黒古一夫BLOG

文学と徒然なる日常を綴ったBLOG

スロベニアにて(16)

2006-04-13 07:46:17 | 近況
 スロベニア滞在も、あと1日。急に思い立って、もう一度食べたかった「ヨタ」という煮込み料理を食べに行った。こちらで食したボスニア料理、セルビア料理、イタリア料理、等の中で一番スロベニアらしい料理で、僕の口にあった料理だと思い、スロベニアでの思い出を確かなものにするため、どうしてももう一度食べたかったのである。豆やザワークラフト(キャベツの酢漬け)、肉などが入ったちょっと酸っぱい煮込みで、今度食べたものも、おいしかった。どのように作るのか興味があったが、レシピを聞くことはできなかった。
 さて、14日間に渡って講義してきた「沖縄文学」だが、果たしてこちらの大学生に十分に僕の意図することが伝わったか。正直に言うと、日本人学生ならば「常識」と思える基礎知識のない外国人学生にとって、「沖縄」という地域の特殊性をスロベニアの現実と重ねながら理解するのは、大変だったのではないかと思う。小国(少数民族)であるが故に、古代から幾多の戦乱に巻き込まれ大国に支配されてきた歴史をもつスロベニアと沖縄とは重なる部分がずいぶんとあるはずなのだが、言葉の「壁」があって、理解が妨げられたのではないかという感想を持たざるを得なかった。「文学」理解に国境はないはず、と思って望んだのだが、初めての経験(2000年のアメリカでは大学院生対象だったので、今回の学部生とは異なる)だったせいもあって、不十分だったのは教師の側の責任が大半だったかも知れない。また、「異文化」(文学)を伝えるには、1ヶ月は短く、せめてあと1ヶ月は欲しいというのも、正直な感想である。あるいは何年か続けて講義する、というのも解決策の一つかも知れない。今は、来年も可能ならば来たい、という気持になっている。せっかく学生たちとも馴染んできたので、「継続は力なり」を信じて、連続することで今回の不十分さをカバーしたい、のである。
 それにしても、日本とスロベニアの彼我の違い、旅行ではなく仕事で滞在すると、そのことを余計に感じるようである。毎日のバスでの通勤途中で、あるいは買い物をしたスーパーで、はたまた食事した店で、学生たちとコーヒーを飲んだ大学近くのカフェで、先生たちとの会話で、様々な「違い」を感じた1ヶ月だった。それが今後の我が仕事にどれぐらい反映するかは全く不明だが、できればこの貴重な体験をぜひとも生かして仕事をしたい、と思う。
 最後の今日は、卒論発表に臨席させて貰えることになっているが、「日本における女性の雇用」と「日本の神話構造」というテーマのレジュメ(日本語による要約)を目の前にして、あるいは別な学生から聞いた卒論のテーマ「日本人の反ユダヤ主義」や「戦後日本と『楢山節考』」のことを考えると、その内容は別にして構えの大きさに感心させられた。大きく構えることで、『日本』を改めて認識し直そうというのだろうが、そのモチーフの強さは日本人学生も見習うべきかも知れない。ちまちました重箱の隅をつつくような研究、それも必要なのかも知れないが、考えさせられることである。
 帰りが遅くなって、すぐ帰国の準備をしなければならないので、この『スロベニアにて』も今回で最後になると思うが、日本でも毎日というわけにはいかないが、ブログは定期的に書いていきたいと思っているので、また次回を!
 では、今度は日本でお目にかかりましょう。

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