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怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

養老孟司・藻谷浩介「日本の進む道」

2023-12-17 20:56:24 | 
養老孟司さんは不思議な人です。
東大医学部教授でありながら早期退職して、昆虫採集に夢中で昆虫研究のために自宅にCTまで購入している。
その著書は「バカの壁」を始めとするベストセラーが続出。
そんな養老先生の周りには同じ昆虫採集仲間の池田清彦とか、思想家の内田樹とか一癖も二癖もありそうなどこか世をすねたような人が集まってきて年に何回か話すサロンを作っている。
藻谷浩介さんもどうやらサロンの一員みたいで、今回は藻谷浩介さんと対談しています。

今の養老先生のもっぱらの気がかりは天災、特に東南海地震。尾池先生の予言?2038年ごろに南海トラフ地震が起こると言う説を紹介しつつ、富士山も300年ほど噴火していないし、連動して噴火する可能性もありそう。大都市で大地震とか噴火の被害にあうと生活に必要な水、食料、エネルギーの確保は大変。首都圏3500万人を支えるだけの物資の在庫を持っているところはなく、輸送手段も限られてくる。地域ごとに自給していかないと生き残れないのだろうけど世の意識はなかなか変わらない。養老先生は2038年になると101歳なので、くよくよ心配しても仕方ない、まあなるようになると言うことみたいですけど。
経済についてはもっぱら藻谷さんが話して養老先生はふむふむと合いの手を挟むぐらいなのですが、藻谷さんの議論が面白い。
アベノミクスで株価は上がったけれど名目GDPは年1%台の成長で個人消費はほぼ横ばい。円ベースではなくてドルベースで考えれば2割の減少。経済成長とは株価上昇とされてきた。しかし資本主義とはお金儲けだけの話ではなくて、循環再生が不可分で、他者から収奪して儲けるとか元本を取り崩すのは資本主義ではない。
地震、火山噴火などの大災害が起きると大都会は機能不全となってしまうので、ここは藻谷さんがかねてから唱えている「里山資本主義」の出番。
ちょっと驚いたのですが、日本は田舎の隅々まで高密度で人が住んでいる国で、山林や湖沼を除いた可住地の人口密度は、過疎と言われている島根県で1平方キロメートル当たり600人。中国は180人でフランスで300人、イギリスで150人、ドイツが350人くらいでアメリカでは50人。日本の田舎は世界から見れば「適密」と言えます。これは日本の降水量が多く土が肥えているため面積当たり人口支持力が高いから。それなのに田舎を出てドンドン過密の都会へ出ていくのは如何なものか。東日本大震災は大規模集中型電源システムを自然エネルギー利用と省エネで分散型電源システムにするチャンスだったのですが、原発回帰を諦めずにいるのは愚策というしかない。今の人口動向から言えば人口減少は必至で、仮に日本の人口が半減すれば空くであろう土地を有効活用すれば食糧問題も解決への道筋が見えてくるかもしれないのですけど…
日本経済の状況を数字で見てみると、今の国の税収は史上最高。輸出も円ベースでもドルベースでも最高水準。海外投資の金利収入も好調で、円安原油高で16兆もの貿易赤字が出た22年でも経常収支は11兆円の黒字。因みに高齢者が国民の3割に迫っているにもかかわらず新型コロナの人口当たりの死者は先進国では最低水準、平均寿命は最高水準のまま。
それでも日本政府の借金は増える一方。年間100兆円以上の膨大な歳出がどこに消えているのか分からない。
日本国内の個人消費は19年に250兆円だったのが、20年には232兆円、21年も234兆円と増えいていない。国が毎年100兆円以上使っているのに個人が使っているお金が増えないのはなぜ?20年に12兆円の給付金が国民個人個人の口座に振り込まれたのに、個人消費が18兆円減っている。合理的に考えるならそこかで誰かにため込まれて死に金になっている。政府が個人にお金を出しても個人消費が増えないのなら、実態としてマイナスの乗数効果が働いているとしたら、政策として個人消費が増えるために別の手段を考えないといけないのだが、世のエコノミストはそんなことは誰も言わない。
養老先生に言わせると数字だけ見て現場を見ていない、自分の足元を見ていなくて、制度いじりはやっていても具体的なことになると動かないと。
藻谷さんの理論的な切り口鋭い議論に対して養老先生の茫洋としたような語り口が包み込んでいます。この日本これでいいのかと思いつつ大震災でも起こってリセットされるまで行くんだろうかとこの本を読んでいました。その意味では結構読むのがしんどい本でした。


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