廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

若き日の別顔

2022年07月23日 | Jazz LP (Riverside)

Chuck Mangione / Recuerdo  ( 米 Jazzland AM 84 )


チャック・マンジョーネと言えば、奇妙な帽子を被った長髪の男がラッパを抱えて能天気に笑っている姿を反射的に思い出す。
実際に抱えているのはフリューゲルホーンで、彼の大ヒット作の "Feel So Good" でもその甘い音色を聴くことができるが、ジャズの愛好家
からはこういうのはジャズから脱落した音楽として嫌われる。だから、それをやっているマンジョーネ自身も相手にされない。

そんな彼も、デビューした時はリヴァーサイドに籍を置き、短い期間ながらもハード・バップをやっていた。兄弟名義がメインだったが、
こうして本人名義のアルバムも残している。ウィントン・ケリーのトリオをバックにした本格的な内容で、これがなかなか聴かせる。

サックス奏者のジョー・ロマーノとの2管編成だが、冒頭のタイトル曲のダーク・ムード漂う曲想をミュート・トランペットの切ない音色が
物悲しく歌い、このアルバムの核になっている。ビ・バップ調の曲もあれば、渋めのスタンダード、マイルスへの敬意としての "Solar" など、
一筋縄ではいかない凝った構成で、かなりよく考えられた内容だ。ウォーレン=ゴードンの "I Had The Craziest Dream" での抒情感は
その若さに似合わない成熟感があり、彼がこの時点で既に優れた音楽家であったことを証明している。

純度の高いストレート・ジャズであり、ロマーノの好演も手伝って、変な色の付いていない好感度の高い内容だ。アドリブ・ラインもよく
歌っており、演奏もしっかりとしている。ウィントン・ケリーのトリオもいつもの明るい音色でバンド・サウンドのカラーに貢献している。

1962年の録音当時、彼は22歳。人生はこれからで夢はたくさんあっただろうが、主流派ジャズは既に瓦解して水は枯れており、
これをやるには残念ながら遅すぎた。もちろん、それは彼の責任ではなく、運が悪かったに過ぎない。ジャズの仕事は激減しており、
ここでは喰うことすらままならなかっただろう。もう10年早く生まれていれば黄金期に一端のトランペッターとしてキャリアを蓄えて
来たる60年代を乗り越えることもできたかもしれないが、経験の蓄積がない状態では路線変更せざるを得なかったのかもしれない。
だから、その後の彼の仕事を簡単に馬鹿にする気にはなれないのである。

後年の姿からは想像できない、この暗い影の中からほんのりと浮かび上がる彼の顔を見ていると、湧き上がってくる憐憫の情を
抑えることができず、つい同情的に聴いてしまう。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ゴルソン・カラーに染まった佳... | トップ | ナット・アダレイは歌う »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Jazz LP (Riverside)」カテゴリの最新記事