「たくさんの手を考えなくて済むようになるのが強くなること」
羽生善治
人工知能は、今やチェスや将棋よりもさらに複雑な囲碁でさえも、人間のチャンピオンに完勝するまでに進歩している。
どのくらい囲碁が複雑かというと、1回の対局で考えられるゲーム展開が、チェスで10の120乗、将棋で10の220乗であるのに対し、囲碁が10の360乗という桁違いな数字になるコトからも分かる。
人工知能は、これまでその計算速度、処理能力によって人間を凌駕してきたが、囲碁の対局で人間をしのぐ人工知能、”アルファ碁”は、人間独自のものと思われてきた”直感”や”ひらめき”といったものさえ備えているのである。
そうした直感やひらめきは、多くの経験の中から育まれる。
いわば、直感力とは経験に裏打ちされた"ひらめき"によって最適解を導き出す力・・と言えよう。
そこで、アルファ碁は開発にあたり、過去に行われた15万局分もの盤面を画像として与え、あらゆるパターンの対局を覚えこませた。
アルファ碁は、様々な石の並びを徹底比較、その中から、各局面で勝ちにつながる展開に共通するパターン(石の並び)を導き出し、それに照らして、次の一手の選択肢を絞り込むようになった。
選択肢のすべてを予測するのではなく、その絞り込んだ選択肢にだけ集中して、次の展開を予測するようになったというワケである。
その結果、これまで1億通り以上の手を計算していたそれまでのチェスの対戦用人工知能に対し、わずか数万手を計算するだけで済むようになったという。
将棋の世界に「長考に良手なし」という言葉があるそうだ。
長く考えて、あれこれ悩んでも、結局、大した手は打てない。
経験によって、ここ!と思う勝負ドコロを見極め、そこに絞り込む。
多くの選択肢に右往左往するのではなく、無駄な考えをなくし、時々刻々と変化する状況の中、その時点で最も有効と思われる選択肢を最短で見いだすのは、経験に裏打ちされた直感力である。
しかし、その直感力を養うには、多くの無駄な選択や失敗を経験する以外にない・・というのも、皮肉な話であるが・・。