廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

最もハードルの低いアルバムの1つ

2019年05月01日 | Jazz LP (Roulette)

Phineas Newborn Jr. / Piano Portraits By Phineas Newborn  ( 米 Roulette R 52031 )


最近のヘビロテNo.2はこのアルバム。 フィニアスのアルバムと言えばもっと凄みのあるものが他にあるが、芸術性の追求は一旦忘れてリラックスして
音楽を愉しむために作られた力量の絶妙なさじ加減にハマっている。 平凡な例えで言うと、フェラーリを時速80キロくらいで街中をゆったりと優雅に
流しているような感じ(実際に乗せてもらったことがある)、というのが体感的には1番近い。 まったくビクともしない剛性感がそっくりなのだ。

自分でもコントロールしきれずに自らが食い破られてしまった底の見えない才能の片鱗はここでも隠しようがないほど溢れ出ているけれど、それでも彼の
アルバムの中では最も「普通の」ピアノトリオ作品に寄っているものの1つかもしれない。 丹念に時間をかけて磨かれたような指紋ひとつ付いていない
クリアな音が、粒立ちよく歯切れよく一切ブレることのないリズム感に乗って流れて行く。 彼のピアノはジャズピアニストの匂いは希薄で、どちらかと
言えばリヒテルやギレリスなんかの方が感覚的には近い。 だから普通のジャズファンからはその実力は認められながらもどうにも近寄りがたい雰囲気が
煙たがられて一般的人気があるとは言い難い状況で、それは彼が活動していた当時も似たような感じだったらしい。 だからこういうクセのない作品も
作る必要がきっとあったのだろう。

これだけ雄弁で情報量の多いピアノであれば、そもそもベースやドラムは必要ないんじゃないかと思うけれど、トリオの纏まりは一糸乱れることもなく
素晴らしい一体感で進んで行く。 それでも、どんなに見かけ上は普通にスタンダードを演奏しているピアノトリオであっても、フィニアスのピアノが
放つ狂気を孕んだ妖気のようなものが全編に漂っていて、無意識的に、無自覚的に、聴いている人を不安な気持ちに陥れる。 その不安とうまく共存
できる人だけが彼の音楽を愉しめるわけで、最も低いハードルの1つとしてこれは日常的に愛聴できる。


コメント
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