Phineas Newborn Jr. / The Newborn Touch ( 米 Contemporary S7615 )
既に評価が確立した定番の名盤ばかり聴いていても、音楽は面白くない。それは他人の価値観であり、自分には何の関係もない。言ってしまえば、
ネットなんか見ているようではダメだ、ということだ。人間は見ると欲しくなる生き物で、ネットに載った音盤で自分が持っていないものだと、
つい欲しくなる。でも、そういう他人の後をついて回るような買い方をしていても、心はいつも満たされず、渇いたままだ。
フィニアス・ニューボーンJr. も定番の "Here Is Phineas" や "A World Of Piano" だけ聴いて済ませても、その良さはわからない。この人の場合は、
話題にならない他のアルバムの方がずっと味わい深い。そういうことはネットには書かれておらず、実際に聴いてみて初めてわかる。
だから、ネットなんか見てる暇があるなら、実際にレコード屋に行って、音盤を手に取って聴くほうがいいのである。
このアルバムは、ジャズ・ミュージシャンが作った秀逸なオリジナル曲だけを取り上げた、ある種のコンセプト・アルバムになっている。そんなことは
どこにも書かれてはいなけれど、これは明らかにそういう陽の当たらない優れた楽曲にスポットライトを当てようと意図されたものだということが、
実際にレコードのレーベル面に書かれた曲目を見て、聴いてみて初めてわかる。A面だとベニー・カーター、ラス・フリーマン、ハンプトン・ホーズ、
アート・ペッパー、オーネット・コールマン、というコンテンポラリー・レーベルに所縁の深い人たちが作った、実は名曲である楽曲を丁寧に選んだ
とても優れた内容だ。
ペッパーの "Diane" は有名だけど、この中ではフリーマンの "Double Play" やオーネットの "The Blessing" が素晴らしい。こういう曲を選んでいる
慧眼が素晴らしいし、フィニアスの音数を抑えた演奏が素晴らしい。代表作と言われる先の2作などはテクニックバリバリの覇気のあるプレイが
圧巻だけど、少し弾き過ぎで、ジャズのフィーリングに欠けるところがある。おそらくそういうところについて、周囲から色々と指摘されたのかも
しれない。60年代半ばを過ぎた頃になると、彼の演奏は変化し始める。ピアノを弾き切るというよりは、楽曲を歌わせるようになる。それから
程なくして心も破たんしていくことになるわけだけれど、コンテンポラリー時代の後期はしっとりとした演奏にペーソスが漂い、味わい深い。
代表作が本当に代表的なのかは疑ってかかる方がいい。自分の家のラックには「自分だけの名盤」を残したい。
まあ、ネットの話は「例えば」の話です。自分で軸を持つことが大事じゃないか、といいたかったのです。
このアルバムの良さが共有できる人がいるのがうれしいです。
あ、でもこれは前田マリ氏の御本を読んで知った盤なので文意とは合いません。ネットでないということでご容赦下さい。