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ミスマッチなレコード

2015年06月07日 | Jazz LP (Dootone)

Dexter Gordon / Dexter Blows Hot And Cool  ( DOOTONE DL-207 )


ヘロイン所持が原因で1952年末から2年間刑務所で治療を兼ねて服役し、仮出所できた1955年にデックスはベツレヘムとドゥートーンにアルバムを
録音しますが、その後またドラッグに手を出してしまい、再度投獄されて今度は1960年まで服役します。50年代にデックスのアルバムがまともに
残されていないのはそのためです。

本来は50年代のアメリカでロリンズ、ゲッツと並んで3大テナーの一翼を担うはずだったのに、こんなことで一番重要な10年間を棒に振ってしまう。
その後のキャリアを見ればわかる通り、元々はレコーディングが好きな人なので、その逸失利益の大きさを痛感してしまいます。

ドゥートーンはロサンゼルスのサウス・セントラル・アヴェニューに居を構えていましたが、ここはロスの中でも最も治安の悪い地域として
昔も今も有名なところです。その界隈に出入りしていたのなら、悪い誘惑も多かっただろうことは想像に難くない。 
このレーベルは1951年に設立されて73年頃まで存続しましたが、メインの録音ははリズム&ブルースやコメディアン、ポピュラー・ヴォーカルで、
ロス周辺の低所得者向けのレコードを多く作っていた。なぜかジャズのレコードが5~6枚ありますが、どれも気まぐれで作られたような感じです。

このレコードはよく聴くとデックスのテナーがとても調子がいいのがわかります。 音が太く安定していて、フレーズも非常にしっかりしている。
生涯変わらなかった音はここでも健在でいつものあの音だし、アップテンポの曲でもこの人が吹き始めると途端にミドルテンポの雰囲気に変わる
ところも相変わらずで、アルバム全体がデックスの音に支配されています。

但し、問題はバックのピアノトリオとの相性で、カール・パーキンス・トリオの乾いて抒情味の欠ける演奏とは明らかにミスマッチです。 
各楽曲が短く、とても落ち着いて聴く雰囲気ではない。だからアルバム全体としての印象は地に足が付いていないような散漫な感じがします。
この人の演奏家としての力量が発揮される前に曲が終わってしまって、あれっ、前奏だけで終わったのか?という感じです。 
だから、デクスター・ゴードンのアルバムを聴いている、という実感があまり持てない。

この有名なジャケットが「どんなに凄いジャズが聴けるんだろう」という期待を大きく煽りますが、実際に出てくる演奏はカラカラに乾いた
コンパクトな演奏なので、そのギャップに戸惑わされるレコードだと思います。



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