Lonnie Liston Smith / Make Someone Happy ( 米 Doctor Jazz FW 40612 )
ロニー・リストン・スミスが活躍したのは70年代。 時節柄、純ジャズではやっていけなかったこともあってか、いわゆるフュージョン/レア・グルーヴ系で
気を吐いていた。 アルバムはたくさんあり、フライング・ダッチマンやコロンビアの諸作は其の筋では鉄板の評価になっている。 私もそのほとんどを
聴いているけど、一番好きなのはRCA Victorの "Live!" 。 これはもう最高の内容で、これを聴いてると嫌なことなんてすべて忘れてしまう。
でも、これらの作品はレコードでは1枚も持っていない。 こういう音楽は外に持っていくべき音楽であって、家の中でじめっと聴く気にはなれないから。
その路線で成功したお陰で80年代に入っても基本的には流れは変わらずにアルバムリリースは続くけれど、なぜかポツンとアコースティック・ピアノの
トリオ形式でスタンダード集を1枚残している。 レコードオタクのジャズおやじとしては、当然これが安レコ買いの対象となる。
これを聴けばわかる通り、この人は過去の巨匠たちの影響がどこにもない。 誰にも似ていない、みずみずしいジャズ・ピアノを弾いてる。 フレーズも
今まで聴いたことがないようなものばかりで、まったく新しい語法でジャズのスタンダードをやっているのがとても新鮮だ。 年代的に断層があったせいかも
しれないし、これまでのキャリアの中で身についたものなのかもしれない。 いずれにしても、これだけのピアノ・トリオ作品が作れるのであれば、もっと
ジャズのアルバムを作ればよかったのにと残念に思う。
まあ、そういうのを作ったところで大して売れるわけでもないから、本人的には別に面白くもないのかもしれないけど、レア・グルーヴ系の作品で顕著だった
センスの良さを想うと、それがジャズに活かされなかったのはジャズの世界の側から見れば何とも勿体ないことだった。 彼も時代の流れに押し流されて、
上手くそれを乗り切ったとは言え、ジャズの世界(そういうジャンル分けには意味がないことは承知の上で)には十分な足跡が残らなかったわけで、
そのせいでジャズ愛好家の視界にこの人の姿が入ってこないのが如何にも残念だと思うのだ。