Phineas Newborn Jr. / Harlem Blues ( 米 Contemporary S76634 )
エルヴィンが入っているのが珍しい。エルヴィンは共演者の演奏をよく聴いて、その人に1番合う演奏をする人だったそうだが、ここでも確かに
フィニアスのピアノをよく聴き、上手く彼を乗せるサポートをしているのがわかる。そのおかげで、音楽に躍動感がある。
フィニアスの演奏は初期の頃と比べるとすっかり様子が変わっている。多少食い気味で突っ走る若々しさや猛々しさは消え、ブロック・コードで
主題を処理したり、間を長く取ったリフを多用するなど、まるで別人のようなプレイになっている。フィニアスやオスカー・ピーターソンのような
技術力の高いピアニストはスタンダードのメロディーを崩す際に似たような傾向を見せるが、ここでのそれは以前よりもテンポを抑えた禁欲的な
崩し方をしていて、その抑制感がちょうどいい塩梅に着地しているように思う。
管楽器を入れた録音が少なく、ピアノトリオというフォーマットにこだわりを見せた人で、演奏の仕方には大きな変化があったが音楽の内容が
変化することはなかった。このアルバムも1969年2月にロサンジェルスのスタジオで録音されたもので、時期的にはジャズという音楽も大きく
様変わりしている頃で、そういう状況からは完全に逸脱している。少し引いてみると時代から大きく取り残されたような寂しさがあるけれど、
その翳りのようなものがなぜか私には愛おしく感じられる。リリース時もきっと大した話題にもならなかっただろうと思うけれど、私にはなぜか
惹かれるところがこのアルバムにはある。大丈夫、ちゃんと聴いているよ、と言いたくなる。