「お姉様、エルマンてヴァイオリンで偉い?」 「えゝ、そうよ、日本へも来た人でしょ」 「そう、お邸の蓄音器のレコードに エルマンて人の奏いた、 アヴェ・マリアってのがあるでしょう。・・・」 (中略) 「でも私上手になったら真っ先にアヴェマリアの 曲を奏けるように練習するつもり。 だってお姉様の1番お好きな曲ですもの。 私他の曲よりも、それが1番上手になりたいの」 無邪気にも一生懸命の望みを籠めて言う 妹の言葉に初子は、瞬間ふっと涙を感じた。 【吉屋信子著 「空の彼方へ」】 |
今朝は、かなり冷えましたが、日中は暖かくなりました。
今の季節は日射しがあるのとないのとでは大違い。
あるとぽっかぽか。一気に春の様相です。
ただ、お天気は下り坂との事。
「春に3日の晴れなし」 とは良く言ったものですね。
ところで、こちらは今、梅が盛りです。
お隣の枝垂れ白梅も、散り始めているのもあって。
その白い小さな花びらが、まるで雪のように我家にもひらひら。
私は、今日も吉屋信子ですが、いつも穴蔵では能がありませんね。
今日は穴蔵を出て、梅と鶯と一緒です。
~なんて。勿論、本物ではありませんけれど。大きな扇子です。
そして改めて写真で見ますと、折目が汚ないこと!
(ずっと折り畳んでいました)
肉眼ではそんなにも思わなかったのですが・・。
こすれば剥げてしまうので、どう仕様もありません。
汚れは無視して。ちょっとした移動カフェです。
本題に入りましょう。
一昨日に引き続き、吉屋信子著 「空の彼方へ」。
この小説の書かれた時期は、昭和2年から3年、
雑誌 「主婦の友」 に連載されたようです。
「恋愛編」、「受難編」、「復活編」 の3部作から成る長編です。
主人公の初子は、美しい三人姉妹の長女。
小学校の教師をしています。
身体の弱い母親を助け、(骨董商を幅広く営んでいた父親は
既に死亡。母親は、上記のお邸の家政婦)精一杯、頑張っています。
そうそう、今日の引用文にも登場の、
ヴァイオリンを習っているのは、三女の末子。盲目の美少女です。
この時代の女性の常なのでしょうか、
長女の責任感と言いますか・・使命感には相当なものがありますね。
おまけに今となっては初子の事を1番愛していたと思うのですが、
お邸の三男、茂との恋愛。
甘やかされて育った事もあり、茂はあっちにフラフラ、
こっちにフラフラ。 おまけに茂と次女仲子との結婚に至っては・・。
自分の恋を諦め、仲子を応援する側にまわるのです。
茂にしてみれば、もののはずみで口にした結婚でしたのに。
そして起こった関東大震災。
自分は安全な所にいたのに、盲目の妹を案じ、
妹を助けようと家に引き返したために震災の犠牲に。(妹は既に避難)
どこまで薄幸な女性なのでしょう。涙なくしては読めない小説です。
それにしても初子の恋人、茂。あまりにものいい加減さに腹が立ちます。
ちょっと 「男の償い」 の滋にも似て。
偶然にも漢字こそ違え、同じ 「シゲル」 ですものね。
ところで今、読んでいるこれらの本。
母の蔵書だった物ですが、昭和50年出版(朝日新聞社)なのに定価2500円。
2700円のもあります。今より余程、高いではありませんか・・。