The Pat Britt Quintet / Jazz From San Francisco ( 米 Crestview Records CRS 3075 )
名前を知っている演奏家は1人もいない。 おそらくサン・フランシスコで活動していたローカル・ミュージシャンたちだったのだろう。 アルトと
ヴァルヴ・トローンボーンの2管編成で1968年に録音されている。 主役のパット・ブリットは他にもアルバムがあるみたいだが、ウィキペディアにも名前が登録されていない。
でも、これが飾り気がなくてなかなかいい。 ハード・バップとモーダルのハイブリットのような感じだけど、ストレートなジャズだ。 どこかで
聴いたようなフラグメントもちらほら見られるけど、不器用ながらも一生懸命取り繕いながら演奏していて、いつの間にか好感をもって聴いている
自分がいる。
1968年と言えばフリーやファンクの嵐も過ぎ去って、瓦礫が覆う荒地のような風景だったろうけど、そういう荒涼とした地方都市の片隅で細々と
こういうジャズが残り少ない木々を燃料に小さく頼りなく揺れている薪の炎のように生き残っていた。 そうやってあちこちに点在していた
ひとコマを偶然切り取ったかのような、ありふれた日常の中の何気ない音楽のように聴こえる。 "Jim Beam Blues" なんてタイトルがそれを
物語っている。
アルトとヴァルヴ・トロンボーンの組み合わせって他にあったかな、と考えたけど思い付かない。 私が知らないだけかもしれないが、あまり
見かけない構成なのは間違いない。 でも、特にハーモニーの妙を聴かせようとするでもなく、各々がストレートに吹き進んで行く。
そういう素っ気なさもかえって好ましい。
A面の最後に置かれた "Let's Play" という曲は欧州ジャズのような雰囲気があったり、"Nancy" では枯れた抒情が切なかったり、聴き所もしっかりと
ある。マイナー感いっぱいの安っぽいつくりのレコードだけれど、どこか心に残るところのあるレコードだ。