

Stev Kuhn, Sheila Jordan / Playground ( 西独 ECM 1159 )
これを聴いた時は衝撃でした。 そして、これがスティーヴ・キューンの最高傑作だということがすぐにわかった。
そういうのは、理屈抜きに、直感的にわかるものです。
スティーヴ・キューンのトリオにシーラ・ジョーダンが加わったカルテットのスタジオ録音。 非常に雄大でドラマチックな音楽で、全体が大きくうねるように
展開される素晴らしい内容です。 シーラのヴォーカルは目立つことなく、歌を歌っているというよりも大きな曲想を邪魔せずその一部として組み込まれた
感じで、楽器群の中に上手く溶け込んでいます。 そうやって、4人の音楽が一体となってより大きなものになっていく様子が克明に記録されている。
楽曲の根底にはアメリカのフォークソングが見え隠れしますが、それがモードジャズの雰囲気でうまく蒸留されていて、極上のムードが溢れ出ています。
ECMのこれまでの作品は無理に小難しくヨーロピアンに仕立てたようなところがありましたが、この作品はアメリカの音楽に回帰したところがよかった
んじゃないでしょうか。 ニューヨークのコロンビアスタジオでの録音ですが、きちんとECMサウンドとしてミキシングされているので音質は見事で、
流れ出る空気はひんやりとした冷たく、曲想を最大限に活かすような大きく拡がる音場感が非常に心地よい。
有無を言わさないような力がある傑作です。 知名度がないのが本当にもったいない。


Steve Kuhn / Last Years Waltz ( 西独 ECM 1213 )
プレイグラウンドと同じメンバーで同じコンセプトによる、ファット・チューズデイでのライヴ録音。 先のアルバムとは曲目はまったく違っているし、
ライヴらしくスタンダードもやっているにも関わらず、前作と共通する雰囲気があるのが驚きです。 普通のジャズのライヴアルバムとは明らかに一線を
画した不思議なムードがあります。
当然シーラ・ジョーダンはよりのびのびと歌ってはいますが、それでも音楽全体をきちんと意識しており、雰囲気をぶち壊すようなこともせず、賢い人だなと
思います。 ボブ・モーゼスのブラシも気持ちよく鳴っており、歯切れよく小気味良いリズムとリリカルなピアノが上手く同居する見事な演奏です。
年季の入った愛好家にも褒める人が多い、こちらも傑作です。
ところが、こんなに素晴らしい2作品なのに、CD化がされていません。 正確に言うと、プレイグラウンドは少し前に別の作品とセットになって3枚組の
セット物としてCD化されましたが、他の2作品があまり好きではない私にとっては余計な付属のついたものなんか買いたくない。 独立した形でリリース
して欲しいし、どうせセットにするならこのライヴとのセットが正しいはずなのに、どうもCDに関してECMのやることはよくわかりません。
iPodに入れて通勤の際にも聴きたいと思っているのですが、ラスト・イヤーズ・ワルツのほうはアイヒャー自身がプロデュースしていないので、もしかしたら
今後もCD化はされないのかもしれません。 少しは日本のサラリーマンのことも考えて欲しい。