子供の頃から、大人になったら、オーロラを見てみたいと思っていた。その夢をかなえたいと、1994年の年末・年始休暇を利用して、アラスカへ行った。
日付変更線を越えてアンカレッジに到着したその日に、タルキートナまで移動した。この町は小さいけれど、マッキンリー山への登山基地として知られている。あの植村直己さんも、この町からマッキンリーに挑み、そして帰らぬ人となった。その植村さんも宿泊したというのが、“LATITUDE 62°LODGE”であり、今回のTシャツは、そこで買ったものだ。この時は約10名のツアーだったので、参加者でくじ引きをして当たった人が、植村さんが宿泊した部屋に泊まれることになった。しかし、残念ながら私はハズレだった。
冬のアラスカは、昼間が短い。しかも毎日どんよりした天気だった。それでも短い昼間には、凍った湖での魚釣り、スノーモービル、そして犬ぞりなどを楽しんだ。全部初めての体験だったが、犬ぞりに乗った時は、犬のお尻がとても臭く少々閉口した。
タルキートナには2泊して、いよいよ主役に会うために北上して、フェアバンクスへ向かった。ここでは、オーロラを見るチャンスは3日あった。昼間は自由時間で、足元がむずむずするような小型飛行機に乗り、マッキンリーのすぐ近くまで行く遊覧飛行を楽しんだり、温泉地へ行ったりして過ごした。しかし、なんと言っても夜が待ち遠しかった。
主役に会うために、毎日夕食が終わってしばらく休憩してから、スキー場のロッジへ向かう3日間だった。暖かいロッジの中で休憩しながら、主役が現れるのをひたすら待つ。ところが、いくら空を見上げていても、もやっているような感じにはなるものの、私がイメージしていたあのカーテンひらひらのオーロラは、3日目になっても現れてくれなかった。ガイドは、もやっている感じのものもオーロラの一種なのだと説明してくれたが、誰が見たってあんなものでは満足しないだろうと思った。そうして、3日目もどんどん時間が過ぎ深夜になり、「もうホテルへ帰る時間だから」とバスに乗るように言われたので、後ろ髪をひかれる思いでバスに向かった。 ![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/kaeru_shock1.gif)
ところが、何だか空がざわざわし始めたような音が聞こえた気がした。しばし北の空を注視すると、うっすらと色づき始めた空がかすかに動き出した。「わ~~~ オーロラじゃないの?」と胸がときめき、一度も見たことがないのに、すぐにオーロラだと確信した。デイパックにしまったカメラと三脚を急いで取り出し、わき目もふらず少しでもいい場所をと思い走って行き、地面に三脚を設置し、カメラを取り付けた。そして、露出時間などあてずっぽうに、いろいろ時間を変えてシャッターをきり続けた。暗い空に現れたオーロラは、緑が主体の色調で、自分が子供のころから思い描いていたカーテンひらひらのものだった。一瞬、一瞬ごとに少しずつ色が変わり、うねるようにひらひらと舞ってくれた。もう、息をするのが惜しいくらいに見続けたように思う。
おそらく、オーロラが出現していたのはほんの数分間だっただろう。それでも、9回裏ツーアウトでやっと逆転した感じで、主役に会えたのだから、アラスカまで来た甲斐があったと思った。