こころとからだがかたちんば

YMOエイジに愛を込めて。

夏の100曲:ヴィニ・ライリー「スポラディック・レコーディングス」’89

2023-08-09 09:30:00 | 音楽帳

このアルバムを聴くと、音から夏の空に浮かぶ雲が見えてくる。
燃えるように沸き立つ雲。夏のゆらめき。
背後に現れては消えていくオペラティックなコーラスやコーランの声。
スパニッシュ風につまびくヴィニ・ライリーのギター奏法。
弾いている彼の物憂げな姿が浮かびあがる。

ヴィニ・ライリー名義のCD「スポラディック・レコーディングス」に出会ったのは1997年か98年あたりだろうか。神保町のレンタルレコード店「ジャニス」の店内でたまたま出会い、借りてカセットテープに落として聴いていた。80年代前半にはドゥルティ・コラムを聴いていた自分だが、しばらく彼の音楽から遠ざかっていたので、とても懐かしい想いがした。
アルバムそのものは1989年に発表されていたらしい。世界では分水嶺の1989年、自分はこんなCDが当時出ているなんて知らぬままだった。

「スポラディック・レコーディングス」は、80年代前半のドゥルティ・コラム作品よりも内と外の風通しが良く、軽い解放感があり、すがすがしいアルバムの印象。ただ全体では74分のカセットテープに収録したように長く、28曲も曲数がある。タイトルに「スポラディック=散発的」とあるから、散発的に録音された曲をまとめたものなのだろう。このCDのジャケットデザインがかなりラフであることから、寄せ集めた感は否めない。
音楽の主流メディアがレコードからCDへ移行していった80年代終わり以降、オマケ含めてやたら長い分数の収録CDが増えたが、どうもそういうのが苦手だ。

CD「スポラディック・レコーディングス」は最初数曲の中に好きな曲を発見して嬉しくなったものの、CD前半だけでおなかが一杯になってしまい、中だるみして、後半まで気力が続かなかった。それを2023年夏に再び聴いている。やっぱり長いと思ってしまう。疲れやすい身としては、短い分数・短い曲数で勝負してほしい。無理なく使える心・体・時間が限られるリハビリ途上の身には、それはとても切実な願いである。

そう言いながらも、アルバムは「Buddhist Prayer」に始まり、3曲目「Nile Opera」、4曲目「Shirt No. 7」と立て続けに良い曲が流れていく。ついヨーロッパの海辺の風景を思い浮かべる。ドゥルティ・コラムには四季折々聴きたくなる曲があるが、このソロ作品は夏向けの曲が多い。いろいろ言ったものの名盤。好きな曲はみんな異なるだろうが、とても良い作品である。

ヴィニ・ライリーの繊細でか弱い肉体と美しい音楽の調べは、いつも磁石みたいに相反するように結びつきあっている。自分の羽を抜きながら織物を織っていく夕鶴みたいに、身を削りながら、悩ましい内界の苦悶をギターの美しい調べへ昇華させていく。この作品にもそんな美しい曲が多く収録されている。

■Vini Reilly 「Buddhist Prayer」~「Pathway」 l989■

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 夏の100曲:ロビー・デュプリ... | トップ | 夏の100曲:アレックス・ホウ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

音楽帳」カテゴリの最新記事