牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

朝日新聞視点欄を読んで

2010-09-02 00:17:12 | 予防治療
8月28日付朝日新聞の視点に「口蹄疫の終息宣言『遮断と撲滅』から脱却を」と題した萬田正治鹿児島大学名誉教授の記事の掲載があり、大変興味深く拝読した。

「口蹄疫に関しては、その根本的な問題は旧態依然たる国際獣疫事務局(OIE)の指針とそれに従う日本の対応策、そして近代化畜産にあるのではないか。」
「ウイルスなどの病原体に対して、人間を含む動物はその抗体を獲得し、抵抗力を身につけて対処し、これに対して病原体は耐性を獲得したり新型の病原体となって反撃する。再び動物は抗体を作る。この繰り返しが生物の進化であり、人が無菌化を進めれば動物の持つ免疫力を衰弱させ動物たちを危機に陥らせることになる。」
「今回、全頭殺処分ではなく発病しなかった家畜を残せば抵抗力のあるものを選抜する結果となり、低コストの有効な対策となっただろう。マスコミ報道は国民に恐怖感を与えたが、この病気は一般に人間には感染せず動物の致死率も低い。健康な家畜を育て抵抗力をつければ怖い伝染病ではない。」
「戦後の日本畜産の近代化は、安全性よりも経済効率を第一義に考え、規模拡大路線を推し進め、一極集中型の大量飼育で密飼いし、輸入飼料に依存してきた。これでは家畜本来の抵抗力は失われ、病気に弱くなる。感染した場合は一気に大量死することになる危険性を常にはらむ。」
「従って、OIEの指針を再検討し、近代化畜産の改善策に迫り、遮断と撲滅一辺倒の衛生行政から抜け出すことこそが、真の解決策だ。OIE加盟国として、口蹄疫を経験した日本から提言すべきだろう。」

この記事を拝読し、視点の内容は、本来有るべき思考ながら、実に斬新で、久々に延髄が揺り動かされ頭の中を駆けずり回っている心境となった。
それ以来筆者の脳裏には、この記事の内容が取り憑かれている。

同名誉教授は自然農法論者であり、合鴨農法の先駆者でもある。
今から8年ほど前、筆者が学んだ農業高校で創立90周年記念式典があり、ゲスト講演されたのが、当時の萬田教授であった。
演題は「農業が楽しい」であったが、全校生徒と式典に参加した卒業生や関係者らを前に、凡そ2時間の講演がなされ、小中学生でも理解できるような口調で、「農業は物を作るではなく、作物や家畜を育てるのが農業である」「植物も土も生きている」「循環型農業」「環境保全型農業」などのテーマについて講演され、それらの一言一言に、ハタと初心に導かれた心地になるほどの感銘を受けたものである。
この講演を拝聴していた在校生からは雑談は皆無であり、会場全体が異様とまでに静まりかえっている光景にも感銘を受けたことを思い出している。
萬田教授は当時鹿大副学長であったが、自らの自然農法を実践するために定年を前に退官されて鹿児島県の緑豊かな里で農業を実践されていると聞いている。
同教授の農業理念とは異なる思考の中にいるが、新聞の視点を拝読して、内容への反応は様々であろうが、自然農法を学問とされた学者らしい農業の原点を見つめた視点であると敬意を表したい思いである。