Bud Powell / Bouncing with Bud ( デンマーク Sonet SLP 31 )
1962年4月26日のコペンハーゲンのカフェ・モンマルトルでの演奏と言われているけど、拍手は入っておらず、まるでスタジオ録音のように聴こえる。
この時のデンマークへの演奏旅行の様子はスティープルチェイスがゴールデン・サークルでの演奏をまとめてリリースしていて、パウエルの演奏は
基本的に同じ感じだ。 フレーズはよく歌い、それに合わせて濁声のハミングも終始聞かれる。 ミスタッチはそれなりに目立つけれど、運指はしっかりと
していて、心身ともに調子が良かった様子が伺える。 レパートリーや演奏レベルはどちらのレーベルも同じで、これがパウエルのこの時期の日常的な
ルーティーンだったことがよくわかる。 そこには新たな驚きはないけれど、しっかりとバド・パウエルのピアノが鳴っている。
ベースがペデルセンなのでリズムラインがしっかりとしていて、パウエルの運指が乱れてヨロっとしかかってもペデルセンがパウエルの身体を横からグイっと
支えるので、音楽が澱むことがない。 ベースやドラムは最初からそういうつもりで演奏に臨んでいたんだと思う。
欧州滞在時のパウエルの演奏を捉えたアルバムは結構たくさんあるので、この時期の演奏が伝説化されずにありのままを聴けるのは素晴らしいことだ。
あのままアメリカにいたら生活の中での様々な心労も嵩み、こうはいかなかっただろう。 演奏に専念できる環境があり、それを歓迎してくれる人々がいて、
彼の晴れ晴れとした心境が演奏の中から明確に伝わってくる。 欧州時代のレコードの意義はそういうパウエルの心穏やかだった様子を我々が知ることが
できて嬉しい気持ちになれる、というところにあるのだと思う。
62年であればステレオ録音が普通だったはずだが、これはモノラルとしても録音されていたのかもしれない。 ステレオをミックスダウンした感じはなく、
とても自然なモノラルサウンドだ。 残響をつけず、それでいてくっきりとしたクリアで分離のいい音が素晴らしい。 いかにも盤の硬い材質が鳴っている
と思わせる硬質なサウンドがパウエルにしか出せないピアノの音にマッチしていて、バド・パウエル・トリオの音楽を最上のものにしている。