すずめのどんぐり

オットひとり ムスメ(はぼ)が小6、 ムスコ(ぐり)が小1。絵日記でしたが、さぼり中。

本吉圓子 『愛されて育つ ~保育の現場からお母さん・お父さんへ』

2012年02月04日 | 本 漫画 映画
とっても考えさせられるおはなしがたくさんです。 絶版しているようなので わたしが印象に残ったおはなしをふたつ。

お弁当箱から手紙が来た(5歳児)

 自分の持ち物の始末がなかなかできず、上着や上履きなどもあちこちに置きっぱなしの四歳児のひろきくんは、昼食後お弁当箱もそのままで、遊びに出かけてしまいます。
 五歳になったばかりのある日、担任の岩田先生と相談して、放りっぱなしのお弁当箱を他の子どもたちにも気づかれないように、そっともち出すと、事務室の方へ預かりました。お昼寝の準備のためにクラスに戻ってきたひろきくんは、いつもは岩田先生が、袋の中に入れ、机の上に置いてくれてあるので、その調子で入ってきたのですが、今日はありません。
「先生、ボクのお弁当箱は?」
「えっ、先生知らないよ」
「だって、いつもここにあるじゃあ」
「いつもはひろきくんのお弁当箱がなくなるといけないと思って、先生が袋に入れてあげてたんだけど、今日は忙しくてできなかったの。おかしいねえ。本当にないね」
 ひろきくんは初めのうちはあまり困った様子はなかったのですが、「ひろきくんのお弁当箱、お母さんが一生懸命に働いて買ってくれたんでしょ。困ったなあ。先生がきちんと見ていなかったからどこかへ行っちゃって、先生の責任だ・・・」という岩田先生の言葉に困った様子を見せ始めました。
 そこに通りかかった(意図的に)私も、ひろきくんの前で事情を担任から聞き、「それは大変だ!子どもの大事なお弁当箱がなくなってしまって、これは保育所の責任よ。岩田先生、しっかり探しましょう」と、三人で探し始めました。
 三十分ほど探しましたが見つからず、おやつの後も探しましたが、見つかりません。
 担任の岩田先生には、お母さんに協力してもらうように、連絡帳で伝えてもらいました。三日ほどお弁当箱を借りること。そしてその間、他のお弁当ではなく、ホイルに包んでもたせてもらうようにお願いしたのです。
 翌日、お母さんからの返事で「家でも持ち物の始末ができずに困っています。いつも真剣に子どものことを考えてくれてありがたく思っています。どんなふうになるのか、この結果を楽しみにしています」と書かれてありました。
 お母さんの理解が得られたことに、ホッとして、二日目、またお弁当箱探しが始まりました。クラスの子どもたちも心配そうに探してくれたのですが、とうとう見つかりませんでした。当のひろきくんは、みんなが探してくれたことと、ホイルを開いたらおにぎりのお弁当だったのでご機嫌です。その夜ひどく雷が鳴り、雨風が吹き荒れました。
 三日目、給食献立の中にちくわのマリネがありました。調理婦さんにお願いし、四歳児クラスはちくわのマリネだけお皿につけ合わせないようにしてもらいました。
 午前中、お弁当箱探しをしましたが、やはり見つからないまま給食が始まりました。磐田先生が「みなさんのお皿の上に乗りきれなかったごちそうがあります。お弁当のふたに分けたいと思いますから、準備してください」と言いますと、ひろきくんはちょっと困ったような顔をして、ホイルの包みを開け、どうしようかなというように、私たちの顔を見ています。「これ、ちくわのマリネって言うの。すごくおいしいよ」とすました顔で、岩田先生は子どもたちのお弁当箱のふたに分けています。ひろきくんの番になりました。「ひろきくん、お弁当箱じゃなかったね。どうしよう。どこへおこうか?」「ここでいい」とおにぎりの横をさしました。岩田先生はそこへマリネを分けました。「あらっ、マリネのソースがおにぎりにしみちゃった?」せっかくのおにぎりがまずくなっちゃったね。ごめんね」と保母。「ううん、大丈夫、おいしいよ」と言っていますが、やはり最後の一口は残してしまいました。それを見ていた他の子どもたちは「やっぱりお弁当箱じゃなきゃだめだよ。今日みたいな時に困るじゃあ。みんなでもう一回探そうよ」と言っています。そこで昼食後、みんなで探すことになりました。
 私はお弁当箱の中に手紙を入れて、オルガンの陰にそっと置いておきました。おもちゃ箱の中、ロッカーの中全部、そして男の子たちがオルガンを動かしたのです。
「あったあ!あったあ!」とまことくんが、高々とお弁当箱を上げています。みんなかけ寄ってきました。「ほら、ひろきくん、あったよ!」「よかったね。今度はちゃんとしろよ」と男の子たち。ひろきくんは目をうるませて、「ありがとう」。声は小さかったけれど、はっきり言いました。
 翌日お母さんのコメントつきで、ひろきくんがお弁当箱の手紙をもって、登所してきました。連絡帳には「ちょっと困って、楽しい体験をさせてくださり、ありがとうございました。これからはきちんとできるかなって期待しています。お弁当箱の手紙は探してくれたみんなにも、読んであげてください」と書かれていました。
 ひろきくんがお弁当箱の手紙を岩田先生に見せています。子どもたちがワイワイガヤガヤ集まってきました。そこで、その手紙を読み始めました。
『ひろきくんへ
 ひろきくん、ぼくはひろきくんのお弁当箱です。ぼくは、ぼくの中に入っているごはんをおいしそうに食べてくれるひろきくんが大好きです。
 でも、食べ終わるとそのままにして遊びに行ってしまうひろきくんは嫌いです。
 ぼくはいつも早くぼくをかばんの中にしまってくれないかなって思っていました。
 昨日の夜、かみなりがゴロゴロ鳴って、ものすごく雨がふり、風がビュービュー吹くし、真っ暗なお部屋のオルガンの陰で、こわくてこわくて、ガタガタふるえていました。
 毎日、みんながぼくをさがしてくれていたのに、ぼくは声が出せないから「ここだよ!」と言えなくて、すごく悲しかったです。
 早くぼくを見つけて。おねがい!
 そしてぼくを大事にしてください。
                           ひろきくんのお弁当箱より』
(中略)
 それからのひろきくんは、食べ終わるとすぐにお弁当箱をしまうようになりました。洋服や上履きも・・・・。そして、この様子を見た子どもたちも、自分たちのものを気をつけるようになったのです。」


保育士さんがよく言う 「手は出さないで 手をかけてやってください」 ってこういうことなんだなあとおもいます。


日本じゅうのこどもたちが こんな保育を受けられるといいなあとおもいます。



もうひとつは、 こんな保護者でありたいなあというおはなし。 保護者と保育園とのあいだに交わされる連絡帳からです。

「十一月○日
 先生、ひろ子が発表会におなかのすいたスズメになるよってがんばっています。何という劇をするのかわかりませんが、楽しみです。

十一月○日
 今日は、「ヘンゼルとグレーテルの劇をすること」がわかりました。香織ちゃんはヘンゼル、グレーテルはもう一人のひろ子ちゃん、のり夫くんと私がスズメだと伝えています。ちょっとがっかり、だって主役になった方がいいと思いましたから。勤めから帰ってくると、待っていたように経過を話します。楽しみです。

十一月○日
 今日は、家庭の様子をお知らせします。スズメの動きをするひろ子の様子です。
「お母さん、どうスズメに見える?パン食べるのがおいしそう?」「おそいかなー」
両手を広げて部屋を飛び回ったり、両手を動かしたり、身体を前にたおし両手を後ろに伸ばして走ったりしています。途中で止まってパンを食べるまねもしています。スズメになりきっているひろ子に拍手をしてやりました。

十一月○日
 食事後、今日もスズメになりました。両親がお客さまになって見てやりました。途中から本当にパンをちぎって置いてやりましたら、ひろ子は「あれ?」と言って羽根を動かし、真剣にとって食べていました。おいしそうというよりうれしそうでした。発表会が楽しみです。

十一月○日
 先生、発表会に参観できて本当にうれしく思います。家での練習が生きていたのでしょうか、ひろ子のスズメも真剣そのものでした。主役になったらいいのになどと思ったことに恥ずかしさを覚えました。「ヘンゼルとグレーテル」の中でスズメになりたいという気持ちはわかりませんが、なりたいと言うだけの責任感を見せられました。小学校へ行っても、もっと将来も、ひろ子はこのような歩き方をするように、しっかり見てやりたいと思います。ありがとうございました。今後もよろしくお願いします。」

 ちらりん

本当の愛情について かんがえさせられます。


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