Bill Evans / Empathy ( 米 Verve V6-8497 )
MGMに売却後のヴァーヴのアルバム群は、概ねステレオ盤の方が音がいい。60年代に入って録音自体はステレオ録音だったろうから
これは当たり前のことで、今更どうこういうような話でもない。それは、ビル・エヴァンスのアルバムも例外ではない。
ヴァーヴ移籍後の第1作であるこのアルバムはシェリー・マンのドラムが非常に雄弁に語る素晴らしいアルバムで、ジャケットで損をしているが、
ヴァーヴ期のエヴァンスの中では最も出来がいい。アーヴィング・バーリン、フランク・レッサーらの知られざる名曲を掘り起こした選曲が
見事にハマっていて、これがこのアルバムを特別なものにしているように思う。
シェリー・マンがこんなにいいドラマーだったなんて、このアルバムを聴くまでは気が付かなった。エヴァンスと言えばベースとの対話ばかり
語られるけれど、ここでは完全にドラムとの対話が繰り広げられている。シェリー・マンは本当に喋っているようなドラミングをしていて驚く。
エヴァンスも "The Washington Twist" では明るい表情をしたかと思えば、"Danny Boy" では深く憂いに満ちた抒情を見せて、
表現の振幅の大きさが素晴らしい。
ステレオ盤は適度な残響と部屋いっぱいに大きく拡がる音場感で、ああ、時代が変わったんだなあということを実感する。
リヴァーサイド盤を聴いた後でこれを聴くと、部屋の中の空気がガラッと入れ替わったような感じがする。優秀な音だと思う。
Bill Evans / Empathy ( 米 Verve V-8497 )
ただこのアルバムは1962年と比較的早い時期いうこともあって、モノラル盤の方も出来がいい。ミックス・ダウンの影響で楽器の配置感が
悪いのが難点だが、音圧が高くて迫力はある。ヴァン・ゲルダー録音だが盤面に彼の刻印はないので、マスタリングやカッティングには
関与しなかったのかもしれない。それが良かったのだろう。
このアルバムに関してはステレオ、モノラルのそれぞれに固有の良さがあり、勝負は引き分け。