玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

「アインシュタインの予言」

2005年12月20日 | アインシュタインの予言
「アインシュタインの予言」と呼ばれている文章がある。

近代日本の発達ほど、世界を驚かしたものはない。
この驚異的な発展には、他の国と異なる何ものかがなくてはならない。
果たせるかなこの国の、三千年の歴史がそれであった。
この長い歴史を通して、一系の天皇をいただいているということが、今日の日本をあらせしめたのである。
私はこのような尊い国が、世界に一カ所位なくてはならないと考えていた。
なぜならば世界の未来は進むだけ進み、その間幾度か戦いは繰り返されて、最後には戦いに疲れる時がくる。
その時人類はまことの平和を求めて、世界的な盟主を挙げねばならない。
この世界の盟主なるものは、武力や金力ではなく、凡ゆる国の歴史を抜き越えた、最も古くまた尊い家柄ではなくてはならぬ。
世界の文化はアジアに始まって、アジアに帰る。
それはアジアの高峰、日本に立ち戻らねばならない。
吾々は神に感謝する、吾々に日本という尊い国を、作って置いてくれたことを…。


この文章は大正11年(1922年)に来日し大の親日家となったアインシュタイン博士が残したものだとされている。
Googleで「近代日本の発達ほど、世界を驚かしたものはない。」を検索すると3340件ものヒットがあり、愛国者をもって自認する人たちには人気の高い文章のようだ。

だが、この文章は創作(インチキ)であるという説があることはあまり知られていない。

アルベルト・アインシュタインと日本
アインシュタインと日本 Part 2
アインシュタインと日本 Part 3

多くの出典が示されており、論じているのが東京大学教授・ドイツ文学者の中澤英雄氏であることも手伝って説得力の高いものに思える。
とはいえ、私自身は資料を見たこともなく、「Let's blow!毒吐き@てっく」てっく氏が「中澤先生ご本人だったら、先生がお持ちでない資料見せてさしあげます」「妄想」「コテンパンにやっちまいたい」と「創作説」批判に自信ありげなので軽はずみに断定するのは避ける。


アインシュタインが本当にこんなことを言った(書いた)かどうかはともかく、私はこの文章が嫌いだ。
「尊い国」「世界の盟主」「世界の文化はアジアに始まって、アジアに帰る」…  うんざりする。
私は普通レベルの愛国心を持っているつもりだけれど、日本が特別に「尊い国」だとか「世界の盟主」になるべきだとは思ってない。
そんなことを言う人も、そんな言葉を喜ぶ人も好きではない。
私が「日本よ、かくあれかし」と願うのは「世界の盟主」などという怪しげな(子供向け特撮で「悪の組織」の首領が自称しそう)ものではなく「世界に恥じるところのない」日本である。
日本を「アジア」の一部として疑わないのにも違和感がある。私にはむしろ司馬遼太郎のように「日本はアジアではない」という意見に共感する。以下は司馬遼太郎「歴史と風土」よりの引用(*「書籍之海 漂流記:司馬遼太郎 『歴史と風土』」からの孫引き)である。
福沢諭吉が『脱亜論』を書いたり、脱亜論的なことは今の知識人には「アジアの中にいるくせに脱亜論などといいやがって」と評判が悪いですけれど、これは福沢も間違っているし、それを批判する側もまちがっている。日本は始めから脱亜なんです。(略)アジアではない、アジア的な原理で動いてきたことはないんだということは、はっきりしておかなければならない大事な、そしてあたりまえの平凡なことだと思います。

皇室典範改正問題では「男系による皇位継承(万世一系)を守るべき」という意見の私だが、「この世界の盟主なるものは、武力や金力ではなく、凡ゆる国の歴史を抜き越えた、最も古くまた尊い家柄ではなくてはならぬ」などという文章を見るとむしろ強い反感を覚える。
「古い家柄が尊いのなら、中国に400万人もいる孔子の子孫でもいいんじゃないの」などと憎まれ口を叩きたくなる。
日本においては皇室は神話の昔から存在し、時に大きく歴史を動してきたけれど、世界全体の歴史を考えたときその存在は小さなものとなる。世界中のほとんどの人々は日本の皇室の存在を特別に意識したこともなく、まして「世界の盟主にふさわしい最も古く尊い家柄」などと思ったこともないだろう。
私にとって「日本皇室を世界の盟主に」という論は「偉大なヒーロー、アーノルド・シュワルツネッガーを世界連邦の大統領に」というのと同じくらい馬鹿げた話に思える。
日本や皇室をほめるのに「尊い国(家柄)」「世界の盟主」などという大仰で空疎な言葉を使う手合いは誰であれ(仮にアインシュタインであっても)政治的愚者であるかそれとも「褒め殺し」の意図を持つと見て警戒したほうがよろしかろう。

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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
御説、同意。 (雪斎)
2005-12-20 04:34:36
 おひさしぶりです。

 皇位継承に関しては貴殿とは意見を異にしていると思いますが、このエントリーは率直に共感しました。大体、仰々しい議論や言辞というのは、日本人の「感性」に相容れないとと思いませんか。

 「男系男子」論者の中で最も説得力を感じさせたのは、実は貴殿の「不滅の宝灯」論でした。こういうのを静かに語ってくれれば、もう少し「男系男子」論も拡がりを持てるのだがと思います。

 もっとも、拙論に対する反論の出方から判断すると、それも期待すべくもないのだなと思います。
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Unknown (さくら)
2005-12-20 09:55:36
「世界に恥じるところのない日本」「日本を『アジア』の一部として疑わないのにも違和感がある」・・・共感します。

愛国心って、個人レベルでいうと「ほどよい自尊心」でいいんじゃないかと思うのです。「まあ、欠点もあるけど、悪くないんじゃん」くらいの自己認識がバランス感があっていいのかなあと。謙虚さと、堂々としていられる自己への信頼があれば、それでいいんじゃないかと思っています。

日本の立ち位置も、別に「アジアの一員」に求めなくても(地理的にみたらそうなのかもしれませんが)、どこにいたって日本は日本なのではないか、という気分です。

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Unknown (佐倉 純)
2005-12-20 12:04:57
なんだかそのむず痒くなるような誉め言葉は、かの国のウリナラマンセーイズムを感じますね。日本人のメンタリティーにはあわないような。



外国人が評した日本というのでは、私は小泉八雲の論文あたりが好きです。
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コメントありがとうございます (玄倉川)
2005-12-21 01:02:40
>雪斎さん

こちらこそご無沙汰しております。貴ブログはいつも拝見しております。

さて、「日本人とは」といった大きな話は身に余るので遠慮しておきますが、雪斎さんの掲げておられる「強く辛辣な言辞は論拠の弱さを示唆する」というユゴーの言葉は、風邪で体力の落ちた私の今の気分にはぴったりです。

皇位継承については、男系維持派が「Y染色体」とか「アインシュタインの予言」を持ち出すのを見聞きするたびにげんなりしてしまいます。その手の大げさな論はむしろ逆効果になるとしか思えないのですが、そういうのを喜ぶ人もいますし、どうしたものかと悩みます。



>さくらさん

こういう寒い日に「さくら」さんの名前を見ると心の中に春風が吹くようでうれしくなります。

日本という国の成り立ちを考えると、ヨーロッパ人がやってくる以前には「アジア人」という概念などはなく、「非・中華」こそが国柄の基本なのではないかと思えます。国粋主義に陥らず、野放図な「グローバリズム」や「大アジア主義」とは一線を画した健全な愛国心が育ってほしいものです。



>佐倉 純さん

トラックバック頂いたてっくさんのブログに行くと、外国人の日本賞賛の言葉がずらりと並べられてますよ。

私にはどれも大げさすぎて、かえって恥ずかしくなります。

小泉八雲は幼少期にケルト文化の影響を受けてますから、太古より途切れなく続く日本文化に自然に共感したのでしょうね。

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こういうウリナラマンセーに気を付けたいですね。 (abusan)
2005-12-21 10:42:18
私なんかは我が日本に強い誇りを持っている方

なのでこの手の「誉め言葉」についやられて

しまいますね。日本人の美徳の1つに「謙虚」

というのが有り、それを肝に銘じて日本の

安定の事を考えていきたいですね。
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Unknown (masa)
2005-12-21 20:19:14
世界の多くの学者が中国文明と日本文明を分けている、と『文明の衝突』に書いてありました。勿論ハンチントン教授も同じ考えです。アジアという一つの文明的まとまりがあると考えること自体が間違いだと思います。日本は日本であることを守り続けるべきです。アメリカとも中国ともロシアとも違って、盟主になろうなどと全く思わない国が日本であり、それがまた日本の良さだと思います。
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確かにアジアではないですね (やま)
2005-12-25 20:52:29
地政学的にはともかく政治的には終始アジア=中華体制から外れた存在でした。その象徴が天皇の存在で中華の枠組みから外れたものであるという先祖の誇りでしょう。ちなみに中華体制は柵封体制であるので日本国王では中国王朝の進化になってしまいますので。



冒頭の言葉は平和主義者のアインシュタインの言葉とはとても思えませんね。気色悪いですしw。
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Unknown (原文なしに議論してもなあ)
2005-12-26 02:55:39
原文ソースの提示がなければ偽書ってことになるし、ソースの提示があったら真偽の鑑定はそれからだってことになるし。原文ソースがすべて。日本文だけでは限りなく怪しい。
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Unknown (mimi)
2006-09-30 23:19:00
くっくりさんから飛んできました。

アインシュタインはユダヤ人ですね。

ユダヤ人は何時も消えた14氏族がどこに定着したのか探しているんですよ。彼は日本でおみこしを見たり、神社を見たりして感激したんです。文化の行き着く最果ての地日本は全ての文化をを包含し保存する。そこで彼はユダヤの14氏族が日本に辿り着いたと確信したのでしょう。確かに京都の広隆寺の井戸を見たときびっくりしましたよ。井戸がいさら井って名だったから。そこで山伏のお焚きあげを見て山伏の姿やほら貝もユダヤを連想させるし。国が滅んで放浪した民族こそ熱狂的に国粋主義者になれるのではないでしょうか。私もユダヤの氏族は日本に辿り着いたと思っています。夕月の民が渡来したと古事記にありますから。
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Unknown (湯タコ)
2007-10-15 21:53:43
↑のmimiさん

その通り。このアインシュタインの実際の
言葉を一生懸命否定してるのは
朝鮮右翼の連中なんですよ。
ただの右翼じゃなくて
勝共連合右翼の流れをくむ朝鮮右翼です。
朝鮮人がやっている偽装右翼連中なんですよ。
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