牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

講演を拝聴して

2010-09-16 23:22:13 | 牛の病気


9月15日から開催された第48回肉用牛研究会に参加した。
お目当ては特別報告「宮崎県で発生した口蹄疫について」宮崎大学堀井洋一郎教授の講演であった。
感染経路に繋がる話が聞ければと、密かに期待しての拝聴であったが、講演の内容は、口蹄疫とは、発症の経過とその規模などであった。

これまで、噂の域を脱していなかった初発の4月20日以前については、3月中旬までに児湯郡都農・川南両町の少なくとも10農家に同ウイルスの侵入があったとし、関係者の初動対策に問題があったことを指摘された。
とくに、同感染対策が万全であるべき公的施設である宮崎県畜産試験場川南支場などでの発症が現実となったことが、さらなる感染拡大を示唆した出来事となり、関係者には大きなショックであった。
感染防止への関係者の取り組みについては、作業の始業時と終了時には関係者全員の全身消毒が行われ、作業時の衣服の毎時の焼却が実施されるなど壮絶な対応であった。
児湯郡での感染経路については、様々な感染が考えられるが、今回の場合は、まだ結論は出ていないが、人による感染について否定できない。
国や県におけるそれぞれの口蹄疫発症に関する調査や検証についてはこれから進められるとのことであった。
口蹄疫は人への感染は無いとの公的報道が行われていたが、海外では過去に、発症には至らなかったが、1ヶ月程度のキャリアとなったケースの報告があるとのことであった。
この他、同講演では、感染や疑似患畜、ワクチン接種した牛など殺処分された家畜の頭数とその農家戸数、路上等における車両等の消毒箇所の数量や感染防止に従事した人数や県外からの応援者の延べ人数、同自衛隊員の延べ人数、殺処分家畜の埋設面積、各種イベントの中止に関する数字などが画面で示され、これらにかかる総費用は約2,300億円になるという試算などが報告された。

同講演を拝聴して、膨大な口蹄疫への感染拡大が、初動対策の遅れにあったことは、紛れもない事実であったことを再認識させられた次第である。
当初の3月中に、その何らかを疑う獣医師は一人や二人ではなかったはずであり、その関係者らがプロたる本来の原因究明を実施していたならば、10年前の発症規模に抑えられたであろうことを、今更ながら強く感じざるを得ない。
また、公的機関で家畜を飼育する施設関係者について、同教授は同県内では、最も感染防止対策が徹底している箇所であり、この関門が壊されたことについて、大変大きなショックであったとされたが、児湯郡では畜産施設が密集している中にかかる公的施設は存在しており、同感染は塞げたであろうか。
公的施設に勤務している職員の中には、おそらく畜産業を営んだり、その親族であったり、それらと近隣する職員の存在は無かっただろうか。
要は通勤を余儀なくしていることに感染の要因が少なくないと考えられる。
施設内への外部のみの往来を制限するだけでは、同対策を取ったことにはならない。
初動時から通勤者を泊まり込みにするとか、出入りには、感染中に全身消毒などの対策が取られたような処置が、同施設でも実施しなければ、真の意味の対策とは言い難い。
公的施設に繋養されている家畜は、その大部分が種雄牛や研究に供用されていて、国有であったり県有である貴重な家畜財産である。
それだけに、同教授らは先入概念的に、万全な対策施設として認識されていたのである。
講演から以上のような蛇足がよぎった次第である。

一方、16日の朝日新聞朝刊でも口蹄疫の中間報告が掲載され、概ね堀井教授の講演に沿ったものであった。