黒古一夫BLOG

文学と徒然なる日常を綴ったBLOG

海の向こうで「戦争」が……

2010-11-26 05:08:47 | 近況
 愚行と言えばいいのか、それとも「高度な政治・外交行動」と言えばいいのか、朝鮮半島を南北に二分する「境界」で砲撃戦が行われた。報道に拠れば、北朝鮮が突然「韓国の領海」内にある延秤島(ヨンビョンド)を砲撃してきて、それに対して韓国軍が応戦し、死者4名(兵士2名、民間人、と言っても韓国軍基地で働いていた人のようだが、2名)、負傷者多数が出た、というもののようであるが、この「ミニ戦争」は、改めて南北に分断されている朝鮮半島が1950年6月25日に勃発した朝鮮戦争から53年7月に結ばれた「休戦協定」を挟んで、依然として「戦争状態」にあることを私たちに現実として知らしめた。
 朝鮮戦争以来ずっと朝鮮半島は中東などと並んで「世界の火薬庫」と言われてきたが、今度の「ミニ戦争」を見せつけられて、確かにその通りだと再認識せざるを得なかった。僕らは20世紀末から21世紀に入って10年経つ今日まで、イラク戦争やアフガン戦争が「日常化」するに従って、「戦争」に対してどうも鈍感になりすぎているのではないか、と常々思ってきたのだが、第二次世界大戦が(日本を中心に考えれば「アジア・太平洋戦争」ということになるが)終結してから65年、世界から「戦争」がなくなることは一度たりともなく、ずっと世界のどこかで戦争が起こり、その結果たくさんの人が死んだりけがをしたり、そして大規模な破壊が行われてきた。
 ソ連が崩壊して、アメリカが世界の盟主として君臨するようになって、一時「冷戦」が終結したかのように見えたが、そのようなことは文字通り「一時」のことで、アメリカの弱体化を象徴した「9・11」以後、あるいは昨今のリーマン・ショック以降、中国の躍進(大国化)によって世界の枠組みは揺れ動き続け、それに伴ってさらに世界的な規模では「戦争」が続いてきた。イラク戦争、アフガン戦争の泥沼化、そして今度の朝鮮半島における「ミニ戦争」、これらの「戦争」に対する中国やロシアの対応を見ていると--尖閣諸島や「北方領土」に対する対応も含めて、ということになるが--世界はどうも「新たな冷戦」状態にあるのではないか、と思わざるを得ない。東アジア情勢に関しては「日米韓対中ロ」という構図、この東アジアにおける「新冷戦構造」が今後どのように推移していくのか、先行き不透明ではあるが、そうであるが故に僕らは「殺すな!」と叫び続けなければならないのではないか、と思う。
 今から30数年前、村上龍は原子力空母が寄港するように故郷の佐世保でのベトナム戦争「体験」を基に『海の向こうで戦争が始まる』を書き、「海の向こうで」で言いながら、実はこの国(日本)も十分にベトナム戦争に関わっていたのだ、と主張し、改めて僕らに「戦争とは何か」を考える必要があると提起したしたが、今度の朝鮮半島における「ミニ戦争」勃発に対する日本の対応(特に政治家たちの)を見ていると、この国はどうもおかしな方向に行こうとしているのではないか、と思わざるを得ない。「おかしな方向」とは、「戦争のできる国」への転換、である。菅首相を中心とする民主党政権の「危なっかしさ」、あるいは「だめさ加減」に乗じて、と言えばいいのか、菅内閣の「危機管理のだめさ」を盾にとって、今度の「ミニ戦争」に対して、あたかも北朝鮮が日本を攻撃するかのように言い募り、もしそのような攻撃があったらいつでも「応戦できる」体制になっていなければならない、といったようなニュアンスの野党(自民党)の言動、僕にはこの機に乗じて「ネオ・ファシズム」体制(思想)を築こうと思っているのではないか、としか思えず、「憲法」(第9条)を守るべき政治家たちの責任はどこへ行ったのか、と思えて仕方がなかった。
 もちろん、と言うか、「戦争」は一方が悪く一方が良いということはない。今回だって、最初に砲撃した北朝鮮に非難は集中していて、それはそれでその通りだとも思うが、じゃあ韓国側に全く問題はなかったのかといえば、根幹北朝鮮を刺激する「米韓軍事演習」を黄海(北朝鮮が自国の領海と主張する海域)で行ってきた(行う予定だった)。国際政治の複雑化と言ってしまえばそれまでであるが、何ともやりきれない思いだけが残る。
 そして、総じて「いやな時代になったな」というのが僕の感想だが、僕が気がかりなのは、この「ミニ戦争」勃発で、沖縄からアメリカ軍基地をなくすことを根底に置いた沖縄県知事選挙が、「ネオ・ファシズム」につながる保守派に有利に運ぶのではないか、ということである。そうでないことを祈るが、「東アジアの<平和>と<安全>のため、やはりアメリカ軍基地が必要だ」という思想がまたぞろ力を発揮するようになれば、ますます事態は深刻化せざるを得ない。沖縄の友たちの「憂い顔」が浮かぶが故に、余計そのように思う。また、国内的には「危機管理意識の無さ」という妖怪が国会を中心に徘徊し始めている。これもまた、恐ろしい。

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1 コメント

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妖怪 (とびお)
2010-11-26 08:53:04
 危機管理意識のなさという妖怪は日本国中、というか、世界中に跳梁跋扈しています。
 どこの国でも(中国でさえ)民衆は自国の政府が外国に対して弱腰だと考えています。
 勇ましいことを言えば国民に受けるのは万国共通。
 必要以上に不安を煽り、さも戦争直前であるかのように見せかけるのは得策だとは思えません。
 外交努力を前面に出しつつ、防衛力も高めるということが大事だろうと思います。
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