廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

レイ・エリス・オーケストラの美しさが乗り移った最高傑作

2019年01月20日 | Jazz LP (Columbia)

Billie Holiday / Lady In Satin  ( 米 Columbia CL 1157 )


ヴォーカル・アルバムの成否はバックの伴奏の出来で決まる。 歌手の歌唱がどんなに良くても、伴奏の演奏がつまらないとアルバムとしての魅力は無くなる。
更に、バックの演奏は歌手に大きな影響を与える。 伴奏が雄大であれば歌もそうなるし、バックが薄っぺらいと歌唱も自然と表面的なものになる。
そういう意味で、ヴォーカル・アルバムは総合芸術的色合いが強い。

ビリー・ホリデイ晩年の最高傑作であるこのアルバムを聴けば、この音楽的感動はレイ・エリスのオーケストラの素晴らしさに依るところが大きいのは明白だ。
そして、この伴奏がやつれたビリー・ホリデイの歌唱を前へ前へと強く引っ張っていっているのがよくわかる。 そういう相互作用が働いている様子が生々しく
捉えられているところに、このアルバムの深みの1つがある。 単にビリーの歌声や40人編成のフル・オーケストラの弦楽の重奏の美しさだけでは、ここまで
感動させられることはなかっただろうと思う。

それにしても、彼女のしゃがれた歌声とオーケストラの美しさの対比の凄さは壮絶すぎる。 オーケストラの美しさが彼女の声を際立たせながらも、
その美しさが彼女に乗り移っていく様が凄すぎる。 ビリー・ホリデイ自身の人格やその背景の物語を大きく超えた力がこのアルバムには働いている。
そしてコロンビアが最高の音質でこれを録音した。 圧倒される音場の広さと深さで、すべてを録り切っている。 この音の良さはちょっと次元が違う。
この録音がコロンビアで本当に良かった。

このアルバムは1958年2月の録音で、彼女は翌年の7月に亡くなる。 この録音時の彼女の酷い衰え様にレイ・エリスは驚いたそうだし、マイルスは1959年の
初め頃に彼女に会ったのが最後だったそうだが、その時のクスリを買う金を彼に無心してくる彼女は見るに忍びない様子だったという。 そんな状態で録られた
というのがとても信じられない、傑作という言葉だけでは表現しきれないアルバム。 これは何があっても外せない1枚である。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 日本人にしか作れないレコード | トップ | 短信~気長に探して »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
初めまして (Taro.i)
2019-01-24 22:12:42
初めまして。いつも楽しく、興味深く読ませていただいております。
情というか、晩年のビリー・ホリディは自分が歳を重ねるほどに愛着が増していきます。

アルバム中の2曲でトランペットソロをとっているのはマイルスではなくメル・デイヴィスではないでしょうか?ジャケット裏面のテキストにもそのように載っております。僭越ながらご指摘差し上げます。
返信する
Unknown (ルネ)
2019-01-25 05:22:07
はじめまして。 コメントありがとうございます。
そうだったんですね。 それなら納得です。 昔よく読んでいたHPにマイルスがソロをとった、と書かれていたので、
ずっとそうなんだとばかり思っていました。 まあ、全然スタイルが違いますもんね。
修正致しました。 ご指摘ありがとうございました!
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Jazz LP (Columbia)」カテゴリの最新記事