秋、というより、ボクは冬に聴いていた記憶が強い。
シングルで発売されたカラーフィールドの「君を想う」。
■Colour Field 「Thinking Of You」■
1983年生まれたニュー・アコースティック・ムーヴメントとは、何だったか?
ただのアコースティックとどう違うの?
と言えば、前者は、70年代終わりから爆発し世界を包んだテクノ〜エレクトロニクスの嵐への反動であり、そうでは無い地点に自分の居場所を求めていたことが、音楽シーンの中に波紋のように現れた現象だった。
そういう時代の中で存在した音楽をそう音楽界はくくった。
音楽は時代と無縁では無い。
画家が、その絵を評価されないまま不遇の時代を過ごすことと同様。
アートが産まれた時代と変わった時代に再評価、と言われるのは、時代の有り様と音楽が持つ位置付けが変化し、その中で見えてくる・聴こえてくる響きが異なることを意味する。
カラー・フィールドも、た・ぶ・ん・・・ニュー・アコースティック・・・と語られるのだろう。
ボクは、そういう意識は当時無かった。
ただ、この曲の持つみずみずしさやほのあかりには癒された。
貴重なる12インチシングルの温和な小さな世界。
時は、既に不幸な80年代中盤の行き詰まりに入っており、ニュー・アコースティック・ムーヴメントと現れた幸福感ある時代とはニュアンスが異なっていた。
テリー・ホールという人は、時代に敏感で、スカ/2トーン・ブームの中心でスペシャルズに居たかと思えば、その後にはファン・ボーイ・スリーを創り、そしてその後に、このカラー・フィールド。
当時、自分が夢中になって週末に見ていた土曜の夜の「オールナイトフジ」。
そのバックに、この「シンキング・オブ・ユー」がかかったシーンを思い出す。
確か女子大生2人が、憧れのイギリスに行き・現地のファッションや風土を紹介したコーナーでこの曲がかかっていた。トラディショナルなものに憧れて、ジャケットやセーターを買っては着ていた自分。
そのイギリスでニック・ヘイワードにインタビューして、リラックスしたその部屋でニックがギターを弾いて2人に曲をプレゼントした。なんという贅沢。
そうだった。それを仲介し、通訳をしていたのがトシ矢嶋さんだった。
2人の旅先案内人を勤め、当時のディスコにも連れて行き、3人一緒に踊っていたシーン。
日本は超情報世界の渦の中に呑み込まれていくなか、そのイギリスの穏やかな様は、遠い憧れの夢のような感触だった。
本当の現実は、イギリス労働者たちを包んだ不幸が、スミスの出現を産んだように、決して平和なんかじゃ無かったが、TVを通して見た世界はそうでは無かった。
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当時「シンキング・オブ・ユー」をクロスオーヴァーイレヴンでエアチェックしたカセットテープの次の曲は、ダリズ・カー(ミック・カーン&ピーター・マーフィー)の「ライフロング・モーメント」。
それとは違うカセットだが、ヴァージニア・アストレイの「ウェイティング・トウ・フォール(秋を待つ)」と合わせて聴いていた。
浪人時代の浅い段階。音楽を聴くことで、現実から逃避していた。
去年の暮れに読んだ本「狂いのすすめ」に、こんな狂った世界をまともに取り合っていたら自滅してしまう、そう書いてあったのとリンクする。
精神面でもし「現実」に逮捕されずに、逃避して逃げ切れるならば、せいぜい逃げた方が良い。
発狂してもおかしくない時代に、誰も助けてなどくれはしない。