8月も半ばになり、稲穂が出揃って受粉活動もほぼ終わったようだ。
受粉後1週間ほどで、胚や胚乳が形成されて、籾がふくらんで実り、間もなく稲穂が大きく頭を垂れるようになる。
この時期の長雨や日照り続きの旱魃は、米の収量と品質に影響するので、どこの農家も空模様を気遣いながら、間断灌漑に余念がない。
幸い飛騨地方は、過度な高温多湿や乾燥が回避されて、まずまずの生育状況のようだ。
稲の花が落ちて子房が膨らむ頃、籾の甘い胚乳を狙ってイノシシが侵入してくる。
田の中を動き回りながら、稲穂を口でしごき取り、小さな田は一夜で全滅になることも稀ではない。
箱罠でも捕獲されたイノシシをよく見かけるし、田んぼの近くには踏み跡や地面を掘り起こした跡がたくさん残っている。
どこも電柵やトタン、網などで囲いをして稲を守っているが、飢えたイノシシはいつ現れるか分からないので、警戒は怠れない。
高山市には、有害鳥獣の捕獲に従事している人が120人ほど居るが、東京都より広い面積をカバーすることは難しい。
市の農務課は、「囲って・追って・最後に捕獲」をスローガンに、鳥獣被害の防止に努めているが、その効果は少なく被害は年々増加している。
集落にも狩猟免許や捕獲許可を受けた人はいるが、高齢化や仕事の合い間にしか出来ないので、神出鬼没のイノシシには太刀打ちできない。
先日捕獲したイノシシの大きな足が、庭先に干してあるのを見かけた。
100キロを超す大物とのことだが、こんなのが田に入ったら、春先からの苦労が一晩で水の泡になってしまう。
作業場には色々な戦利品が飾ってあったが、イノシシの10センチを超すナイフのような鋭い牙は凄みがある。
攻撃的な猟犬は、牙に突かれて命を落とすことがあるが、人間も一突きされたたらひとたまりもない。
鋭い武器を持つイノシシへの先制攻撃は無理なので、非力なにわか農夫は、「囲って」守る専守防衛しか手はなさそうだ。