廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

自主レーベルにかけた想い

2019年05月25日 | Jazz LP

Charles Mingus / Mingus At Monterey  ( 米 Charles Mingus JWS 001 002 )


デューク・エリントンを敬愛するミュージシャンは多いけれど、ここまで溺愛した人も珍しい。 2枚組LPの半分近くをエリントン・メドレーに費やす
心酔ぶりだが、これがとてもいい演奏だ。 ラージ・アンサンブルの良さを生かしながらもシンプルでスッキリと整理されたサウンドで、混沌とした
ところもなく、エリントン楽曲の中から数滴しか抽出できないエッセンスを丹念にかき集めたような音楽になっているのはさすがだ。 ジャッキー・
バイアードのピアノのリリカルで澄んだ音が印象的だし、管楽器のソロも素晴らしい。

このバンドは日本ではロクに相手にもされないミュージシャンたちで構成されているけれど、どのプレーヤーも演奏は高度でしっかりとしていて、
その集合体としてのアンサンブルの力は凄まじい。 この素晴らしさを先入観なくありのまま受け取ることができるかどうかで、音楽の楽しみ方は
ずいぶんと変わってくるのだろう。 それによって、レコードの買い方も変わってくる。 

エリントン・メドレーが終わると、ミンガス作曲の楽曲へと移行する。 幻想的な "Orange Was The Colour Of Her Dress, Then Blue Silk" を挟んで、
クライマックスの "Meditations On Integration" へと一気に駆け上がっていく。 祝祭的な喧騒の中にも制御された構成があり、ライヴならではの
感情の高ぶりが美しく記録されている。

ミンガスの演っていた音楽は「ミンガス・ミュージック」という一言で片づけられて、それは何か非常に特殊で固有種であるかのようなニュアンスをもって
語られることが多く、そのせいで一体どれだけ多くの人がミンガスを敬遠しているのだろうと憂慮してしまう。 通常のスタンダードを取り上げず、
エリントンと自作にこだわり続けたせいでそういう言い方をされてしまうだけなのであって、変な固定観念を持つ必要はどこにもない。 彼にとっての
スタンダードはあくまでエリントンだった。 ミンガスのジャズは極めてオーセンティックなものであり、その関わり方が積極的で主体的だったという
だけのことだろう。 このライヴなんかも、もっと聴かれるべき素晴らしい作品だ。

既存のレコード産業の在り方が不満で、自主レーベルを立上げて通信販売のみでスタートさせるというところにもこの人の音楽への関わり方がよく表れて
いると思う。 とにかく生真面目で真剣に音楽と共に生きた人だったのだ。 愛すべき人だったのだと思う。

コメント (2)
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