黒古一夫BLOG

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政治家の倫理観

2013-05-14 18:57:05 | 近況
 連休中からずっと掛かりきりになっていた村上春樹の新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の書評(4.5枚「図書新聞」掲載予定)と論評(15枚「国際村上春樹研究」創刊号―今夏に台湾の出版社から刊行予定。武漢に滞在中、中国の村上春樹研究者に依頼された)をようやく書き上げ、ほっとしてテレビのニュースを見ていたら、あの橋下徹大阪市長(日本維新の会共同代表)が、「従軍慰安婦は必要だった」「沖縄の普天間基地を視察に行った時、米軍司令官にアメリカ兵はもっと(沖縄の)風俗業を利用すべきだ、と進言したが、冷たくあしらわれた」と発言したというニュースが飛び込んできた。
 一緒にコーヒーを飲みながらテレビを見ていた家人の反応は素早かった。彼女の「この人、前から変な人だと思っていたけれど、こんなに酷い人だとは思っていなかった。女性を馬鹿にしている。慰安婦や風俗が売春だということを、分かっているのかしら。こんな人が大阪市長や政党のトップだなんて、信じられない。馬鹿みたい」との言葉は、まさに橋下徹の思想・倫理観がいかに「お粗末」なもので、女性蔑視そのものであることを的確に言い当てたものだと思う。普段は、あまり「政治的」な事柄について発言しない彼女だが、今回の橋下発言には余程腹が立ったのだろう。
 この橋下発言には、僕もあきれるしかなかったのだが、この橋下発言は今大手をふるっている右派の思想・倫理観がいかにお粗末なものであるか、また歴史的「事実」に基づかないものであるか(資料や調査に基づかないものであるか)を如実に示すものであった。従来、従軍慰安婦について、そのようなことを日本軍は組織的に行ったことはない、というのが、「従軍慰安婦」の存在を否定する右派の論理であったが、このことについて従軍慰安婦が登場する小説(例えば、五味川純平の『人間の条件』でも、あるいは火野葦平の「兵隊三部作」(『麦と兵隊』「土と兵隊」『花と兵隊』)でも何でもいい)を読めば、そこには「朝鮮ピー屋」(朝鮮人慰安婦宿)や「ピー屋」(日本人慰安婦=売春婦の宿)が出てきて、彼女(慰安婦・売春婦)らが「強制的」・「半強制的」に戦場に狩り出され、将兵たちの性奴隷になっていたことが明らかであり、またそのような日本軍の「蛮行」――そこには中国大陸における「三光作戦=焼き・殺し・奪う」やアジア各地の虐殺事件も含む――に関する諸書類は、多くの人が証言しているように、あるいは敗戦前後の日本を映した映画などにも出てくるが、敗戦からアメリカ軍が日本へ上陸してくる間に、必死になって「秘密」書類を燃やし続けた事実(心に疚しいことがあったから、あるいは戦犯裁判にかけられる証拠になると思って)について、橋下氏や橋下氏の言説を「間違っていない」と弁護した石原慎太郎は、どのように思っているのか。
 どうも、右派の政治家たちの言動を見ていると、安倍晋三首相もそうだが、何故か日本がアジア太平洋戦争に「敗北」したことことから手に入れた(学んだ)戦後的価値を認めたくないようで、その結果、誰もがモラル・ハザード状態にあるように思えてならない。
 例えば、憲法「96条」(改正手続きに関する条項)を改正して、改正手続きのハードルを低くし、その先には憲法第9条(戦争放棄)を改正し、戦後の価値を象徴する「平和と民主主義」を否定して、「戦争のできる国」、「国権を最優先する国」に変えようとする意図が明々白々なのに、そのような人物が率いる内閣に「70パーセント」を越える支持を与える国民、あるいは橋下徹や石原慎太郎など「ウルトラ右翼」としか思えない人物を首長に選ぶ(選んだ)市民・都民、すべては「金儲け=金権主義」最優先の考えから出た結果とも考えられるが、みんな、みんな倫理観がおかしくなっているのではないか、と思わざるを得ない。
(追加―15日)
 さらに、余りに怒りが激しかったので、書き忘れてしまったのだが、沖縄駐留のアメリカ軍(海兵隊)将兵に対して、「もっと風俗を使うべきだ」と進言したということについて、橋下徹は自らの発言が問題になった後も、ツイッターなどで「日本の風俗は合法的なものだから、それを使うべきだ」といった主旨の発言を繰り返しているが、橋下はかつては弁護士だったはず。風俗業界における「合法」が有名無実な状態になっていて、実際は「売春防止法」(管理売春の禁止)に抵触する行為を繰り返していることを、よもや知らないわけではないだろう。女性を「商品」として扱い、そこには「人間の尊厳」も、また「人間としての権利」も存在しないことを、何故無視するのか。全く理解できない。この「風俗を使うべきだ」という発言は、明らかに「戦争中に慰安婦は必要だった」という論理と同じである。
 第一、そのような風俗を利用すれば、駐留米軍の犯罪が亡くなると思っていること自体が、おかしな論理と倫理で、橋下の論理に従えば、沖縄を初めアメリカ軍基地のある地域の風俗(売春)は許容すべきだ、と言っていることになり、これもまた弁護士でもある彼の発言としては、お粗末、というか「女性蔑視」も甚だしい「最悪」な発言(考え方)である。テレビに映る沖縄住民が「あきれて、ものが言えない」とうんざりした表情で、橋下発言を難じていたが、大阪市民(女性)及び全国の女性(男性)も、このような橋下氏の発言、そしてそれを擁護する石原慎太郎や日本維新の会に対して「ノー」を言い続けるべきである。橋下発言は、日本を「維新」するものではなく、復古調の単なる「権力亡者」の集まり、と思えるからである。こんな発言をする共同代表を頭に抱く日本維新の会の政党支持率が下がるのは当たり前である。(追加はここまで)
 そのことを考えれば、何よりも橋下氏や石原慎太郎が率いる日本維新の会に所属する女性議員、沈黙していていいのか、と思う。それは、先のアジア太平洋戦争を「侵略戦争」と認めない安倍氏が率いる自民党の女性議員についても、同断である。
 本当に、政治家の思想・倫理はどうかしている、と思う。嫌になっちゃう。

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