玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

「闇の代理出産マーケット」

2008年10月16日 | 代理出産問題
NHKで放送された「闇の代理出産マーケット」(デンマーク製作)を見た。
期待したとおり、「お涙ちょうだい」ではない立派なドキュメンタリーだった。多くの人に見てほしいがBSのみの放送では期待できない。地上波で放送してくれれば一番なのだがあまり期待できそうにない。せめて番組内容を書き起こして紹介する。
番組はデンマーク人依頼者とペルー人「代理母」の間で起きたトラブルを縦糸に、イギリス・インド・アメリカの「代理出産」事情を横糸として描く。
(文中「代理出産」「代理母」とカッコを付ける理由はこちらを参照)




 「あの子たちは私の子供です。ほかの誰の子供でもありません」
悲しげな表情の女性。

ナレーション
 アメリカのこの「代理母」は、三つ子の赤ちゃんを出産し報酬を手にしましたが、今も後悔しています。
 ヨーロッパのほとんどの国は、赤ちゃんを第三者に産んでもらう「代理出産」を違法行為としています。
 しかし多くの子供のない夫婦が「代理母」を探しています。

デンマーク人のカップル、キルステン(妻)とヘンリック(夫)が登場。
キルステンは糖尿病のため子供が産めない。
夫はそれを承知で結婚したが、やがて二人は子供を持ちたいと望むようになる。
養子を望んだが健康状態が問題とされ認められない。
テレビを見て「代理出産」について知り、インターネットで「代理母」を募集。
ペルーに住む25歳の女性、ティファニーが「代理母」をやりたいと連絡してくる。
費用は15.000ドル。

 「目の前のチャンスに賭けたんです。
  これを逃したら、もう二度とチャンスは来ないかもしれない。
  そう思って、一か八かやってみることにしたんです」
 デンマーク人「代理出産」依頼者 キルステン

 「まるで子供を注文して購入するようなものです。代理母になる女性も物のように扱われるのです」
 デンマーク倫理評議会議長 オーレ・ハートリンク

キルステンとヘンリックはペルーを訪れ、ティファニーに「代理出産」を依頼する。
一回目の分割支払金1.800ドルを支払い人工授精を行う。




ヨーロッパでは例外的に代理出産が認められているイギリス。

 「話を聞いたとき、頭の中に光が射したみたいでした。明快で、理にかなっていたからです」
 「代理出産」依頼人 リンダ・コーエン

 「代理出産は、子供を作って家族を増やしたいという私たち夫婦の願いを実現できる方法だと思いました」
 「代理出産」依頼人 ニール・コーエン

 「私にもできるんじゃないかと思って、詳しく調べてみると本当にすばらしいことだとわかったんです」
 「代理母」 リンダ・ジョーンズ

テレビ番組を見て「代理出産」に興味を持ったリンダはコーエン夫妻のために男の子を出産。
再び依頼を受けて二回目の「代理母」となる。
「代理母」は必要経費のほかに最高10.000ポンド(約80万円)を受け取る。

 「お金目当てで引き受けてるわけじゃありません。
  もちろん、時間や労力に対する報酬は受け取りますが、もし何か問題が起こっても何の保証もないんです」
 「代理母」リンダ・ジョーンズ

 「代理出産を批判する人たちに、うちの家庭を見てもらいたいですね。
  道徳に反するなどというのは心ない非難です。
  これは、人が人のためにできる最高の贈り物なんです。金で買えるものではありません」
 「代理出産」依頼人 ニール・コーエン




チリの「代理母」ティファニーが妊娠し、キルステンとヘンリックは9.000ドルを送金。
その後ティファニーとの連絡が途切れる。心配するキルステンとヘンリックのもとに「交通事故にあって流産した」という知らせが入る。ティファニーは無事。凍結保存されているキルステンの精子を使ってもう一度「代理出産」をやりたいという。デンマーク人依頼者は1.200ドルを送金。




ナレーション
 途上国には、欧米の夫婦と代理出産の契約を結びたいと望む貧しい女性がおおぜいいます。
 インドは代理出産の新しいマーケットとして台頭してきました。
 外国人夫婦のために、8.000ドルで代理出産をするというインド人の女性に話を聞くことができました。

 「去年、夫が失業してしまって生活が苦しいんです。それで、『代理出産』を引き受けることにしました」
 インド人「代理母」

不妊治療専門クリニックでは卵子提供者と『代理母』を1万~2万ドルで斡旋。欧米の不妊カップルには魅力的な価格。
インドでは遺伝的な親の名前で出生証明書を出すことが認められている。

 「代理母の大半は非常に貧しく生活に困っています。
  しかし大量のホルモンが投与される『代理出産』は女性の肉体に対する暴力なのです。
  依頼者の支払う料金の大半はクリニックの懐に入り、代理母には約束どおりに支払われません。
  私は長年反対運動を続けてきたので、こうしたひどい実態を把握しています。
  代理母に話を聞こうとしても口を開いてくれません。
  余計なことを言ったら金を払わないと脅されているからです」
 インドの産婦人科医 プニート・ベディ

ヨーロッパで代理出産を禁止しても、子供の欲しい人たちが途上国に向かう抜け道がある。

 「実に嘆かわしいことです。
  金の力で発展途上国の女性の自由や子供の人権を奪い、搾取をしているのです。
  代理出産は新たな帝国主義の表れといえます」
 デンマーク倫理評議会議長 オーレ・ハートリンク

 「ヨーロッパはいわゆる高い倫理基準を設けていますが、
  これは子供を持つ自由を禁じる措置に他ならないと思います。
  それが結果的に誠実で良識ある人々を闇のマーケットに走らせます。
  代理出産の技術は確立していますから、子供をほしいと思うあまり、
  闇のマーケットに頼ってでも実現しようとするのです」
 アメリカ・フロリダ州の家族間問題専門弁護士 シャーロット・ダンシュー




取材班はペルーに飛ぶ。ペルーでは「代理出産」は違法行為。
だが子供のない欧米人カップルのプロフィールをインターネットに掲示すると、すぐに「代理母」志望者から連絡が入る。
取材班はティファニーの家を訪ね「事故」の真相や二回目の妊娠について質問する。
ティファニーは言を左右にして言い逃れする。




イギリスの「代理母」リンダが出産。
イギリスでは万一「代理母」が心変わりしたら生まれた子供を自分の子にできる。

 「友だちの赤ちゃんを抱いているような感じですね。
  とってもかわいいけど私の赤ちゃんじゃないし、育てるわけではありませんから。
  この子は、依頼人の両親と家に帰るんです」
 「代理母」 リンダ・ジョーンズ

後になってリンダは「赤ちゃんと充分な時間をすごせなかった」と取材班に不満をもらす。
帝王切開とテレビ取材のストレスで体調を崩して落ち込む。その後、リンダとコーエン夫妻は口をきいていない。




アメリカ・ペンシルベニア州では「代理出産」の法規制がまったくない。

 「人の役に立ちたいと思ったんです。三人の子宝に恵まれたことへの感謝の気持からです」
 「代理母」 ダニエル・ビンバー

依頼者は59歳と62歳のカップルだが、ダニエルとの面会時に年齢を若く偽る。
「代理出産」で三つ子を妊娠。出産時の立会いが問題となりダニエルと依頼者の関係が険悪化。
依頼者は赤ちゃんをなかなか引き取りに来ず、ダニエルの退院時にも姿を見せない。
依頼者への不信が募り、三つ子への愛着を感じたダニエルは親権を求める訴訟を起こす。

 「最先端技術や生命倫理の分野で、どんな問題が発生しうるか、依頼者はどんな行動をとるのか、
  どんなシナリオが考えられるか、司法はこのような問題を予想し、
  対策できる枠組みを作る必要があります。事が起きてからでは遅すぎます」
 ピッツバーグ大学法律学教授 アン・シフ

最終的な判決が下され、三つ子の親権は依頼者にあるとされる。

 「この子たちは私の子供です。ほかの誰の子供でもありません」
 「代理母」 ダニエル・ビンバー




デンマークの「代理出産」依頼者、キルステンとヘンリックはペルー人「代理母」ティファニーの嘘に翻弄される。金を送らせておいて子供は引き渡されない。本当に妊娠したのかどうかさえ疑わしい。
ティファニーの友人がやはり「代理母」を志願していると聞かされデンマーク人カップルに紹介するが、そちらもトラブルになる。
デンマーク人依頼者たちは自分たちの子供が売り飛ばされたのではないかと心配している。

 「私たちと同じつらい経験をほかの人にはさせたくありません。
  いつかあのような犯罪をなくしたいと思っています」
 「代理出産」依頼者 ヘンリック・ニールセン




「代理出産」賛成派の意見
 「相手は世界をまたにかけて人を食い物にする強欲な犯罪者です。
  子供をほしいと願う人の金を奪い、精神的にも大きな打撃をあたえます。
  もし各国の政府がフロリダ州と同じように『代理出産』の技術が存在することを認め、
  司法制度や弁護士を通じて監督・監視・責任を追及する体制を整えれば、
  倫理に反しない正しいやりかたで『代理出産』を行うことができるのです」
 家族間問題専門弁護士 シャーロット・ダンシュー

反対派の意見
 「実際に詐欺にあった人がいたからといって、『代理出産』の合法化を進める理由にはなりません。
  倫理的に越えてはならない一線があるからこそ規制するのです」
 デンマーク倫理評議会議長 オーレ・ハートリンク




私の感想。

・ デンマーク人依頼者には同情できない
デンマークでもペルーでも禁止されている「代理出産」を依頼した時点ですでに違法なのだから、だまされても自業自得である。金銭の詐取を訴えてもデンマーク・ペルー両国で相手にされないだろう。こう言っては悪いが、麻薬取引のトラブルと同じだ。「代理出産」の依頼は法律が保護する正当な権利ではない。ヘンリックが「いつかあのような犯罪をなくしたいと思っています」というのを聞いて「最初に法を破ったのはあなたたちでしょうに」とあきれてしまった。
詐欺を行った「代理母」が実際に出産していたら子供の行方が問題になるが、個人的にはその可能性は高くないように思う。子供をよそに売るよりも人質にして依頼者を脅迫したほうが確実に大金を得られる。そうしていないのだからたぶん妊娠・出産そのものが嘘なのだろう。

・ イギリスの「代理出産」にも問題がある
代理母が妊娠・出産中に健康を損ねても「何の保証もない」のであれば恐ろしいことだ。依頼者の「人が人のためにできる最高の贈り物」という言葉は無責任で自分勝手なきれいごとでしかない。
「すばらしいこと」と言っていた代理母も精神的に不安定となり依頼者との関係を絶った。やはり「代理出産」は母性をねじ曲げる不自然で残酷な行為だ。

・ インドでも「代理出産」に反対する産婦人科医がいた
「インドの文化は『代理出産』に親和的」という説があったので反対派はいないのかと気になっていた。
インドが「代理出産」を認めるか認めないかはインド国民が決めることだが、「代理母」と子供の人権は何よりも大事にされなければならない。

・アメリカの「代理出産」はどうなっているのか
ペンシルベニア州のように何の規制もないというのはひどい。
…と思ったけれど、日本でも「代理出産」を規制する法律はなく、日本産婦人科学会の規定で禁止されているだけという状況なので偉そうなことは言えない。

・ 番組の結論はどちらなのか
全体的には「代理出産」に批判的だった。
イギリス人「代理出産」依頼者の「代理出産は最高の贈り物、金で買えるものではない」というきれい事の後に、まさに金目当てで「代理出産」(代理母詐欺)が行われる現実を描く構成は皮肉が効いている。だが最後のまとめでは賛成派の意見を反対派の意見より長く言わせていた。
これは「デンマークでは代理出産反対が多数派なのであえて異論を伝えた」のか、それとも「代理出産合法化が番組制作者の本音だった」のか、どちらなのかわからない。

・ 日本的な問題
日本で「代理出産」が容認された場合特に心配される「家族と周囲による強要」の視点がなかった。欧米では問題になっていないとしても(本当はどうなのか知らない)日本では確実に起きる。学術会議の答申(pdf)から引用する。

代理懐胎の依頼または引受けに際して、自己の意思でなく家族及び周囲の意思が決定的に作用することも考えられる。とりわけ、「家」を重視する傾向のある現在の我が国では、(義)姉妹、親子間での代理懐胎において、このような事態が生じることが懸念される。さらに、このようなことが繰り返されるときには、それが人情あるいは美徳とされ、それ自体が一つの大きな社会的圧力にもなりかねない。

私は「代理出産」が合法化されることよりも「代理出産」が美談にされることのほうが怖い。


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1 コメント

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お金がからまない代理母ならいいのでは (通行人)
2008-10-28 01:33:06
どちらにしてもくろくらがわさんは無神経に書いてませんか?

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