怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

軽部謙介「アフターアベノミクス」

2024-03-15 08:14:53 | 
「死せる孔明生ける仲達を走らす」
安部が首相を退き、菅、岸田と首相は変わっているけど、いまだにアベノミクスの呪縛は金融財政政策に大きな影響を与えている。
安倍政権の後半には、安倍自身が金融政策への関心が下がっていた。
アベノミクスの具体的な見るべき政策は異次元の金融緩和の一本足だったのですが、当初黒田東彦総裁は2年で物価目標の2%を達成できると豪語していた。
岩田副総裁はデフレは貨幣現象なのでマネーサプライを潤沢にすれば克服できると言っていた。
しかし2%の物価上昇は金融緩和だけでは実現せず、安倍首相は金融緩和だけではデフレ脱却できないと言われるのを嫌い、次第に財政政策に議論の重点を移していく。
財政再建にこだわる財務省を仮想敵として積極財政を訴えていく。いわゆるリフレ派と言われる人たちも金融政策についてはゼロ金利もやりイールドカーブコントロールもやりと緩和をこれ以上できない以上論点を財政拡大に移していく。
アベノミクスの初期の成功体験が大きく安倍が首相退陣しても政治的影響力が大きかったこともあり、アベノミクスの純粋経済的な検証はされることはなかったと言える。
アベノミクスが華々しくデビューした時には過度の円高を逆転させ(実際にはアベノミクス前から円高はピークを越えていて修正されつつあったのだが、それは過度の円高がギリシャなどヨーロッパの金融不安が落ち着いてきたことにより、アベノミクスはまさにいいタイミングで打ち出してその功績を独り占めできた)、株価上昇をもたらし、世間にその成功体験は深く刻み込まれた、安倍の政治力の源泉となっていた。安倍にとってアベノミクスこそ長期政権の礎であり、その面で政治マターとなってしまった。
この本は安倍退陣後のアベノミクスを巡る政治経済の水面下を含めたせめぎあいを追ったもの。

安倍退陣後も後を継いだ菅首相は、マクロ経済背策としてはアベノミクスが所与のもので何ら見直すことも検証することもなく、関心はもっぱらミクロ経済施策にあった。大きな絵をかくことが出来ないどちらかと言うと黒子として物事を進めていく菅首相らしいと言えるのだが、そのため党内最大派閥を率いる安部は何時までも政治的に実質権力を握って活発に発言していた。場合によってはもう一度首相に復権するつもりだったかもしれない。
当然ながらアベノミクスの見直しには強い反発があり、金融政策への関心は薄れたとは言っても金融緩和の見直しについては議論の俎上に載せることさえ難しい状況に。
首相官邸、財務省、日本銀行と3社の思惑が錯綜して人事も絡んで水面下で虚々実々の駆け引きが行われていた。
金融緩和と円安は日本経済に何をもたらしたのか。低金利に支えられて国債発行のハードルは下がり、プライマリーバランスの目標は延期が繰り返され、はるかな目標の北極星と化した。
その一方で社会は格差が広がり、実質賃金は一向に上がらず、円安もあって日本の一人当たりGDPとか生産性の伸びとか各種指標での国際的な地位は下がり続けた。残念ながらと言うか予想されたことだがトリクルダウンは無理筋だったみたい。
功罪を一度経済学的に検証する必要があると思うのだが、政治的バイアスがかかり安倍亡きあとでもまともに議論が進んだと思えない。
リフレ派の主張にはある種の後は野となれ式のいかがわしさを感じるのだが、財務省を敵として財政規律を求める論者はすべて財務省の回し者と断罪すると当面苦い薬を飲むことなくマスコミ受けするので声が大きくなっている。
マクロ経済政策の議論として明確にアベノミクスに異を唱える政治的対抗勢力がいないと、表立った検証がされることなく、このままなし崩しに修正が行われしかないのだろうか。
こうして安倍亡きあと、裏金問題で安倍派が解散した今、円安の弊害も言われ始めているのですが、正面切って検証を始める議論はない。あり得ないのだろうが政権交代でもあると替わるのでしょうか。
こうやってレヴューを書くのは頭の中がまとまらずに大変でしたが、文章は読みやすくそんなに苦労することなく読了することが出来ました。
コメント
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