廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

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騎士の音楽とは何か

2023年11月12日 | jazz LP (Atlantic)

George Wallington / Knight Music  ( 米 Atrantic Records SD 1275 )


マーク・マーフィーが歌った " Godchild " って、ジョージ・ウォーリントンが作った曲だったんだなあ、と改めて感じ入りながら聴く。
この人のピアノは音楽的表現力が乏しく、この演奏を聴いて歌いたくなるような感じはないけど、それを歌ってしまうところに
彼の才能があったのだろう。

ウォーリントンのピアノはまんまバド・パウエルだ。昔はクロード・ウィリアムソンが白いパウエルとよく言われて、私はいつも「どこが?」
と思っていたが、このウォーリントンは指がまったく回らなくなったバド・パウエルそのもの。縦揺れして、ぶっきらぼう。フレーズの処理も
バップ・ピアノの典型で、時代の変化についていけず早々と引退を余儀なくされたのはしかたがない。

自身のオリジナル曲とスタンダードが配置されているが、あまり違いを感じない。メロディーよりも演奏形式が前面に出てくるのがビ・バップの
特徴で、だからこそジャズは新しい音楽として一世を風靡することになったのだけど、その残滓が滴り落ちてくる演奏だ。ピアニストが自身の
ピアニズムをあられもなく露出して情感を吐露し始める前の、形式の美しさで勝負していた時代の音楽である。そこには完成された形式への
揺るぎない信頼とその杯を受け継ぐ者だけに許される気高い自信が溢れているように思える。このジャケットの絵と「騎士の音楽」という
タイトルが冠せられたのは単なる偶然ではないのだろう。

このアルバムはステレオプレスの音が極めてよく、トリオの音楽の深みがよくわかる。私はこのステレオプレスを聴いてモノラル盤は聴く気に
ならなくなり、さっさと処分した。そのくらい音質には雲泥の差がある。



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