率に歯止めがかかり、政党支持率についても自民党が民主党を逆転。さらに、自民党内で吹き荒れていた麻生降ろしの風がぴたりと止んだ。どちらも、麻生総理にとって願ってもない展開である。

 それにしても、あまりにもいいタイミングだ。わたしでなくても、どこか怪しいと感じた人は少なくないだろう。

 ところが、わたしがテレビで「国策捜査の可能性があるのではないか」と遠回しに述べたところ、その反響の大きさには驚いた。わたし自身に対するいやがらせのメール、電話、ファクスは言うに及ばず、勤務先の大学の学長に対して、「森永のようなやつはクビにしろ」という訴えまであったとか。どのような人が書いたのかはしらないが、そうした反応も含めて怪しく思えてしまうのである。

 本当に国策捜査が行われたのかどうかは分からない。仮に政府から何らかの圧力や示唆があったとしても、おそらく永遠に明らかになることはないだろう。漆間官房副長官のオフレコ発言のように、それを疑わせる発言はあったが、誰もそれを認めるはずがない。だから、そこを議論しても意味はない。

 ただ、その後の小沢代表に対する世間の風当たりを見ていると、ちょっと違和感を覚えてしまう。公設第一秘書の容疑の内容などはどうでもよく、とにかく逮捕されたということだけで、世の中もメディアも「小沢悪者論」に傾いてしまってきた。

 そう考えていくと、この逮捕劇は、かつて国策捜査を疑わせたある事件と二重写しになってくる。その事件とは、刑事、民事とも昨年7月までに無罪判決が下された長銀(日本長期信用銀行)の粉飾決算事件だ。



小沢代表の本音の裏にある「永田町の常識」



 小沢代表は、秘書の逮捕翌日に行われた記者会見の席で、「このようなことは前例がなかった」と検察への不満を述べている。ここに、小沢代表の心情が集約されているとわたしは思う。この時点では、あれこれと考える間もなかったために、つい本音が出たのだろう。

 なぜ前例がないのかといえば、小沢氏のやり方をやっていれば逮捕されないというのが永田町の常識だったからだ。

 政治資金規正法では、企業から議員への献金は禁止されているが、政治団体からの献金は許されている。だから、実質的に企業からの献金であっても、政治団体からの献金の形式さえ整っていればいいというのが常識だった。

 現実に、小沢氏を含めて与野党19人の議員が、西松建設関連の政治団体から献金を受け取っていたことか明らかになっている。西松建設以外まで含めたら、それこそ数えきれないほどの事例があるはずだ。ところが、これまで誰も捕まっていない。

 これは、自動車のスピード違反と似たようなものである。速度制限50キロの道を55キロで走っていても普通は捕まらない。これはドライバーの常識である。よいか悪いかは別として、そうした安全圏内で議員たちが泳いでいたというのが、これまでの実態だ。

 難しいのは、そこで5キロオーバーで捕まったからといって、それに対して公に反論できないことだ。1キロオーバーでも違反は違反だからである。

 小沢代表にしてみれば、「違法は違法だが、これまではそれで捕まらなかったじゃないか」と言いたいところだが、さすがに国民を前にしてそんなことを口にするわけにはいかない。そんないらだちが、小沢代表をして「前例がない」と言わせたのだろう。

 もっとも、「西松からの金だとは知らなかった」という小沢代表の言葉はうそだろう。政治団体は西松建設と同じ住所にあったから、背後に西松建設がいることを知らなかったはずはない。そもそも慈善団体の寄付ではないのだから、政治献金に何らかの思惑があることくらい、政治家なら分かるはずだ。

 いずれにしても、少なくとも政治資金規正法の不実記載で秘書を逮捕するのは無理があるとはいえ、表立って反論しがたいのもまた事実である。



罪状は二の次で、民主党のイメージダウン狙いの作戦なのか



 この逮捕劇に関して、どうしても解明できない疑問点が2つある。1つは、なぜ政権交代の可能性のある総選挙前という時期かということ。もう1つは、なぜ小沢氏の秘書だけが逮捕されたのかということだ。

 この2点について、政治評論家をはじめとする方々は、メディアでいろいろと解説をしているが、どれも完全に説得力のあるものではない。

 例えば、なぜこの時期かという点である。よく言われているのは、献金を受けたうちの700万円分が時効になってしまうからという議論だ。いかにも説得力がありそうだが、700万円が時効になっても、あと千数百万円分が残っているではないか。どうも、これは関係なさそうである。

 小沢氏への献金が巨額だったから、悪質だったからという解説もなされている。それはそうかもしれないが、だからといって他の議員の「違法」を見逃す根拠にはならない。

 検察は、小沢氏の受託収賄罪を狙っているという話もあるが、これが成立するかといえば、それはかなり難しい。献金をする側に勘違いがあったのかもしれないが、小沢代表はずっと野党でやってきた。野党の議員に、公共事業を左右するような職務権限があるはずがない。仮に、そうした雰囲気があったとしても、それで裁判を維持できるのかどうかは疑問である。

 そうしたことを考えると、わたしは国策捜査とまでは言わないものの、検察に対して何らかの政治的圧力が加わった可能性は否定できないと思うのだ。

 つまり、実質的な罪状は二の次として、とにかく小沢氏と民主党のイメージを落とすことを主目的とした逮捕劇だったのではないかというわけだ。もしそうだとしたら、その作戦は見事に成功したことになるだろう。

 それで思い出すのが、冒頭に述べた長銀(日本長期信用銀行)の粉飾決算事件である。



スケープゴートにされて何もかも失った長銀事件の被告



 長銀の粉飾決算事件の顛末については、「第144回 長銀事件の無罪判決は当然、真犯人は別にいる」 で述べた通りだ。

 この事件では、大野木克信元頭取ら3人の経営幹部が逮捕され、刑事、民事の両方でほぼ10年にわたって裁判が続けられた結果、昨年までに全員に無罪判決が下されたのである。

 わたしが無罪だと確信していた理由は、前述のコラムに書いた通りである。当時の大蔵省は不良債権の査定について、旧基準で決算を行ってもいいようなあいまいな通達を出していた。そこで、長銀のほか、大手18行のうち14行が旧基準で不良債権処理をしたところ、なぜか長銀の経営陣だけが罪を問われたのである。しかも、粉飾決算は、その前の杉浦頭取時代に行われていたのだが、それを立件するには時効の壁があった。

 大野木克信元頭取らが逮捕・起訴された点について、もちろん「国策捜査」という確証はないのだが、背景には世間に対する政府のアピールがあったとみられている。つまり、約8兆円もの公的資金を注入するためのスケープゴートにされたのが長銀の経営陣だったというわけである。

 気の毒なのは長銀の経営陣3人である。裁判が10年近くも続いた上に、社会的な地位も失ってしまった。いくら無罪判決が出たといっても、おそらく世間の人の頭のなかには、「あの長銀の経営陣3人は粉飾決算をした悪いやつだ」というイメージしか残っていないに違いない。

 こうした構図は、事情の違いこそあれ、今回の小沢氏の秘書逮捕と似ていないだろうか。そして、仮に長い裁判の末に小沢氏の秘書が無罪を勝ち取ったとしても、世間はこの事件のことをすっかり忘れているはずだ。

 たしかに、かつての小沢氏は旧田中派の7奉行の1人として、膨大な企業献金を受けて、さんざん悪いことをしていたに違いない。しかし、その後に政治資金規正法ができて、当時からすれば、かなりましになった。小沢氏にしても、金の流れを隠して不正に所得隠しをしていたわけではなく、表には出していたのである。

 3月17日の会見で小沢氏は「企業の献金を全面禁止するべきだ」と発言して与野党に波紋を呼んでいるが、その本心は「こんなちゃんと処理していても捕まるようなルールなら、いっそのことやめてしまえ」というところなのだろう。

 もちろん、わたしは今回の捜査が国策だと断言しているわけではない。しかし、わたしはこの事件で深く感じたことがある。それは、「権力者は強い」「権力は恐ろしい」ということだ。長銀の3被告にしても、結果的には政府のアピールのために、地位も信用も失ってしまったのである。」

小沢代表秘書刑事処分、注目すべき検察の説明

2009年03月26日 | Weblog
2009年03月24日 12時12分記載

民主党、自民党、マスコミにとっても正念場の1日



Author 郷原 信郎


プロフィール 桐蔭横浜大学法科大学院教授 コンプライアンス研究センター長

1955年島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事などを経て、2005年から現職。「不二家問題」(信頼回復対策会議議長)、「和歌山県談合事件」(公共調達検討委員会委員長)など、官庁や企業の不祥事に関与。主な著書に『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)のほか、不二家問題から事故米不正転売問題まで食品不祥事を幅広く取り上げた『食の不祥事を考える』(季刊コーポレートコンプライアンスVol.16)など。近著には『思考停止社会~「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)がある




URL http://ameblo.jp/shiratasan-daisuki/entry-10225668516.html



「 前回のこのコラム で、「ガダルカナル」化、すなわち戦線の泥沼化という状況ではないかと推測した民主党小沢代表の公設第一秘書の政治資金規正法違反事件の捜査は、今日(3月24日)、大きな節目を迎える。

 総選挙を間近に控え、極めて重大な政治的影響が生じるこの時期に、まさか、逮捕事実のような比較的軽微な「形式犯」の事件だけで、次期総理の最有力候補とされていた野党第一党の党首の公設秘書を逮捕することはあり得ない、次に何か実質を伴った事件の着手を予定しているのだろうというのが、検察関係者の常識的な見方だった。



「逮捕事実のみで起訴」はほぼ確実




 しかし、その後、新聞、テレビの「大本営発表」的な報道で伝えられる捜査状況からすると、他に実質的な事件の容疑が存在するとは思えない。態勢を増強して行われている捜査では、もっぱら東北地方の公共工事について調べているようだが、2005年の年末、大手ゼネコンの間で「談合訣別宣言」が行われて以降は、公共工事を巡る旧来の談合構造は解消されており、それ以降、ゼネコン間で談合が行われていることは考えにくい。それ以前の談合の事実は既に時効であることからすると、談合罪での摘発の可能性は限りなく小さい。

 また、いわゆる「あっせん利得罪」は、「行政庁の処分に関し、請託を受けて、その権限に基づく影響力を行使して公務員にその職務上の行為をさせる」ことが要件であり、野党議員や秘書に関して成立することは極めて考えにくい。

 このように考えると、少なくとも、現在、検察の捜査対象となっている大久保容疑者の容疑事実は逮捕事実の政治資金収支報告書の虚偽記載だけと考えるのが合理的であろう。

 一方、逮捕事実について不起訴ということも事実上あり得ないであろう。建前上は検察が逮捕・勾留した場合でも不起訴という選択肢がないわけではない。しかし、検察が独自に捜査を行い、これだけ大きな政治的影響を生じさせた後に不起訴に終わったのでは、検察は重大な責任を問われることになる。検事総長の辞任に匹敵する大失態だ。そのような選択が容易にできるとは思えない。

 そう考えると、本日の勾留満期での大久保容疑者の処分は、逮捕事実だけで起訴(公判請求)になることがほぼ確実と言ってよいであろう。

 そこで、大久保容疑者の処分がそのような形で終わった場合に問題になる、今回の事件についての検察の説明責任について考えてみたい。



「検察に説明責任はない」との主張の誤り




 この点に関して、「検察に説明責任はない」と主張するのが検察OBの堀田力氏だ(3月20日付朝日新聞「私の視点」)。政治資金規正法違反は、汚職と同様に、国民の望む政治の実現のために重要な役割を担う「規制」の違反だから、検察は必要に応じて逮捕を行い法廷で容疑の全容を明らかにするだけでよく、それ以外のことを説明する責任はないというのだ。

 この見解は根本的に誤っている。政治資金規正法違反は、汚職と同列に位置づけられるものではない。「汚職」は、「金銭等の授受によって公務員の職務をゆがめた」という評価を伴うものであり、汚職政治家を排除すべきであることについては、当初から国民のコンセンサスが得られている。汚職政治家が多数いるのであれば、それを片っ端から摘発していくことが検察の使命と言い得るであろう。そして、その摘発の是非を判断するのは裁判所である。

 しかし、政治資金規正法は、政治資金を「賄賂」のように、それ自体を「悪」として規制する法律ではない。政治活動を、それがどのような政治資金によって行われているのかも含めて透明化して国民の監視と批判にさらし、それを主権者たる国民が判断する、という基本理念に基づく法律だ。「規制」ではなく「規正」とされているのも、政治資金を透明化によって正しい方向に向けようとする考え方に基づいている。



同法の理念の実現は、基本的には、法律の内容についての指導・啓蒙、適法性についてのチェック、収支報告書の記載に誤りがあった場合の自主的な訂正、それに対するマスコミや国民の批判などの手段に委ねられるべきであり、罰則の適用は、他の手段では法律の理念が達成できないような場合に限られるべきだ。歴史的に見ても、政治資金は徐々に透明化されてはきたものの、実態と法律の規定との間には相当大きなギャップが存在していたのが現実だ。違反が全くないと言い切れる政治家は少数なのではなかろうか。

 政治資金規正法違反を贈収賄と同列にとらえ、政治資金規正法に違反して政治資金の透明性を害した行為があれば、検察は、いかなる行為を選択して摘発することも可能で、それについて説明責任を負わないという考え方は、同法の理念に反するばかりでなく、検察の権力を政治より圧倒的に優位に位置づけることになりかねない。健全な民主主義の基盤としての権力分立の仕組みをも否定するいわば「検主主義」の考え方と言うべきであろう。

 今回の事件については、他の手段によって対処可能な単なる「形式犯」ではない、実質を伴った悪質な犯罪だと判断した根拠と基本的な考え方について検察に明確な説明が求められるのは当然だ。



検察は何を説明すべきか




 では、検察は、いかなる点について説明をすべきであろうか。

 何よりも、政治資金規正法という、罰則の適用の方法いかんによっては、重大な政治的影響を与え、まさに政治的権力を行使することにもなり得る法律についてどのような方針で臨んでいるのかについて、検察のトップである検事総長が、検察の組織としての基本方針を説明する必要がある。

 刑事事件について法と証拠に基づいて適切に捜査処理を行うという職務の性格上、個々の具体的事件についての判断を外部に説明することには制約がある。しかし、検察も国民の負託を受けて職務を行っている行政組織である以上、憲法が定める三権分立の枠組み自体にも影響を与えかねない政治資金規正法の罰則適用に関して基本方針を説明することは、当然の義務と言うべきであろう。

 とりわけ、本件の捜査に関しては、政治資金規正法の罰則適用が法の基本理念に反しているのではないかという重大な疑念が生じている。しかも、著名人であり社会的影響も極めて大きい検察OBの堀田氏が、上記のように、政治資金規正法を贈収賄と同様に位置づけ、その違反が認められる限り、検察は、必要に応じて逮捕を行い法廷で容疑の全容を明らかにすべきで説明責任すら負わない、という見解を新聞紙上で披瀝しているのである。検察が組織としてそのような見解を取っていないのかどうかを国民に対して明確に説明する必要がある。

 もし、堀田氏のような見解で政治資金規正法の罰則適用に臨むというのであれば、そのように強大な権限を検察に与えることについて国民の承認を受けなければならないはずであり、その点について、国会の場で検事総長が説明を行うことが必要であろう。

 堀田氏の見解とは異なり、筆者の言うように、他の手段では法律の目的が達せられない場合にのみ罰則を適用するという方針で臨んでいるということであれば、本件が、そのような場合に該当することについて、十分な説明が求められることになる。

 一般的には、捜査の秘密や公判立証との関係などから、現時点での個別具体的事件の内容についての説明には制約がある。しかし、罰則適用の前提となる政治資金規正法の解釈問題についての説明には何らの制約もないはずだし、事実関係についても、政治的に極めて重大な影響を与える事件であることを考慮すれば、具体的な支障を生じる恐れがない限り積極的に説明を行う必要があろう。一般的な刑事事件では、被疑者側のプライバシーの保護が、個別具体的な事件についての説明を拒否する主たる理由になるが、大久保容疑者が本件についてプライバシーの保護を求めることはあり得ないであろう。

 そこで、検察が説明すべき点とそれに関して問題となる点を指摘する。説明すべき点は、違反の成否に関わる問題、悪質性の評価に関わる問題、捜査の手続き・手法に関する問題の3つに整理できる。



違反の成否に関して説明すべき点




 違反の成否の問題で説明すべき第1のポイントは、本件の政治資金収支報告書の虚偽記載の事実について、検察が、どのような法解釈に基づいて「虚偽記載」と判断したのかである。

 私は、「政治資金規正法上、寄附の資金を誰が出したのかを報告書に記載する義務はない。つまり、小沢氏の秘書が、西松建設が出したおカネだと知っていながら政治団体の寄附と記載したとしても、小沢氏の秘書が西松建設に請求書を送り、献金額まで指示していたとしても、それだけではただちに違反とはならない。政治資金規正法違反になるとすれば、寄附者とされる政治団体が実体の全くないダミー団体で、しかも、それを小沢氏側が認識していた場合だ」とかねて指摘してきた(3月11日の本コラム 参照)。この点について、検察がどのような考え方に基づいて今回の事件の捜査・処理を行ったのかが問題になる。

 この点についての解釈が筆者と同様だとすると、第2のポイントは、この場合の「政治団体に実体がない」というのはどういう意味なのかである。

 新聞報道などでは、検察は「会員名簿の管理や、献金などの事務手続きを行わず、実際には西松社員が担当していたこと」で政治団体の実体がないと断定した(3月20日付産経)などとされているが、その程度で「実体がない」ということになると、全国に何千、何万と存在する、単なる政治献金のためのトンネルとしての政治団体や政党支部もすべて「実体がない」ことになり、その名義による政治献金を記載した収支報告書はすべて虚偽だということになる。この点について、明確な判断基準が示される必要がある。

 仮に、政治団体に実体がないということだったとしても、それを大久保容疑者が認識していなければ犯罪は成立しない。この点は、違反の成否に関する重要な問題点ではあるが、本件に関する個別具体的な事項なので、公判での立証において明らかにすべきであろう。



悪質性の評価に関して説明すべき点




 次に、事件の悪質性の評価に関する問題である。

 前に述べたような、政治資金規正法の目的・理念からすると、罰則の対象とされる違反は、収支報告書の訂正や改善指導などでは目的が達せられない悪質な違反に限られることになる。

 本件の寄附は収支報告書に寄附の事実は記載している「表の寄附」だ。収入の総額に誤りはないし、その寄附収入に見合う支出の内容も開示しなければならない。収入自体が秘匿され、支出にも全く制限が働かない「裏の寄附」とは大きな違いがある。

 そのような「表の寄附」について、単に名義を偽ったというだけの違反が、「裏の寄附」と同視できるほどに政治資金規正法違反として悪質と言えるとすれば、2つのポイントが立証される必要があろう。1つは、「表の寄附」であっても寄附の名義を偽っていることで実質的に「裏の寄附」と同様だと言えること、もう1つは、寄附の見返りとしての便宜供与の事実あるいはその可能性があったということである。

 本件に関しては、西松建設の名義を隠して政治献金を行ったことで、小沢氏側から何らかの便宜供与が期待できたのかどうか、つまり、本件に贈収賄的な要素があるのかどうかが問題になる。



そこで、第3のポイントは、「ダミー団体」名義であることが、本当に西松建設からの寄附であることを隠すことになっていたかどうかだ。この団体は、小沢氏側だけではなく、自民党の多数の政治家に対して寄附やパーティー券の購入を行っていたとされており、これらの政治家は皆、この団体が西松のダミーだということを知っていたはずだ。そういう団体の名義で小沢氏側に寄附をしていれば、少なくとも政治の世界や政治と関係が深い業界関係者にはバレバレで、西松建設の名義を隠匿する効果はあまりなかったのではないか。

 また、政治資金収支報告書の中には、この「ダミー団体」の所在地が、西松建設の本社所在地になっていたものもあったとのことだ(3月6日付朝日)。その事実は、その団体と西松建設が一体であったことを示す事実、つまりダミー性を裏づける事実ではあるが、他方で、収支報告書を丹念に見れば、実質的に西松建設からの寄附だということが他社にも分かってしまうことにもなる。そういう意味では名義を隠すという効果があまりなかったことを示す事実でもある。

 これらの疑問について検察の側の説明がないと、そもそも本件の「表の寄附」が、名義を隠すことによって、「裏の寄附」と同様に悪質な事案と言えるかどうかについて重大な疑念が生じることになる。

 第4のポイントは、政治献金の見返りとしての便宜供与の事実あるいは、便宜供与の可能性があったか否かだ。この点に関して、最近の新聞、テレビなどで、大手ゼネコンなど建設業者の一斉聴取が行われ、東北地方での公共工事の談合による受注について小沢氏の秘書の大久保容疑者が影響力を及ぼしたり、談合に関与したりして、西松の公共工事の受注に協力した、というような内容の多数の報道が行われた。

 このような形での便宜供与が、本件の政治資金規正法違反としての悪質性、つまり「贈収賄的な性格」を根拠づけるように報じられているが、それを便宜供与的な事実ととらえているのか、検察としての基本的な考え方を説明する必要があろう。

 この点に関して、野党側の小沢氏の秘書の大久保容疑者がなぜ談合による受注者の決定に影響力を及ぼすことができたのかについては重大な疑問があるが、個別の事実関係の問題なので、公判立証の中で明らかにすべき事項であろう。



捜査手続き・手法に関して説明すべき点




 上記のような法律解釈上の疑問点について考え方を明らかにし、悪質性の評価に関しても基本的な考え方を示したうえで、説明すべきもう1つの重要な事項がある。それは、この種の事案の捜査手続き、捜査手法について、基本的にどのような方針を持っているかである。これが第5のポイントだ。

 刑事事件の捜査においては、逃亡の恐れまたは罪証隠滅の恐れなど身柄拘束の「必要性」があって、しかも「相当性」がある場合に、被疑者の逮捕、勾留が行われる。その判断は、事案の重大性と身柄確保の必要性を勘案して行われる。

 本件の大久保容疑者の場合、「必要性」について言えば、逃亡の恐れは考えにくいし、前記の法律解釈に関して筆者の見解を取るとすれば、本件の最大の争点は「政治団体の実体がなかった」と言えるのかどうかという客観的な事実なのであるから、これについて罪証隠滅の恐れは考えられない。

 したがって、そもそも逮捕の必要性には疑問がある。これに加えて、「相当性」については、事案の重大性がその重要な判断要素となるが、果たして本件が悪質・重大な政治資金規正法違反と言えるかどうかについても、先に述べたような重大な疑念がある。



これらの点を踏まえて、本件で、総選挙を間近に控えた時期に、野党第一党の代表の秘書をいきなり逮捕するという捜査手法が相当であり、任意で取り調べて弁解を十分に聴取したうえで、必要に応じて政治資金収支報告書の訂正を行わせるという方法では政治資金の透明化という法の目的が達せられない事案であったことを説明することが必要になる。



検察が説明責任を果たすことの意義




 一般的には、検察は捜査処理について説明責任を負うことはない。起訴した事件については、公判で主張立証を行い、その評価は裁判所の判決に委ねられる。また、不起訴にした事件について不服があれば検察審査会への申し立てという手段が用意されている。

 今回の事件について検察の説明責任が問題になっているのは、政治資金規正法という運用の方法いかんでは重大な政治的影響を及ぼす法令の罰則の適用に関して、不公正な捜査、偏頗な捜査が行われた疑念が生じており、同法についての検察の基本的な運用方針が、同法の基本理念に反するものではないかという疑いが生じているからだ。

 検察は、そのことの重大さ、深刻さを認識し、誠実に、真摯に説明責任を果たすべきだ。その説明が国民に納得できるだけのものでない場合には、不公正で偏頗な捜査が行われた疑いが一層顕在化することになる。検察は、その責任を正面から受け止めなければならない。

 もし、この点について説明責任が果たされることなく、今回の捜査による影響が日本の政治状況や、世論の形成に重大な影響を与える結果が生じた場合、それは、1つの司法行政機関によって、国や社会に対して一種の「テロ」が行われたのに近い効果を生じさせたということになろう。

 検察の説明を直接受けて報道する立場にあるのがマスコミ、とりわけ、司法担当記者だ。何ゆえに検察に説明責任が求められるのか、いかなる点について、いかなる問題を意識した説明が行われる必要があるのかを十分に理解認識したうえ、納得できるだけの説明を求め、その説明を客観的に評価して報道することが、民主主義の砦となるべき言論機関、ジャーナリズムの使命だ。

 そして、注目されるのが、民主党、自民党が、検察の説明責任の問題にどう対応するかだ。まさに民主主義政党としての両党の正念場だと言えよう。

 民主党は、小沢代表の進退を巡って党内で意見が対立し内紛の恐れをはらむ。一方自民党側には、二階氏をはじめ、本件と同様の手法で検察の摘発を受けることを懸念する議員が多数いるため、検察の捜査の前に足がすくんでいるというのが現状だ。

 しかし、両党は、今回の事件についての検察の説明責任の問題が、民主主義の根幹に関わる問題であることを改めて認識する必要がある。本当の意味での民主主義政党と言えるか、その真価が問われている。

 「実体のない政治団体」についての検察の説明いかんでは、政治資金規正法によって検察が摘発し得る範囲は無限に広がる。そのような団体から政治献金を受けた政治家は、いつ何どき検察の摘発を受けるか分からない。実際に摘発されなくても、それは検察に「お目こぼし」をしてもらっているだけであり、まさに、検察が政治に対して圧倒的に優位に立つということに他ならない。

 これまで、政治資金規正法の基本理念である政治家の自主自律による政治活動と政治資金の透明化への取り組みは極めて緩慢なものだった。そのため、度重なる「政治とカネ」を巡る問題が発生し、その度に国民の強い政治不信を招き、最終的に、今回のような検察の捜査が行われる事態を生じさせることにつながった。

 両党の政治家は、まず、そのことを痛切に反省し、政治資金の「規正」の在り方全体について抜本的な見直しに取り組むべきだ。そのためにも、今回の事件についての検察の説明責任の問題から目をそらしてはならない。」



植草一秀氏のブログ「知られざる真実」のご紹介

2009年03月23日 | Weblog
2009年03月23日 21時47分記載

URL http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/



記事タイトル:「国策捜査」=「知られざる真実」への認識拡散効果(3月23日掲載記事)



「「国策捜査」に対する国民の認識と関心が高まった。




国民は警察・検察、司法を中立公正の存在=正義の味方と考えがちである。しかし、実態は間違いなく違う。




この事実を実感として正しく認識している者は少ない。




テレビ局は警察・検察、司法を「HERO」として描くドラマを繰り返し制作する。考えてみればすぐ分かる。事件報道のニュースソースの大半は警察・検察情報である。




多くの企業が警察、検察から「天下り」を受け入れる。警察・検察の判断は規定に基づく機械的なものでない。巨大な「裁量」に基づく。「裁量」は簡単に「利権」に転化する。企業が警察・検察からの「天下り」を受け入れるのは、警察・検察に巨大な「裁量権」が付与されているからである。




漆間官房副長官が西松建設献金事件に関連して、「自民党議員に捜査が波及することはない」と発言したことが大きな問題になった。小沢一郎民主党代表の公設秘書が突然逮捕されたことが「国策捜査」であったことを、漆間氏が告白する結果になった。




記者クラブに所属する20人の記者が漆間官房副長官の発言を確認しながら、その後、漆間氏の責任を追及できなかったことに、報道機関と政治権力の癒着が如実に示されている。




「国策捜査」について、多様な定義が施されているが、難しく考える必要はない。政治権力が政敵を攻撃するために警察・検察権力を活用することが「国策捜査」である。「国策捜査」との判断をめぐる意見について、「ふじふじのフィルター」様 が示唆に富む考察を掲示してくださっているのでご一読賜りたい。




今回の小沢氏周辺に対する捜査は、典型的な「国策捜査」の一類型であると判断して間違いないと思う。各人の判断は異なるから、「私は今回のケースは「国策捜査」ではない」と考える人が登場しても不思議ではない。河村官房長官が記者会見で、「今回の捜査活動は「国策捜査」の一環である」と表明すれば決着はつくだろうが、恐らくそのようなことはしないだろうから、世間での評価は分かれるのだろう。




しかし、大久保隆規氏が逮捕された当初の段階で、小沢民主党代表が「検察権力の不当な行使」と述べた意味は大きかった。




小泉政権以降の自公政権が警察・検察権力を政治目的に活用してきていることは、関係者の間では常識に近かった。


 警察・検察組織は制度上、行政機関に分類される。行政機関の長として指揮命令系統のトップに位置するのが内閣総理大臣である。




裁判所は司法機関として行政権から独立していることとされるが、最高裁判所判事の指名権は内閣総理大臣にある。各裁判所の人事は最高裁に統括されるから、人事の運用方法によっては、内閣総理大臣は裁判所人事にも介入し得る。





報道機関は事件報道を警察・検察からのリークに依存する。事件捜査中に容疑者の供述内容や事件の背景などが「関係者によると」などの枕詞(まうらことば)とともに報道されるが、このほとんどすべてが当局からのリーク情報である。




報道機関はニュースソースを秘匿するから、情報源を確定することができない。ニュース報道は、「・・・が関係者への取材で分かりました」などと伝えるが、実際に報道機関が取材せず、検察のリーク情報などを書き換えていることがほとんどである。




マスメディアは所管官庁に許認可権限を握られている。NHKも予算を含むすべての監督権限を総務省に握られているから、政治権力に抵抗することができない。




民間のメディアは存立基盤をスポンサーに握られているから、スポンサーの意向に抵抗できない。スポンサーの大半は政治権力に対抗しようと考えない。政治権力に迎合する企業が大半を占める。




政治権力・大資本・外国資本・マスメディアは結託して「御用放送」を制作するのである。「官僚機構」も「天下り」維持の権益を確保し、利権互助会の一角を占める。




小沢民主党代表の公設第一秘書が逮捕され、マスメディアが小沢氏と民主党に対する土石流のような集中攻撃を実行したために、世論調査には少なからぬ変化が生じた。




麻生政権の支持率は僅かに上昇した。次期首相にふさわしい人物としての小沢氏の評価がやや低下した。政官業外電の悪徳ペンタゴンが、政権実現を死に物狂いで回避しようとしている現実が露わになった。




しかし、ネットにおける「国策捜査」批判の声も大きかった。自民党幹部は「国策捜査批判」を頭ごなしに否定したが、一般国民の受け止め方は違った。




①総選挙直前に野党第一党党首が狙い撃ちにされた
②秘書逮捕の容疑事実はこれまで報告書の修正で済まされてきた内容だった
③与党議員に大きな疑惑が存在するのに与党には捜査が及んでいない
④職務権限との関係では森喜朗氏、尾身幸次氏、二階俊博氏などへの政治献金の内容が明らかにされなければならないが、捜査が及んでいないこと
⑤マスメディアが小沢氏の「収賄」や「あっせん利得」を示唆するイメージ報道を繰り返したこと、

⑥マスメディアが検察批判をせずに、民主党批判を繰り返したこと
⑦マスメディアが小沢民主党代表の辞任を執拗に要求していること




これらの現実を冷静に見つめると、一連の捜査と報道の性格が誰の目にも浮かび上がってくる。




麻生政権は窮地に追い込まれて、禁じ手に手を染めてしまったのではないか。「天網恢恢疎にして漏らさず」というが、「過ぎたるは及ばざるがごとし」である。





政治権力が政権交代を阻止するために、手段を選ばぬ攻撃を仕掛けてくることがわかった。この点においては、今後も油断は許されない。巨大な国家権力を握っていることの意味は重大だ。




しかし、問題の一部が露見したことによって、新たな活路も開けてくる。国民に「知られざる真実」を伝えることの重要性が著しく増大した。




日本社会の暗黒化をこれ以上許してはならない。明るい社会、安心して暮らせる社会を実現するには、政権交代によって巨大権力を国民の側に取り戻さなければならないのだ。




小沢代表続投は短期的には政権交代可能性を低下させる選択に見えるかも知れない。しかし、より重要なことは、今回の小沢氏排除を狙う一連の経過の意味を広く国民に知らせることである。




「知られざる真実」 を国民に正確に伝え、日本の政治状況を根底から刷新する必要を訴えるには、当事者である小沢氏が先頭に立って進むことが必要だ。今回の国策捜査事件を風化させてはならない。」

なんか悪意を感じるよね

2009年03月22日 | Weblog
2009年03月22日 07時54分記載

URL http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090322-OYT1T00038.htm?from=main1



記事タイトル:「民主に失望」拡大60%、政権交代容認なお58%



「読売新聞社と早稲田大学の共同世論調査(面接方式)で、民主党に対する有権者のイメージが悪化していることがわかった。

 小沢代表の資金管理団体を巡る政治資金規正法違反事件が影響したとみられるが、与野党の政権交代を容認する世論そのものは依然として多数を占めている。

 読売・早大共同調査は、自民、民主両党に対する有権者の意識の変化が、次期衆院選の投票行動にどう影響するかを探ることが狙いだ。昨年10月から継続実施し、今回(3月14~15日実施)は4回目となる。

 民主に対する印象の変化を見ると、「期待している」と答えた人は47%で前回の55%を下回った。「失望している」は前回は50%だったが今回は60%に増えた。民主の政権担当能力についても「ある」が45%で前回の51%を下回り、さらに今回は「ない」の48%が多数となった。

 ただ、「民主に一度、政権を任せてもよいと思うか」を聞くと、「そう思う」は58%だった。前回の64%より下がったものの、昨年10月(58%)と同じで、「そうは思わない」39%を大きく上回っている。

 自民の政権担当能力については「ある」は61%(前回54%)に増えた。しかし、有権者の自民に対する印象は、「失望している」は73%(同75%)で高止まりし、「期待している」は37%(同36%)で横ばいだった。

 今回の調査は全国の有権者3000人を対象に実施し、1755人から回答を得た(回収率58・5%)。(2009年3月22日03時05分 読売新聞)」



自民党に「失望している」が73%だからね。記事タイトルとしては「自民党への失望依然70%を超える高水準」とかでもいいんじゃないの。自民は政権党だからね。野党叩きより、政権政党へのチェックが先なんじゃない、新聞社だったら。そんなに政権交代を阻みたいかね。



でもね、小沢が代表を辞めようが辞めまいが政権交代は実現するよ。熱心に政権交代阻止キャンペーンを張ってる読売さんにとっては残念だろうけど。



まあ、半年以内に結果は出るから。楽しみに待ちましょう。


読売新聞 3月21日付 編集手帳

2009年03月21日 | Weblog
2009年03月21日 13時19分記載

URL http://www.yomiuri.co.jp/editorial/column1/news/20090320-OYT1T01039.htm



「貴重な小判をもらったところで価値の分からぬ身では無意味だろうよ、と馬鹿(ばか)にされたり、くるくる変わる目玉を変節漢の形容に用いられたり、慣用句やことわざの世界で猫は気の毒である。〈猫の魚辞退(うおじたい)〉もその一つだろう◆好物の魚をやったら、猫が「いりません」と断った。本心とは思われず、裏に思惑があるらしい――ということで、「内心では望んでいるのに、うわべは遠慮すること」のたとえである◆民主党の小沢一郎代表が企業・団体献金を全面禁止する意向を表明したことが波紋を広げている。違法献金疑惑の渦中に巻き込まれるくらい“好物”なのだろうと勝手に思っていたので、〈魚辞退〉の提案には戸惑った◆企業・団体献金をもらうにしても節度を守り、疑惑を招かぬ政治家は大勢いる。火の不始末でボヤを出した人が「全戸で火の使用を禁止しよう」と唱えているような、筋違いの印象も禁じ得ない。与党野党を問わず、「あなたが火の用心をなさい」と言い返したい議員は多かろう◆政治家を猫にたとえるのは考えてみるとずいぶん失礼な話で、猫の皆さんには取りあえず謝っておく。(2009年3月21日01時43分 読売新聞)」



新聞の一面で嫌味を言っていないで、会社として、企業・団体献金についてどう考えるかを明らかにしてもらいたい。

読売は自民党と考えが同じなので、おそらく企業・団体献金には賛成だろう。



そうだとした場合、現在の小沢叩きのためのリーク情報の垂れ流しはどのような意味を持つのだろうか。



企業・団体による政治献金が悪であると考えているのなら、これまでの異常な報道の仕方も合点がいくが、そうとは考えていないのであれば、企業・団体による政治献金を受託収賄のように報じる意図はどこにあるのだろうか。政権交代の阻止であろうか。



繰り返しておくが、小沢秘書の逮捕容疑は政治資金規正法上の不実記載である。小沢の受託収賄でも、あっせん利得でもない。そして当然、小沢秘書には無罪の推定が働いている。有罪推定報道を、しかも、逮捕されているわけでもない小沢に対して行うのは異常ではないか。



新聞社が、小沢の地位に鑑みて、政治責任の追及をしているというのであれば、それはそれで一つの考え方であるのでそれもいいが、現在の読売の報道は、政治責任の追及というよりも、検察のリーク情報に基づく、法的責任を追及する有罪推定報道にしか見えない。



政治家は、公人として、私人たる国民よりも重い責任を負っているのは確かである。しかし、公人にも無罪の推定は働く。ましてや、逮捕されてもいない人間に対して、出所の怪しい情報を基に有罪推定報道を行うことは、断じて認められない。近代法治国家の原則にもとる報道の停止を望む。



職場の支えで「戦力」に

2009年03月21日 | Weblog
2009年03月18日 13時55分記載

URL http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/renai/20090310-OYT8T00262.htm

「元マラソン選手、松野明美さん(40)の次男でダウン症の健太郎君(5)の物語を紹介してきた。夫婦の今の気がかりは、「来月から保育園に慣れていけるかどうか」。とは言え、健太郎君にもこの先に長い人生が待っている。
 かつて短命と言われたダウン症だが、合併する心臓病の治療の進歩などで平均寿命は50歳を超え、今後、若い世代はさらに長命になると見られている。その中で、障害を持っていても、自立して暮らそうという流れが少しずつだが、社会に広がっている。
 東京都杉並区のスーパー「コモディイイダ浜田山店」で働くダウン症の千野真広さん(21)は、特別支援学校を卒業して、パートで働き始めて3年になる。鮮魚部門の裏方として、何十種類もある商品を店頭に出すために盛りつける。尾頭付きなら頭の置き方、イカの珍味なら量など、商品ごとに決まりがある。
 「仕事に慣れて、うれしいですよ」と笑顔を見せる。当初は決まりを覚えられず、生まれて初めて他人から厳しくしかられ、しゅんとなった。聞くよりも目で見た方が理解しやすいので、指示をメモし、見ながら作業することで間違いは格段に減った。7時間労働は体力と集中力が持たなかったが、現在の4時間なら大丈夫だ。
 ダウン症の雇用は初めてという店長の関根茂之さん(38)は、「現場の理解と支えで、今は戦力として働いてもらっています」と話す。「結婚して家庭を持つのが夢」という千野さん。契約更新時には、もう少し長い時間働きたいと申し出るつもりだ。
 ダウン症の人たちの中には、絵や楽器の演奏を身に着けて活動する人や大学を卒業した人もいる。しかし現実には、働く場所は限られている。多くのダウン症児にかかわってきた臨床遺伝医の長谷川知子さんは「社会性は育てられるので、受け入れ態勢があれば、働ける人は多い」と嘆く。
 「心配性なので、将来は不安」と言う松野さんに、「大きくなったら、うどん屋を開こうか」と健太郎君のおじいちゃんは言ってくれる。それでも、まだ5歳。夫の前田真治さん(41)は、「僕たちも、息子と一緒に成長していけたらと思う」と柔らかく構えている。
 約1000人に1人の割合で生まれてくるダウン症。生涯にわたる暮らしを支えるためには、社会も変わっていく必要がある。(館林牧子) (次は「読者の反響」です) (2009年3月10日 読売新聞)」



ご参考

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/renai/20090303-OYT8T00296.htm



http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/renai/20090304-OYT8T00206.htm



http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/renai/20090305-OYT8T00277.htm



http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/renai/20090306-OYT8T00289.htm



http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/renai/20090309-OYT8T00247.htm



日テレ社長辞任:問われる報道倫理 視聴者に著しい誤解

2009年03月17日 | Weblog
2009年03月17日 22時14分記載

毎日jp配信記事(URL http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090317k0000m040141000c.html )



「日本テレビの看板番組「真相報道バンキシャ!」の虚偽証言報道問題の責任をとり、久保伸太郎社長が16日辞任した。問題発覚から約2週間、新事実がないまま決まったトップの辞任。背景には、放送局の報道倫理に向けられた厳しい視線があるとみられる。【岩崎信道、佐々本浩材、山田尚弘】

 「内部告発まがいの話を聞いた最初の発端からすべての取材活動が問題だった」。16日辞任した日テレの久保伸太郎社長は、誤報の原因について何度も同じ言葉を繰り返した。

 岐阜県警の捜査関係者や日テレの説明によると、岐阜県の元建設会社役員は昨年11月上旬、インターネット上の情報提供サイトに「岐阜県内で談合がある」などと書き込んだ。「バンキシャ!」の取材班が全国の裏金問題を取材する中で、日テレの下請け制作会社スタッフが元役員の書き込みを見つけ、取材を始めたという。

 制作会社のスタッフ3人は同月中旬、同県中津川市で元役員に取材。元役員は「県土木事務所は今も裏金作りをしている」「県担当者からキャッシュカードを渡され追加工事で水増しした代金を振り込めと言われた」などとうその証言をした。

 取材経緯について足立久男報道局長は「最後のつめが甘かった」と説明していたが、振り込んだとされる通帳のチェックや県への具体的な内容確認は不十分だった。久保社長は「(足立局長の説明は)舌足らず。それ(最後のつめ)だけではない」と話し、取材態勢そのものに重大な瑕疵(かし)があったことを認めた。

 久保社長が辞任を考えたのは2月27日。報道局幹部が証言者から直接「虚偽の証言」と確認した時だったという。会見では「この程度で番組ができているのかと思われ、報道各社にも迷惑をかけた」と口惜しそうに語った。

 一方、各放送局は関西テレビ制作の「発掘!あるある大事典2」の捏造(ねつぞう)問題が発覚した07年1月以降、コンプライアンス強化に力を注いできた。

 関テレ経営陣の総退陣、民放連除名(08年10月復帰)など「身内」の処分にとどまらず、行政による放送内容の監視強化を盛り込んだ法改正検討の引き金となった「あるある」問題は、放送業界にとっていわば「トラウマ」。不祥事に対する処分決定や、関係者への謝罪など事後対応が迅速化し、勉強会を開いて社員の放送倫理向上に努める局も増えている。

 「あるある」ショックが薄れたころに発覚した今回の虚偽証言問題。放送評論家の松尾羊一さんは「報道番組への信用を傷つけたという点では『あるある』より深刻。取材対象の証言に寄りかかり、情報の裏取りをしなかったのは致命的」と話す。

 「バンキシャ!」は元日テレアナウンサーの福澤朗さん、女優の菊川怜さんらがキャスターを務め、事件、事故、不祥事などを検証するVTR映像を中心に構成。04年には北朝鮮へのコメ支援報道を巡り小泉純一郎首相(当時)の再訪朝への同行を一時拒否され話題となった。最近1カ月間の平均視聴率は約17・5%(関東地区)で、ビデオリサーチが公表する調査で毎週部門別上位に登場している。

 久保社長は会見で「ここ10年、報道を取り巻く環境が変わってきており、私が辞すことで全社員に重大性を認識してもらいたい」と発言。看板番組が報道の信頼性を傷つけたことを事実上認めた。

◇放送倫理委、特別調査へ

 「バンキシャ!」の問題を受け、NHKと民放でつくる第三者機関「放送倫理・番組向上機構」(BPO)の放送倫理検証委員会は特別調査チームを設けて実態解明のための審理に入ることを決めた。同委員会が審理を行うのは不二家について誤って報じたTBS番組(07年)以来、2例目だが、特別調査チームの設置は初めて。

 その審理入りを決めた13日の会合では、日本テレビが1日に「バンキシャ!」内で流した訂正放送について、視聴した委員から「日テレは自分たちをだまされた被害者だと思っているのではないか。とても訂正放送とは言えない」との強い疑問の声が相次いだという。

 同委員会は日本テレビに質問を出し、10日付でA4判10ページ以上の回答書を受けたが、この回答書についても、ある委員は「放送した責任についての反省はうかがえなかった」と指摘する。回答書には日本テレビ社内で事件取材を担当するデスクや記者らを集めた会合で出た意見も紹介されているが、委員からは「倫理の勉強をきちっとしていないのか」との批判も出たという。

 委員会設立のきっかけになった関西テレビによる番組捏造と同様に、委員会は今回のケースを「虚偽の内容により視聴者に著しい誤解を与えた」と判断した。委員長の川端和治弁護士は「取材の基本がきちんと踏まえられているのか疑問」と述べている。【臺宏士】」



日本テレビが反省していないことは、久保伸太郎社長が取締役を退任しない・相談役として社に居座ることを見ても、「日本テレビの天皇」とも言われる氏家齊一郎氏が何の責任も取らないことを見ても明らか。



こんな日本テレビの茶番を「引責辞任」などと報道するのはやめたらどうか。トップは何も責任を取っていない。

「ガダルカナル」化する特捜捜査

2009年03月17日 | Weblog
2009年03月17日 10時16分記載

「大本営発表」に惑わされてはならない



Author 郷原 信郎


プロフィール 桐蔭横浜大学法科大学院教授 コンプライアンス研究センター長

1955年島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事などを経て、2005年から現職。「不二家問題」(信頼回復対策会議議長)、「和歌山県談合事件」(公共調達検討委員会委員長)など、官庁や企業の不祥事に関与。主な著書に『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)のほか、不二家問題から事故米不正転売問題まで食品不祥事を幅広く取り上げた『食の不祥事を考える』(季刊コーポレートコンプライアンスVol.16)など。近著には『思考停止社会~「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)がある


URL http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090315/189047/



「民主党小沢代表の公設第一秘書の大久保氏が東京地検特捜部に、政治資金規正法違反(政治資金収支報告書の虚偽記載罪)の容疑で逮捕されてからおよそ2週間。衆議院議員総選挙を控え、極めて重大な政治的影響が生じるこの時期に、比較的軽微な政治資金規正法違反の事件で強制捜査に着手した検察側の意図、捜査の実情、今後予想される展開が、おぼろげながら見えてきた。



捜査は当初から想定された展開ではない




 この時期に検察があえて強制捜査に着手したことについて、「国策捜査」などの見方もあったが、どうやら、今回の検察の強制捜査着手は、これ程までに大きな政治的影響が生じることを認識したうえで行われたのではなく、むしろ、検察側の政治的影響の「過小評価」が現在の混乱を招いているように思える。

 その推測の根拠は、今回の強制捜査着手後に、東京地検の特捜部以外の他の部のみならず、全国の地検から検事の応援派遣を受けて行われている事実だ(3月8日付毎日)。

 検事の異動の大半は、定期異動で行われる。全検事のうちの3分の1近くが一斉に異動する年度末を控えたこの時期、事件の引き継ぎの準備を行いながら、捜査・公判の日常業務を処理しなければならない全国の地検はただでさえ多忙だ。そのような時期の応援検事派遣には検察部内でも相当な抵抗があるはずである。

 ましてや、今年5月には裁判員制度の施行を控えており、検察は、この制度を円滑に立ち上げることに組織を挙げて取り組んできたはずだ。この時期、定期異動に伴う繁忙を克服して、裁判員制度開始に向けての総仕上げを行うことが、裁判員制度導入の中心となってきた樋渡利秋検事総長の下の検察にとって、何はさておいても優先させなければならない事柄だったはずだ。

 そのような時期に、今回の特捜捜査に大規模な戦力投入が行われていることで、検察の他の業務に重大な影響が生じていると思われる。特捜部が担当する脱税事件、証券関係の事件の捜査処理の遅延だけではなく、裁判員制度の対象となる一般刑事事件を扱う検察の現場も相当な影響を受けているであろう。

 今そういう事情がありながら、あえて応援検事派遣も含む捜査体制の増強を行ったのであれば、よほどの事情があるからであろう。それは、強制捜査に着手したところ、民主党サイドの猛反発、強烈な検察批判などによって、予想外に大きな政治的・社会的影響が生じてしまったことに驚愕し、批判をかわすため、泥縄式に捜査の戦線を拡大しているということではないか。当初から、他地検への応援要請が必要と考えていたのであれば、強制捜査着手を別の時期に設定していたはずだ。

 民主党サイドだけへの偏頗な捜査と言われないように自民党議員にも捜査対象を拡大させる一方、小沢氏側に対しても、何かもっと大きな容疑事実をあぶり出すか、秘書の逮捕事実が特に悪質であることを根拠づけることが不可欠となり、その捜査のために膨大な人員を投入しているというのが実情だろうと思われる。



「大本営発表」を垂れ流す新聞、テレビ




 では、このような東京地検特捜部の捜査は、果たしてうまくいくのであろうか。

 3月11日の記事でも述べたように、今回、逮捕容疑の政治資金規正法違反事件には、「寄附者」をどう認定するかという点に関して重大な問題がある。献金の名義とされた西松建設のOBが代表を務める政治団体の実体が全くないということでなければ、大久保容疑者が西松建設の資金による献金だと認識していても収支報告書の虚偽記載罪は成立しない。そして、政治団体には実体が存在するかどうか疑わしいものが無数に存在するのであり、新聞では報じられていないが、この政治団体には事務所も存在し、代表者のOBが常駐し、一応活動の実態もあったという情報もある。団体としての実体が全くなかったことの立証は容易ではなさそうだ。

 もちろん、資金の拠出者の企業名を隠して行われる政治献金が、政治資金の透明化という法の趣旨に反することは明らかだが、そのことと犯罪の成否とは別の問題だ。とりわけ、政治に関する事件の処罰は厳格な法解釈の制約内で行わなければ、検察の不当な政治介入を招くことになる。



それに加え、自民党サイドへの捜査も、逮捕事実の悪質性を根拠づけるための捜査も順調に進んでいるとは到底思えない。特捜部の捜査は、戦略目的も定まらないまま、兵力を逐次投入して、米国軍の十字砲火の中に白兵銃剣突撃を繰り返して膨大な戦死者を出し、太平洋戦争の戦局悪化への転換点となったガダルカナル戦に似た様相を呈している。

 こうした状況の下で、新聞各紙は連日、1面トップで、今回の事件の捜査の展開や見通しを報じている。従来は、特捜事件に関する報道が「検察リーク」によるものと批判されてきたこともあって、記事は、「関係者によると」としたうえで、被疑者側の犯罪性や悪性に関する事実が述べられ、そこには「東京地検特捜部もこの事実を把握しているもよう」とつけ加えられるというのが、一つのお決まりのパターンだった。捜査機関側ではなく、被疑者側などの関係者への独自取材によって事実を把握し、その事実を捜査当局が把握していることも関係者側から聞いた、という前提の記事だ。被疑者側が自らに不利なことをベラベラしゃべり、また、それを特捜部側が把握していることまで教えてくれるということは考えにくいことだが、こうすれば一応外形的には「検察リーク」が否定できる。

 ところが、今回の事件の報道はやや雰囲気が異なる。新聞、テレビの特捜捜査報道では、「特捜部は…の調べを進めるとみられる」「特捜部は…と見ているもようだ」というような表現が目立つ。特捜部の捜査の意図・目的を推測しているような表現だが、何を根拠に推測しているのかはよく分からない。単なる憶測では記事にはならないはずであり、記事にするだけの根拠があるとすれば特捜部側に何らかの確認を取っていると考えるべきであろう。まさに「なりふり構わず」という感じで、検察当局側からの情報が垂れ流されているようだ。

 このような報道は、ある意味では捜査の動きを国民に伝えることにつながっていることも確かであり、捜査の動きが全く報じられないよりはましと言えなくもない。しかし、質問・疑問に答えることも、批判・反論を受けることもないという点では、捜査機関側の会見などの正式な広報対応に基づく報道とは決定的に異なる。当局にとって都合の良い情報だけが一方的に報じられるという点で、むしろ、戦時中の「大本営発表」とよく似ていると言うべきであろう。



捜査の現状と見通しを検証することが必要




 太平洋戦争中の日本では、連日、「大本営発表」によって、帝国陸海軍の戦果ばかりが報じられた。ミッドウェー海戦での海軍の大敗、ガダルカナル戦での陸軍の大敗を機に戦局が急速に悪化していることは全く報じられなかった。

 そして、大本営発表による華々しい戦果ばかりを聞かされていた日本の国民は、戦況を客観的に認識することもできず、「帝国陸海軍の不敗神話」を信じ破滅的な敗戦に巻き込まれていった。

 日本は、その敗戦から復興し、奇跡の経済成長を遂げ、世界第2位の経済大国となったが、昨年秋以来の未曽有の経済危機によって、経済の基盤が根底から揺らぐ深刻な事態に陥っている。そうした中で行われている今回の特捜捜査は、経済対策を主導すべき政治の世界を大混乱に陥れているだけでなく、バブル経済崩壊後の最安値を更新した証券市場の下落などの経済問題から国民の目をそらす結果にもなっている。

 政治の世界の透明化を目的とする政治資金規正法違反の事件の捜査を、重大な政治的影響を与えつつ行っているのだから、捜査機関の側にも可能な限り透明化、説明責任を果たすことが求められるのが当然だ。しかし、残念ながら、現在まで検察はその責任を全く果たしておらず、その代わりに行われているのが、捜査の成果を一方的に報じる「大本営発表」だ。そうであるのなら、その「大本営発表」を客観的に分析し、捜査の現状と見通しを可能な限り検証してみることが必要であろう。



二階氏側への捜査には政治資金規正法の「大穴」




 まず、二階氏側に対する容疑事実の1つは、派閥の政治資金パーティー券を西松建設のOBが代表を務める政治団体の名義で購入していた問題だ。これについては、今回の逮捕容疑の小沢代表側への寄附と同様の問題がある。政治資金規正法は、資金の拠出者の公開までは求めていないので、西松建設が政治団体の名義でパーティー券を購入したとしても、ただちに違法となるわけではない。その政治団体が全く実体のないダミーで、しかもそれを二階氏側が認識していたことが立証できなければ違反には問えない。



二階氏側への「裏金供与疑惑」問題も報じられた。3月8日付の毎日新聞は、西松建設が「二階俊博経済産業相側に直接、現金を提供していた疑いがあることが、関係者への取材で分かった。政治資金収支報告書には記載されていない『裏献金』の可能性もあるとみられる」と報じている。この事実は最も悪質な政治資金規正法違反として立件可能と思われるかもしれない。

 しかし、そこには政治資金規正法の「大穴」が立ちはだかる。それは、政治家側に直接渡った裏金について、政治資金規正法違反の事実をどう構成するかという問題だ。

 政治資金規正法は、政党や政治団体の会計責任者に政治資金収支報告書の作成・提出を義務づけている。国会議員であれば、個人の政治資金管理団体のほかに、代表を務める政党支部があり、そのほかにも後援会など複数の政治団体があるのが一般的だ。このような政治家が、企業側から直接政治献金を受け取ったのに、領収書も渡さず、政治資金収支報告書にも全く記載しなかったとすれば、政治資金の透明化に露骨に反する最も悪質な行為だ。

 しかし、このような「裏献金」の事実について政治資金規正法違反で刑事責任を問うとすれば、どう構成すれば良いのか。違反事実として考えられるのは、企業等は政党または資金管理団体以外に対して寄附をしてはならないという規定に違反する寄附を受領した事実か、受領した寄附を収支報告書に記載しなかったという虚偽記載の事実だ。その「裏献金」が、政治家個人に宛てたものか、資金管理団体、政党支部などの団体に宛てたものかがはっきりすれば、政治資金規正法のどの規定に違反するのかが特定できる。しかし、裏金は、最初から寄附を表に出すことを考えていないのだから、政治家個人宛か、どの団体宛かなどということは考えないでやり取りするのが普通だ。結局、「政治資金の宛先」が特定できないので、政治資金規正法違反の事実が構成できず刑事責任が問えないのだ。

 自民党長崎県連事件の場合は、「裏献金」が、正規に処理される「表の献金」と同じ形態で授受されていたので、個人ではなく県連宛の寄附と認定することが容易だった。しかし、政治家個人が単独で受け取った場合のように、政治資金の宛先がはっきりしない場合には、違反事実の特定は困難だ。

 同じ政治献金でも、職務権限との関係が立証できないために賄賂にならない「贈収賄崩れ」のような裏金のやり取りは、政治資金の透明化という法の趣旨から言うと最も悪質な行為であるにもかかわらず、違反の立件が著しく困難なのだ。

 かねて政治資金規正法は「ザル法」だと言われてきた。しかし、実は、そのザルの真ん中に「大穴」が空いているのだ。政治資金規正法の罰則は、刑事処罰の一般的な考え方になじまない面がある。悪質な違反行為の一部に例外的に適用できる武器でしかない。

 このような立件の困難さがようやく認識されたためか、二階氏側への裏金寄附に関する記事は、その後はほとんど報じられていない。自民党サイドへの捜査の展開は著しく困難な状況になっているものと考えられる。



ゼネコン捜査は無謀な「白兵突撃」




 それに代わって、にわかに活発になったのが、東京地検特捜部が東北地方の大手ゼネコンなどの一斉聴取に乗り出したことを報じる「大本営発表」だ。3月12日には、「東北の業者一斉聴取」(朝日)、「ゼネコン数社を聴取」(読売)などの見出しの記事が一面トップを飾っている。

 これらの記事によると、代金の水増し支払いなどでゼネコン側が資金を負担して下請け業者に献金をさせる「迂回献金」が小沢氏側に行われており、その背景に公共工事を巡る談合構造が存在したとのことだ。これらの捜査の意図はどこにあるのだろうか。

 まず、この「迂回献金」や公共工事を巡る談合などに関する小沢氏側の新たな犯罪事実を立件できる可能性はほとんどないと言ってよいだろう。



「迂回献金」は、政治資金の寄附行為者の開示だけが義務づけられ、資金の拠出者の開示を求めていない現在の政治資金規正法上は違法ではない。また、2005年の年末、大手ゼネコンの間で「談合訣別宣言」が行われ、2006年以降は、公共工事を巡る談合構造は一気に解消されていった。現時点では2006年3月以前の談合の事実はすべて時効が完成しているので、談合罪など談合の事実自体の立件は考えにくい。また、談合構造を前提にした「口利き」などでのあっせん利得罪の時効期間も同じであり、立件は考えられない。

 そうなると、今回の建設業者への捜査は、新たな犯罪の立件のためではなく小沢氏の秘書の逮捕事実の悪性を根拠づける証拠の収集のための捜査としか考えられない。

 実際に、それ以降の新聞記事には、「特捜部は、西松建設による違法献金の背景にある、東北地方の談合構造を調べている」(3月14日付読売)、「東京地検特捜部は、ゼネコン各社も同じ趣旨で代表側に献金を続けていた疑いがあるとしてダム工事をめぐる受注経緯の解明を捜査の焦点の一つとしている模様だ」(同日付朝日)などと、捜査の目的が談合構造の解明、とりわけダム工事と政治献金との関係の解明にあることが報じられている。

 中には、「小沢代表はこれまでの記者会見などで、『公共工事について、口利きやあっせんを行った事実は一切ない』などと話している」(3月14日付読売)と、わざわざ小沢氏の会見での言葉を引用して、小沢氏の特捜捜査批判の矛盾を強調したり、「ゼネコン関係者は『東北の公共工事で小沢事務所の影響力は絶大。大久保さんが了承しないと、チャンピオンは最終決定とはならなかった』と証言している」(14日付産経)などと、既に、特捜部が小沢事務所の談合受注への影響力の解明という「大戦果」を挙げたように報じている記事もある。

 これらの「大本営発表」によれば、今回の大手ゼネコンなどへの一斉聴取の目的は、東北地方の公共工事を巡る談合構造の下での受注者の決定に大久保容疑者が強い影響力を持っていたこと、小沢氏側への政治献金は、談合受注の見返りの趣旨だったことを明らかにすることで、逮捕容疑となった西松建設側からの政治献金が実質的に贈収賄に近いものだったという事件の悪性を立証することにあるようだ。



単純ではない談合受注の構造




 しかし、前に述べたように、そもそも、この政治献金が違法と言えるかどうかに重大な問題があることに加えて、仮に違法であったとしても、3月11日の記事でも述べたように、談合受注の構造は決して単純なものではない。

 ゼネコン間の談合構造の下での公共工事の受注者決定は、受注希望の有無、技術力、経営規模、同種工事や近隣工事の受注実績、発注者への協力の程度など様々な要因を考慮し、さらに、自治体の首長や有力政治家の意向なども考慮して受注予定者を絞り込んでいくという複雑なメカニズムだった。この中での個別の工事の受注と、個別の政治献金との対価関係は、必ずしも直接的なものではない。

 朝日新聞などでは岩手県内のダム工事の一部を西松建設が受注したことと逮捕容疑の小沢氏側への政治献金の関係を問題にしているが、国土交通省発注の工事について、発注者側への影響力を有しているとは思えない野党側の小沢氏側に、果たして、談合による受注者の決定に影響を及ぼすことが可能なのであろうか。しかも、このダムは総工費2000億円を超える巨大なダムであり、10年以上も前からの企画・設計の段階で、ゼネコン側から発注者への協力が行われ、その積み重ねが落札につながる。入札に近い時期の政治献金が直ちに受注に結びつくような単純な話ではない。



談合受注に影響力を与え得るのは、基本的に「客先意向」つまり、発注官庁側から何らかの意向が示された場合だ。政治家の「口利き」の影響力も発注者側への働きかけを通して及ぼされるのが通常だ。小沢氏側がその「客先意向」に影響を及ぼし得るとすれば、まず考えられるのは地元の岩手県だが、当時の県知事の増田寛也氏(前総務大臣)が、地元紙の取材に対し、「2期目(1999年~2003年)以降は小沢氏との関係が疎遠になり話もほとんどしていない」といった趣旨のことを述べている(3月16日付岩手日報)。岩手県での発注者への「口利き」の立証は極めて困難だ。

 小沢氏側が、西松建設だけではなく、他の大手ゼネコンからもかなりの額の政治献金を受けることができたのは、岩手県を中心に地域社会での有力者だったことによるものであろう。地域の有力者には、「あいさつ」をして、つながりを保っておくことで、受注の邪魔をされないようにする必要があり、そのために、「保険料」的な意味で政治献金を行ったというのが実態であろう。



捜査の早期終結と政治資金の透明化に向けて取り組みを




 このように考えると、東北地方のゼネコン関係者の一斉聴取によって、逮捕容疑の政治資金規正法違反の悪性の立証につながる証拠の収集に関して具体的な「戦果」が挙がっているとは考えられない。

 しかも重要なことは、ゼネコン間の談合構造は2006年以降解消され、その後は、むしろ、猛烈なダンピング競争になっているということだ。「過去の遺物」となった談合構造を、3年以上も経った今になってあたかも現在も続いているかのように問題にされるのは、経済危機による深刻な経営悪化にに直面する大手ゼネコンにとって迷惑極まりない話だ。

 今回の特捜捜査は、政治的にも極めて重大な影響を生じさせているだけでなく、経済社会的にも深刻な影響を与えている。しかも、裁判員制度の施行を控えた時期に、膨大な人員が今回の事件の捜査に投入されることは、制度の円滑な施行に向けての総仕上げの準備業務にも影響を生じさせることになりかねない。

 私は決して裁判員制度に賛成ではないし、これまで、様々な形で反対の意見を表明してきた(「裁判員制度が刑事司法を崩壊させる」など参照)。しかし、そのような反対意見にも全く耳を貸さず、ここまで裁判員制度の導入に向けて突き進んできたのが検察だ。制度の施行まで2カ月、もはや導入がどうしても回避できないところまできたのであれば、せめて制度導入のために最後まで最善の努力を尽くしてほしい。今になって「裁判員制度などそっちのけ」で今回の事件に膨大な労力をかけるのは、あまりに無責任ではないか。

 ガダルカナルの緒戦、わずか2000名の一木支隊は、帝国陸軍の伝統的戦法である「白兵銃剣による突撃」をもってすれば米軍の撃破は容易だと信じて1万3000人の兵力の米軍基地に突撃し、ほとんど全滅した。しかし、「帝国陸軍の不敗神話」を信じた日本軍は、兵力を逐次投入し、2度にわたる総攻撃を行って惨敗を喫し、その後も撤退の決断が遅れたために膨大な数の兵士が島に取り残されて餓死した(『失敗の本質~日本軍の組織論的研究』戸部良一ほか)。

 そして、ようやく日本軍が撤退の決断をした際、大本営発表は次のように報じた。

 「ソロモン群島のガダルカナル島に作戦中の部隊は昨年8月以降、激戦敢闘克く敵戦力を撃摧しつつありが、その目的を達成せるにより、2月上旬同島を撤し、他に転進せしめられたり」

 今回の事件の捜査の経過と現状が、これまで述べてきた推測の通りなのであれば、展望のないまま捜査をこれ以上長期化・泥沼化させることは絶対に避けなければならない。それは、ただでさえ政治、経済の両面で危機的な状況にある日本を一層深刻な状況に陥れることになりかねない。

 検察は、「特捜不敗神話」へのこだわりを捨てて事件を早期に決着させ、今回の捜査の目的と経過について国民に説明責任を果たすべきだ。そして、政治の世界では、この事件を機に、与野党ともに政治資金の現状についての自主的な調査を行うこと、政治資金規正法の「大穴」をふさぐための立法措置を行うことなど、政治資金の透明化に向けての具体的な方策を講じ、極限に達している政治不信の解消に努めるべきだ。」

バンキシャ虚偽報道で日テレ社長が引責辞任

2009年03月16日 | Weblog
2009年03月16日 17時58分記載

URL http://sankei.jp.msn.com/economy/business/090316/biz0903161522004-n1.htm



「日本テレビ放送網は16日、久保伸太郎取締役社長執行役員(64)が同日付で辞任し、取締役相談役に退くことを明らかにした。同社の報道番組「真相報道バンキシャ!」で虚偽証言に基づいて岐阜県の裏金問題を報じたことの引責辞任とみられる。

 久保氏本人から申し出があったという。細川知正取締役会長執行役員(68)が社長を兼務する。

 日テレをめぐっては3月9日、「バンキシャ!」内で「岐阜県の土木事務所では今も裏金づくりをしている」などと虚偽の証言をし、県の業務に支障を生じさせたとして、元土木建設会社役員の男(58)が偽計業務妨害の疑いで岐阜県警に逮捕された。報道での証言が虚偽とされて立件に至るのは極めて異例。

 証言は昨年11月に放送され、岐阜県が約2カ月間にわたって調査し、「裏金の事実は確認できない」との結論に達していた。

 日テレ側は3月1日放送の「バンキシャ!」で、「視聴者、岐阜県と県議会にご迷惑をおかけしました」と陳謝。5日には、足立久男報道局長ら幹部が県庁を訪れ、古田肇知事に「取材の最後の詰めが甘かった」と頭を下げた。

 一方、第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」の放送倫理検証委員会は番組を審理することを決め、特別調査チームが日テレ側から話を聞くことにしている。」



日テレのホームページの会社概要のページ( http://www.ntv.co.jp/info/index.html )を見てみるとこう書いてある。



『代表取締役 氏家齊一郎
 代表取締役 間部耕苹
 代表取締役 細川知正
 代表取締役 久保伸太郎』



この、久保伸太郎氏が、取締役も退任せず、代表権を返上するだけらしい。これで責任を取ったと言えるのか。



責任を取るべきは、「日本テレビの天皇」とも言われる氏家齊一郎氏ではないのか。

【衝撃事件の核心】異例の立件「バンキシャ!」虚偽証言 日テレが乗った迫真ストーリー

2009年03月16日 | Weblog
2009年03月15日 14時46分記載

URL http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090315/crm0903151301007-n1.htm



「日本テレビ系の報道番組「真相報道バンキシャ!」の取材に、「岐阜県の土木事務所では今も裏金づくりをしている」などと虚偽の証言をし、県の業務に支障を生じさせたとして3月9日、元土木建設会社役員の男(58)が偽計業務妨害の疑いで岐阜県警に逮捕された。証言は昨年11月に放送され、岐阜県が約2カ月間にわたって調査を行う事態に。報道での証言が虚偽とされて立件に至るのは極めて異例で、取材や報道のあり方が根底から問われるケースとなった。日テレ側はなぜ、うそを見抜くことができなかったのか-。



契約再点検955件、聴取380人


 「県の担当者から『工事をやったように見せかけ、裏金を捻出(ねんしゅつ)してくれ』といわれた」「200万円送金した」

 昨年11月23日に日本テレビ系列で放送された「バンキシャ!」。建設会社関係者を名乗る匿名の男は、モザイクの向こう側から「岐阜県の土木事務所は今も裏金をつくっている」と衝撃的な証言をした。証言は後日、系列局の中京テレビ(名古屋市)のニュース番組でも放送された。

 岐阜県では平成18年に約17億円の裏金問題が発覚し、職員4000人以上が処分されている。

 それだけに県は「信頼回復に向けて取り組んでいる最中で、本当なら重大事」と判断し、放送直後から約2カ月かけて大規模な調査を実施した。県内11の土木事務所の職員ら約380人から事情を聴取したほか、平成20年度分を中心に計955件の工事契約内容を再点検し、「裏金の事実は確認できない」との結論に達した。

 県は、この間の通常業務に支障が出たとして、2月19日、偽計業務妨害容疑で男を県警に告訴。3月9日になり、証言した土木建設会社「美濃建設」の元営業担当役員、蒲(がま)保広容疑者(58)=同県中津川市駒場=が県警に同容疑で逮捕された。

 「警察や消防署にいたずら電話をかけて偽計業務妨害で逮捕されることはあるが、報道機関にうそをついたことがきっかけで立件されるのは非常に珍しいケースだ」

 捜査幹部はそう話す。



実は、この逮捕の前に蒲容疑者は中津川市の元道路建設係長(44)と共謀し、架空の工事を発注して市から約80万円をだまし取った詐欺事件で逮捕、起訴されている。日テレ側には、この手口を基にして「市」を「県」に置き換えた偽ストーリーを語ったのだという。

 県警の調べによると、蒲容疑者は過去、他局の報道番組に数回出演し、出演料などの名目で数千円~2万円の現金を得ていた。

 今回の取材は、蒲容疑者がインターネット上の「アンケートサイト」に情報提供の書き込みをしたことが端緒とされている。サイトは特定されていないが、蒲容疑者は過去にも同種のサイトに書き込みをしたといい、「借金があったので、小遣いを稼ぎたかった。今回も(謝礼の)金がもらえると思った」と供述しているという。

 ただ、今回の「裏金証言」については、出演料の交渉も金銭の授受も確認されていない。



「取材の詰め甘かった」…日テレ平謝り


 県や日テレの説明などによると、取材の経過は次のような流れになる。

 日テレ側は、社員のプロデューサーや下請け制作会社のディレクター、カメラマンなどによる混成の取材チームを編成。社外のスタッフが蒲容疑者と接触し、「裏金」に関する銀行カードや出入金記録、小切手などを示されながら説明を受けた。

 県に対しては、スタッフ3人が昨年11月7日、「会計検査院から指摘された不正経理について」との名目で取材。「架空口座が私的に使われている」と質問し、「把握していない」との回答を受けた。

 しかし県は、「土木事務所や該当工事などを具体的に挙げて質問されなかったし、聞いても教えてくれなかった」(広報課)という。

 日テレ総合広報部は「取材の詳細については申し上げられない」としながらも、「金の流れについてさまざまな人間が検討し、提示された証拠にも整合性があると判断した」と放送に至った経緯を説明する。



県は調査終了後の2月18日、証言内容について日テレ側に再確認を要請。日テレ側が蒲容疑者に再取材したところ、「裏金を送金した事実はない」と証言を翻したため、報道した内容の支えを失ってしまった。

 実際、証言と事実関係には“矛盾”があり、裏付け取材によって証言の信憑(しんぴょう)性を疑うことは可能といえた。

 蒲容疑者は架空工事でつくった裏金について、「(昨年)11月5日に送金した」「年間500万から1000万」などと証言していたが、蒲容疑者の会社が県から受注した工事は18年度と19年度に1件ずつで、20年度は1件もなかったのだ。

 日テレ側は3月1日放送の「バンキシャ!」で、「視聴者、岐阜県と県議会にご迷惑をおかけしました」と陳謝。5日には、足立久男報道局長ら幹部が県庁を訪れ、古田肇知事に「取材の最後の詰めが甘かった」と頭を下げる事態となった。

 同社は番組担当者の処分も検討。一方、第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」の放送倫理検証委員会は番組を審理することを決め、特別調査チームが日テレ側から話を聞くことにしている。



情報提供の落とし穴…「特ダネほど慎重に」


 今回の一連の問題は、マスコミの取材手法や報道のあり方について大きな課題を投げかけた。

 「逮捕状を執行するほどの事案だったかは疑問だが、軽率な取材と報道が刑法犯を生んでしまった。日本テレビはだまされた被害者ではなく、倫理的責任がある」

 こう指摘するのは、立教大社会学部の服部孝章教授(メディア法)だ。

 服部教授は「放送前の確認にもっと手間をかけられたのではないか。人や時間など労力をかけないとミスは起こる」とし、「今回の事件を受けて、各マスコミが内部告発などの裏を取って報道する手法を敬遠するようになってしまえば、社会全体にとって大きな損失だ」と話した。



複数の民放関係者によると、「バンキシャ!」のように、テレビ局の正社員と番組制作会社のスタッフがチームを組んで取材すること自体は、珍しいことではない。

 それだけに、「制作会社やフリーの記者を使って取材しても、放送できるかどうかの最終チェックはテレビ局の社員が責任を持ってやることが重要になる」(民放の報道番組プロデューサー)という。

 一方、報道機関には一般から情報が寄せられ、ネット上にも多種多様の情報があふれている。中には取材の端緒となり、スクープにつながる良質な内容の情報もあるが、単なる伝聞や誹謗(ひぼう)中傷を目的とした悪質なものも少なくない。

 蒲容疑者のように、謝礼金目当てに情報提供を持ちかける人間が存在するのも事実だ。

 ジャーナリズム論を専門とする立正大文学部の桂敬一講師は「メディアにとってネットや内部告発は情報を得る大きな武器になるが、きちんとした裏付け取材なくして、真贋(しんがん)の判断はできない。扱う情報が増え、目先のネタを追いかけるのに苦労している感じがする。生き残りをかけ、『とにかく受ける情報を出していこう』という安直な発想がメディア全体にあるのではないか」と話す。

 メディアでの「証言」をめぐっては、「週刊新潮」が1~2月に連載した「朝日新聞社襲撃事件の実行犯手記」をめぐる騒動が記憶に新しい。この手記は、実行犯を名乗る男が新潮社に手紙を送ったことがきっかけとされているが、朝日新聞が「虚報」と反論するなど波紋を広げた。

 「どのような背景を持った人間が、どのような意図で情報を提供するのか。特ダネであればあるほど、慎重に見極めないといけない。それができなければ報道の信頼性を損なうのはもちろん、真の内部告発者の協力も得られなくなってしまうだろう」

 桂氏はそう警鐘を鳴らしている。」

裏金誤報 日テレ番組で謝罪

2009年03月16日 | Weblog
2009年03月15日 14時33分記載

URL http://chubu.yomiuri.co.jp/news_top/090302_2.htm



「岐阜県は証言者告訴

 

 日本テレビ系の番組「真相報道バンキシャ!」で2008年11月に放送された「岐阜県庁で新たな裏金作り」の報道について、日本テレビが岐阜県に「内容は誤りだった」と謝罪していた問題で、同県は1日、「裏金作りが続いている」と番組内で匿名で語った男性に関し、虚偽の証言で確認作業に時間を取られ業務を妨害されたとして、氏名不詳のまま偽計業務妨害容疑で県警に告訴したと発表した。日本テレビは1日の同番組で謝罪したが、誤報と認めた理由については「男性が証言を翻した」と述べるにとどまり、番組では裏付け取材の実態などを説明しなかった。

 08年11月23日の「バンキシャ!」では、元建設会社役員と名乗る男性が匿名で登場。県土木事務所の職員が工事代金を水増しして自分の会社に発注し、水増し分の約200万円を還流させた、などと語った。これを受け、県は県内11の土木事務所の職員約350人から事情を聞くなどしたが、不正は確認されず、話は虚偽と判断したという。

 男性は、県側への送金の証拠として銀行の出入金記録を示していたが、日本テレビは1日午後6時からの同番組終盤の1分半を割き、「新たな取材に、元役員は送金記録は自ら改ざんしたもので、裏金を送金した事実はなかったと証言を翻した」と内容を訂正し、「大変迷惑をおかけした」と謝罪。また、男性について、放送の2か月後に、同県中津川市から公金を詐取したとして詐欺容疑で逮捕された人物であることを明らかにし、男性が、この事件の構図を岐阜県に置き換えてうそをついたとした。この事件では、同市の元係長とともに、土木建設会社元役員(58)が逮捕、起訴されている。

 裏付け取材について、日本テレビ総合広報部は、読売新聞の取材に対し、岐阜県側に証言内容を示して真偽を確認する作業はしていなかったと説明。その理由を「取材源の秘匿のためだった」としている。

 同部によると、男性の取材にあたったのは、社員のプロデューサーや社外スタッフから成るチームで、県には、裏金作りがまだ行われているかどうかだけを聞いた。県は裏金作りを否定したが、男性が示した出入金記録などから証言内容を真実と判断したという。

 同県では06年に大規模な裏金問題が発覚、再発防止策を講じていた。

 桂敬一・立正大講師(ジャーナリズム論)の話 「報道番組でこれほどずさんな取材が行われていたことに驚く。取材源の秘匿のためという説明は理解しがたく、不十分な取材の口実にされただけという印象だ。また、取材源秘匿を理由に挙げておきながら、1日の謝罪放送では、取材源が特定できる形で経緯を説明している。矛盾しているうえに、大きな問題を残した」(2009年3月2日 読売新聞)」


代表秘書逮捕、検察強制捜査への疑問

2009年03月14日 | Weblog
2009年03月14日 19時01分記載

民主党は率直に反省し、政治資金透明化の好機とせよ



Author 郷原 信郎



プロフィール 桐蔭横浜大学法科大学院教授 コンプライアンス研究センター長

1955年島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事などを経て、2005年から現職。「不二家問題」(信頼回復対策会議議長)、「和歌山県談合事件」(公共調達検討委員会委員長)など、官庁や企業の不祥事に関与。主な著書に『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)のほか、不二家問題から事故米不正転売問題まで食品不祥事を幅広く取り上げた『食の不祥事を考える』(季刊コーポレートコンプライアンスVol.16)など。近著には『思考停止社会~「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)がある



URL http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090310/188674/?top



「遅くとも半年余り先には「天下分け目」の衆議院議員総選挙が確実に行われるという時期に、世論調査では、次期総理候補の人気で麻生首相を圧倒的にリードしている民主党小沢一郎代表の公設第一秘書が、東京地検特捜部に逮捕され、日本中に大きな衝撃を与えた。

 容疑は、政治資金規正法違反。小沢氏の資金管理団体である陸山会が、西松建設から政治資金の寄附を受け取ったのに、それを同社のOBが代表を務める政治団体からの寄附であるように政治資金収支報告書に記載したことが虚偽記載に当たるというものだ。

 これに対して、小沢氏側は、記者会見で、容疑を全面的に否定、検察の捜査が不公正だと批判、民主党側からは「国策捜査」との批判も行われた。その後、小沢氏の会見での発言内容に反する事実が各紙で大きく報じられたこともあって捜査批判はトーンダウンしつつあったが、内閣官房副長官が「自民党側には捜査は及ばない」と発言したことが問題になったこともあって国策捜査批判が再燃。検察は、他地検の検事も増員して同じ政治団体から寄附等を受けていた自民党側議員にも捜査の対象を拡大すると報じられている。

 100年に1度とも言われる経済危機が深刻化する最中、政治を大混乱に陥れている今回の事件だが、検事時代、自民党長崎県連事件など多くの政治資金規正法違反事件を捜査してきた私の経験からすると、今回の検察の捜査にはいくつかの疑問がある。

 しかし、小沢氏はその問題とは切り離して今回の問題について率直に反省し、民主党は政治資金の透明化に向けて新たな取り組みをしていく好機と捉えるべきである。



違反の成立に問題はないのか




 まず、小沢氏側の会計処理が本当に政治資金規正法違反と言えるのかどうかに問題がある。

 この法律では、「寄附をした者」を収支報告書に記載することとしており、陸山会の収支報告書では西松建設のOBが設立した2つの政治団体が寄附者として記載されている。その記載が虚偽だというのが今回の容疑だが、政治資金規正法上、寄附の資金を誰が出したのかを報告書に記載する義務はない。つまり、小沢氏の秘書が、西松建設が出したおカネだと知っていながら政治団体の寄附と記載したとしても、小沢氏の秘書が西松建設に請求書を送り、献金額まで指示していたとしても、それだけではただちに違反とはならない。

 政治資金規正法違反になるとすれば、寄附者とされる政治団体が実体の全くないダミー団体で、しかも、それを小沢氏側が認識していた場合だ。捜査のポイントはこの点を立証できるかどうかだが、全国に数万とある政治団体の中には、政治資金の流れの中に介在するだけで活動の実態がほとんどないものも多数ある。西松建設の設立した政治団体が全く実体がないダミーと言えるのかは、微妙なところだ。

 もちろん、政治資金の流れの透明性を高めるという政治資金規正法の目的から考えると、実質的な拠出者も収支報告書に記載して公表するのが望ましいことは確かだが、政治資金の規正は、ヤミ献金をなくし、収入の総額を正確に開示することを中心に行われてきたのが現実で、資金の実質的拠出者の明示の公開とは程遠い段階だ。法律の趣旨を達成するために今後実現していくべきことと、現行法でどこまで義務付けられ、罰則の対象とされているのかということとは別の問題だ。



小沢氏が会見で「資金の出所は詮索しない」と発言したこともあって、資金が西松建設から出ていることを小沢氏側が認識しているかどうかに関心が集中し、あたかもそれが捜査のポイントであるように報じられているが、違反の成否という点からすると、問題は、政治団体が実体のないダミーと言えるかどうか、それを小沢氏側が認識しているかどうかだ。



事件の重大性・悪質性はこの時期の摘発に値するものか




 今回の事件は、総選挙を控えた時期に次期首相の筆頭候補と言われていた野党第一党党首の秘書を逮捕することで重大な政治的影響を及ぼした事件だ。この事件は、こうした重大な影響を生じさせてまで強制捜査に着手すべき事件と言えるのか。

 これまで政治資金規正法で摘発されてきた事件は、違反の態様が特に悪質か、金額が多額か、いずれかであった。

 政治資金規正法は、昔はほとんど形骸化していた。1990年代までは、政治資金規正法のルールを完全に守っている政治家などほとんどいなかったのではないか。2000年以降、政治とカネの問題が取り上げられる度に、政治資金の透明化の要求が高まり、少しずつではあるが透明化の方に向かってきた。

 今回の容疑事実の大部分は2003年から2004年にかけてだが、ちょうどこの時期に摘発された自民党長崎県連事件、日歯連事件、坂井隆憲代議士事件などと比較すると、寄附の総額が4年間で2100万円、しかも、すべて表の寄附で、その寄附の名義を偽った疑いがあるというだけの今回の事件は、規模、態様ともに極めて軽微であることは否定できない。むしろ、この当時の政治献金は、大手ゼネコンから政党や政治家への寄附は、自社の名義で行われるとは限らず下請業者、取引先業者に行わせたり、今回の事件のように政治献金をするための政治団体を設立して行ったりしていたものも多かった。

 しかも、このような政治献金の見返りとして個別の工事の受注が可能になるような場合であれば、職務権限の関係で贈収賄にはならなくても、一つの悪質性の要素になると言える。しかし、具体的な公共工事の受注との間に直接的な対価関係があるかというと、それはほとんどないというのが実情だった。

 業者間の話し合いや情報交換が行われて、その中でどこかの特定の会社に受注予定者が絞り込まれていくのがゼネコン間の談合システムだった。技術力や実績、工事の特性、発注者側への事前協力の有無など、いろいろなことを考慮して受注予定者を1社に絞り込んでいく。その過程で、発注者側の有力者や、地域の有力者などにも、受注業者となることについて了解を得て、関係者すべてのコンセンサスを得ておく必要があった。それをやっておかないと、入札直前になって横やりを入れられ、そのコンセンサスが崩れてしまう恐れがある。そうすると、せっかくの苦労が水の泡になり、入札前に施工の準備まで整えていたのに、すべて無駄になってしまう。

 そこで有力者にはいろいろなところに目配りをして挨拶をして、最後の最後に、文句を言われないようにしないといけない。そういう挨拶の構図が重畳的に出来上がっているというのが一般的だった。その有力者については、与党の県連の幹事長が力を持っていたり、あるいは議長が力を持っていたり、知事が力を持っていたり、あるいは有力代議士が力を持っていたりなど、いろいろだ。しかも、それは業界内で有力者と認識されているだけで、本当に力を持っているかどうかは分からない。受注業者側は「保険料」のつもりで、有力者と思えるところに挨拶に行き、求められればお金も持っていくという世界だった。そういう談合の構図なので、いくら調べても直接的な対価関係は出て来ない。

 そういう構造というのは、当時はほとんど全国共通だったと考えられる。政治献金というのが特定の工事における受注の対価だということ、対価の明確性を持っているということはあまりない。本件についても、ダム工事を西松建設が受注していたことと政治献金との直接的な対価関係があるとは考えにくい。しかも、小沢氏は、この当時、自由党の党首から民主党との合流で民主党副代表になった時期、国発注のダムについて発注者側に対する影響力があるとは考えられない。有力者と言っても、工事を円滑に進めていくための地域のコンセンサスを得るための挨拶の一環と考えるのが自然だろう。



2005年末の談合排除宣言によってゼネコン間の談合構造が解消され、政治献金をめぐる構図も大きく変わっていった。それ以前の過去の時点に遡れば違法の疑いがある政治献金は相当数あるはずだが、こうした過去の一時期に形式的に法に違反したというだけで摘発できるということになると、検察はどの政治家でも恣意的に捜査の網にかけることが出来てしまう。政治資金規正法で摘発する事件は、他の政治家が一般的に行っているレベルよりも明らかに悪質性が高い事案、収支報告書の訂正などでは済まされないような事案でなければならない。

 新聞報道などでは、事件の悪性を可能な限り強調しているように見えるが、そのような報道を見る限りでも、今回の事件が、このような時期に、重大な政治的影響を与えてまで強制捜査を行うべき悪質・重大な政治資金規正法違反とは思えない。



小沢氏・民主党側の対応は適切だったか




 小沢氏は、今回の秘書逮捕を受けて、翌日、記者会見を行い、検察の捜査を「従来のやり方を超える異常な手法。政治的にも法律的にも不公正な国家権力、検察権力の行使」と批判し、秘書の政治資金規正法違反の事実に関して、「政治団体からの献金と認識しており、金の出所を詮索することはない」と言って、容疑を全面的に否定した。これを受けて、民主党の鳩山幹事長も、「国策捜査のような雰囲気がする」などと検察を批判した。

 これらの対応が、今回のような事件で秘書が逮捕され、政治生命にも関わる重大な危機に直面した時の野党党首の対応として適切だったと言えるであろうか。

 まず、検察の捜査を「異常な手法、不公正」と批判した点である。鳩山幹事長の「国策捜査」発言と相まって、民主党全体が、検察捜査を批判し全面対決をしようとしている印象を与えることになった。予想していなかった秘書の逮捕で精神的に動揺し、感情的になっていたのかもしれない。しかし、「国策捜査」というのが政府・与党と結託して政治的意図で捜査を行うことという意味であれば、検察がそのような捜査を行うことはあり得ない。検察自身の捜査方針が政治的意図に影響される余地が全くないとまで断言はできないが、その点は、摘発された事件の中身が明らかになってから、具体的に問題を指摘すべきだ。強制捜査着手直後の段階で「国策捜査批判」を展開することは、そのような不当な捜査が一般的にもあり得るという前提で批判しているように受け取られかねない。

 同様に、不適切であったのは、「金の出所を詮索することはない」と述べた点である。企業が資金を出して政治献金を行う場合、その企業からのものであることを政治家の側に認識してもらわなければ献金する意味がない。政治団体の政治献金の資金の拠出者が西松建設だったのであれば、少なくともその点についての認識があると考えるのが常識であろう。その常識に反する弁明をしたために、その後、新聞で、秘書と西松建設側が直接献金先についての話をしていたことなど、弁明を覆す事実が指摘され、イメージを悪化させることにつながった。

 しかも、前に述べたように、政治資金規正法違反の成否のポイントは、西松建設が資金の拠出者であったことの認識があったかどうかではない。政治団体が実体のないダミーであったか否か、その点について小沢氏側に認識があったか否かなのである。会見での小沢氏の弁明が、議論の焦点をそのポイントからずらすことにつながった。



このような小沢氏の不適切な対応に同調したために、民主党全体に対する国民のイメージも少なからず悪化することになった。対する麻生内閣の方も、あまりに不人気であることから、支持率の極端な悪化にはつながっていないが、そうでなければ、与野党の支持率の関係に決定的な影響を及ぼしかねない対応であった。



民主党は今後どうすべきか




 では、今後、民主党は、どうすべきか。

 ここで何より重要なことは、政治資金規正法違反の成否という法的責任の問題と、「政治資金の透明化」に向けての政党としての取り組みの問題とを区別することだ。

 検察の摘発は、厳格な法解釈により、しかも厳正中立、不偏不党の姿勢で行われなければならないことは言うまでもない。今回摘発された事件が本当に違法だと立証できるのか、それが強制捜査、逮捕という手法が事件の中身と比較して適切か、という点に疑問の余地があることは既に述べたとおりである。しかし、それは、検察の責任において明らかにすべき事柄であり、そのことと、民主党という政党が、政治資金の透明化に対してどのような姿勢で、どのような取組みをすべきかとは別問題である。

 今回問題にされている政治献金について、小沢氏側が西松建設からの資金と認識していたとしても、それだけでは違法とは言えない。しかし、それは、与党も含む政治家の政治資金処理の実情が、まだまだ透明とは到底言えない現状の下で、政治資金規正法という法律による規正のレベルが、その程度にとどまっているということであって、この数年、野党第一党として、政治資金の透明化を一層進める取り組みをしてきた民主党が「違法でなければよい」などという考え方で対応してもよいということでは決してない。

 民主党は、党首の政治資金に関して検察の摘発を受けたことを機に、全議員の政治資金に関して、政治献金の実質的な拠出者を明らかにするための緊急調査に着手し、その結果を国民に開示すべきである。そして、国会議員に、寄附の受領又は政治資金パーティーの購入に当たって資金の拠出者を確認する義務を課す政治資金規正法の改正を政権公約に掲げるべきである。それが、民主党にとって「法令遵守」から脱却し、「社会的要請に応えること」に向けての行動と言えるであろう。



「公共工事受注企業からの政治献金の全面禁止」はどこへ




 今回の事件の政治献金が行われたのと同時期の2003年の早春、長崎は燃えていた。

 検事の数が野球チームにも満たない日本最西端の中小地検、長崎地検が、全庁一丸となって取り組んだ半年にわたる検察独自捜査。その苦闘の末にたどりついたのが、自民党長崎県連事件だった。県連幹事長らによるゼネコン各社への県発注工事の受注高に応じた露骨な寄附要求の実態を明らかにし、政党への政治献金に対するものとしては史上初めての公選法の罰則適用を行い、直前に議員辞職していた県連幹事長と事務局長を逮捕、ゼネコンから県連への多額のヤミ献金の事実をも暴き出し政治資金規正法違反で起訴。パーティー券収入を裏金にした同法違反で県議会議長を略式起訴し、公民権停止で失職に追い込んだこの事件は、政権政党の地方組織の不正に斬り込んだ事件として全国的にも大きな注目を集め、国会での「政治とカネ」をめぐる論議のきっかけにもなった。

 この時、国会で、小泉自民党の追及の先頭に立ったのが菅代表率いる民主党、それを受けて民主党が打ち出したのが「公共工事受注企業からの政治献金の全面禁止」のマニフェストだった。

 公正で清潔な政治を追求していた、あの時の民主党はどこに行ってしまったのか。

 今回の事件を機に、民主党が、政治資金透明化に向けて大きく動き出せば、旧来の自民党の体質にも大きな脅威となるであろうし、それによって自民党が変わることは、日本の政治全体を大きく変えることになるかもしれない。

 小沢氏は、検察との無用な対立・対決などに国民の関心を向けさせてはならない。法的責任については、反論・主張を刑事手続の中で粛々と主張し、適切な判断を期待していくほかない。談合構造解消前の過去のことであり、違反の成否、事案の重大性と摘発の相当性には反論の余地があったとしても、結果的に政治資金の透明化が不十分であったことは否定できないはずだ。その点を率直に反省し、今回の事件による党内の混乱を一刻も早く収拾し、政治資金透明化に向けての取組みの環境整備に努めることが、多くの国民が次の政権を担う野党として期待している民主党の党首としての使命と言うべきではなかろうか。 」

政治資金規正法の虚偽記載の故意とは?

2009年03月14日 | Weblog
2009年03月14日 18時54分記載

URL http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/



Author 水口洋介弁護士



「■政治資金規正法の虚偽記載って?



民主党の小沢一郎議員の公設秘書の逮捕について新聞では次のように被疑事実が記載されています。

調べによると、大久保秘書は、実際は西松建設の政治献金であることを知りながら、03~06年分の陸山会の政治資金収支報告書に、西松建設のOBが代表を務めていた政治団体「新政治問題研究会」(95年設立、06年解散)と「未来産業研究会」(98年設立、06年解散)から計2100万円の寄付を受けたとする虚偽の記載をしたという。(朝日新聞3月4日)

罰則は政治資金規正法25条1項3号の12条違反ということなのでしょうか?

第25条 次の各号の一に該当する者は、5年以下の禁錮又は100万円以下の罰金に処する。
(1号、2号 略)
3号 第12条第1項若しくは第17条第1項の報告書又はこれに併せて提出すべき書面に虚偽の記入をした者


(第12条第1項には、政治団体の会計責任者の報告書提出義務が記載されている。)


■形式犯



政治資金規正法は複雑でわかりにくいですが、これはいわゆる形式犯ですから、虚偽であるか否かは形式的な事実認識が問われるはずです。つまり「新政治問題研究会」などという政治団体が存在しないことを知りながら、あえて存在すると記載することが虚偽記載になるのであって、もし「新政治問題研究会」が実在するのであれば、そう書いたからといって虚偽記載ではないということになるのが普通の形式犯の虚偽という故意についての解釈でしょう。お金には色はついていませんから。

でも、西松建設名義の預金口座から直接にお金が出され、新政治問題研究会の銀行口座に直接に振り込まれ、それがそのまま小沢氏の政治資金団体である陸山会に振り込みにより寄付されていた場合には、新政治問題研究会は実在していたとしても、ダミーということになります。それを会計責任者が知っていた場合にはどうなるでしょうか。

検察は、これも虚偽記載として立件するつもりのようです。しかし、実在する新政治問題
研究会の預金口座から直接に振り込まれている場合に、それをそのとおり記載することが「虚偽記載」ということになるのでしょうかねえ。

もし、正しく記載するとしたら、西松建設が寄付者ということになります。だが、お金は間違いなく、新政治問題研究会の名義の銀行口座から振り込まれているのですから、西松建設が寄付したとして報告書に記載すると、それが虚偽ということになりかねません。

その意味で、このような形式犯の虚偽記載について、実質的な認識を問うということになるのは通常の形式犯の故意の考え方とずいぶん違う解釈をするように思います。裁判になれば、けっこう大きな法律問題になるのではないでしょうか。

■本件か、別件か?

通常は、こういう形式犯としての逮捕は別件で、本件があるというのが、今までの特捜のやり口だったのではないでしょうか。小沢一郎氏の公設秘書逮捕については、まだまだ、今後の動きが注目されます。

■しかし、漆間官房副長官(元警察庁長官)って・・・

警察庁長官と言えば、法務省や検察庁と強いパイプを持っているとしか考えられないポジションです。しかも、オフレコでの発言をしたということになれば、何らかの情報を得たうえで話していると考えるのが普通です。

漆間発言の結果、検察としては自民党関係者も事情聴取をせざるを得なくなります。検察としては、中立公正を行動で示す必要がでてきますからねえ。漆間官房副長官の、まあ、なんていう愚かな発言なのでしょうか。

でも、こんなトンマな発言をする漆間元警察庁長官って、周囲からは一切信用されておらず、重要な機密情報なんかは集まらないような人なのかもしれません。

ひょっとしたら、本当に単なる軽口だったのでしょうかね? もし、そうだとしたら、そんな人物がわが国の官房副長官だというのも、なんか寂しいものがあります・・・。」