廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

2度目の欧州ツアーは大喝采の中で

2019年05月04日 | Jazz LP (Riverside)

Thelonious MMonk / Two Hours With Thelonious ~ European Concerts By Thelonious Monk  ( 米 Riverside RM 460/461 )


1961年の春、モンクはレギュラーグループを引き連れてジョージ・ウェインが主催した2度目の欧州ツアーに出かけた。 この時期、欧州ではモンクは
巨匠としての評価が確立していて、各国でのコンサートは熱狂をもって迎えられた。 およそ1ヵ月の滞在で、そのうちのミラノとパリでの公演の一部が
ここには収録されている。 

お馴染みのモンク・レパートリーが並び、チャーリー・ラウズが口火を切り、モンク、ダンロップ、オアらが順番にソロを取り、最後はまたラウズに戻って
曲が終わる。 観客の大喝采を受けていたし、ミラノではこの都市最古のオペラハウスが用意され、オフの時間はリムジンや一流ホテル、高級な食事が
あてがわれる歓待を受けて、モンク・カルテットは絶好調の演奏をしている。 特に目立つのはラウズの傑出した演奏で、中庸でいながらモンクの曲想を
上手く表現するフレーズを自由に操る様子は圧巻だ。 完全にモンクの音楽に溶け込んでいて、もはや不可分の状態になっている。 ドラムのフランキー・
ダンロップはモンクに鍛えられて育った人で、素晴らしいリズム感で曲をドライヴしている。

モンクのピアノも朗らかで打鍵も強く、キレのいいスピード感があって、とても調子が良かったようだ。 このカルテットの演奏は古いジャズを基盤にして
作曲されたモンクの曲を非常にモダンで抽象的て多層化した音楽へと昇華しており、成熟した独特な感じは筆舌に尽くし難いものがる。 ライヴという
こともあって、弾けるような張りの良さとグループとしての強固な纏まり感も際立っていて、あまりの見事さに言葉を失ってしまう。 凄い演奏だ。
この時のツアーを見た現地の評論家が「これまでで最高の体験だった」と語っているけれど、これは社交辞令ではなかったんだろうと思う。

当時、リヴァーサイドの財政状況の悪化は深刻な状態で、倒産への坂道を転がり始めていた。 アメリカ国内でのレコード販売数が伸び悩んでいたため、
欧州フォンタナ社とライセンス契約を結び、他社よりも積極的に欧州販売を進めようとしていた。 この時もロンドンにいたビル・グロウアーが急遽
ミラノへやってきて、当初は予定になかったこの公演の録音をすることにしたらしい。 リヴァーサイドは2重帳簿を作って粉飾決算を繰り返していて、
モンクへの報酬の支払いもごまかしていた。 そのせいでモンクとキープニューズの関係は破たんしていて、モンクの代理人は新たなレーベルとの
契約に向けて動き出していた。 そういうゴタゴタした時期だったということが信じられない、とても素晴らしい演奏が収められている。

コメント
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