怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「China2049」マイケル・ピルズベリー

2021-06-10 14:16:57 | 
中国4000年の歴史。
その中で19世紀から20世紀にかけての100年は屈辱の黒歴史。
1949年建国の中華人民共和国の隠れたミッションはその屈辱を晴らしたうえでの世界帝国中国の復活。

著者のマイケル・ピルズベリーはアメリカのCIAにも勤めていた中国ウオッチャー。1971年の米中国交回復以来アメリカの対中国政策に深く関与していたのだが、その中国政策は中国の隠れたミッションを見誤って、アメリカの地位を脅かす存在にまでしてしまったと率直に反省している。
アメリカから見て当時の中国は脆弱で、「中国の発展を助けて、技術、資金、軍事援助を行っていけばやがては民主的で平和な大国になる。しかし大国になっても地域支配、世界支配を目論んだりしない」という美しい仮説に立っていたのだが、実際は他国の覇権に反対しつつ、長い間隠していたのだが自らが覇権を持とうとしていた。
中国は長い歴史の中で、春秋戦国時代、三国志時代などで権謀術数、策略を駆使して覇権を取ってきたことが、一般教養の知識として蓄積されている。歴史の浅いアメリカ人には理解しがたかったのだろうが、100年単位(世界覇権100年戦略)で、アメリカに替わって世界の覇権を獲り、世界の軍事、経済、政治のリーダーになると言う中華人民の夢を実現しようとしてきた。
毛沢東が長征に持って行った本が「資治通鑑」であり、史記とかの記述は知識人の一般教養であり、孫氏の兵法なども広く知られている中で、有職故事に通じているのは中国人にとっては当たり前。日本人にとっても四字熟語として知っていることわざは数多です。そのような有職故事に基づいて表現される策略について著者も含めたアメリカの中国ウオッチャーはほとんど理解していなかったというのは驚きです。底流に前100年の欧米列強に食い物にされたきた中華民族の怨念があり、いつの日か中国共産党の下でアメリカに替わって世界のリーダーになるなどという考えがあるなどと言うのは想定外だったのでしょう。アメリカのいわゆる「中国専門家」の大半は、中国語をかたことくらいしか話すことができず、中国語が分からない人の前でしゃべれるふりをするのがせいぜいだったと書かれているとむべなるかなとしか言いようがない。
もっとも国交回復時には、中国の経済的実力は発展途上国そのものであって国力が伴わずひたすら牙を隠してきたのだが。当時は中ソ対立が顕在化してきた時であり、アメリカも中国もソ連に対抗するために協力するのは、winwinの関係となる。中国の方から密かにアメリカにすり寄ったようですが、国内向けにはアメリカから申し出があったとなっている。アメリカはソ連への抑止力として中国に惜しみなく軍事技術援助を行い、経済的にも世界貿易体制に組み込んでいく中で投資資金援助を行い、まったく警戒することなく中国の台頭を助けてきたのです。西側諸国は中国に機密情報や技術、軍事のノウハウ、専門家の助言をふんだんに提供し、世界銀行は中国がアメリカに追いつく方法を助言し、金融的支援をし、なおかつ中国は提供されなかったものは盗み取っていた。
ただ、ひとつ言わせてもらえば、アメリカをはじめとする西側諸国は中国を世界貿易体制に組み込んで貿易と投資によって膨大な利益を得てきており、何も善意だけで援助していたわけではないのですけど。今や中国は世界の工場として世界経済に大きな地位を占めていて、経済的にはアメリカとずぶずぶの関係と言ってもいい。
西側にとって誤算だったのは、中国が経済的に発展するとともに経済の自由化、法による支配、政治の民主化が進むと信じていたのだが、民主化は一向に進まず共産党独裁体制は揺らいでいないこと。それどころか習近平になって共産党独裁専制体制が強固になってきている。
さらに最近はちょっと下火になったのですが、国有企業の非効率と膨大な不良債務、少数民族問題、官僚主義の無能と腐敗などで中国崩壊説が盛んに言われていたのだが、それらの桎梏を飲み込みながらもいまだにGDPは伸びていてアメリカを追い抜く日も近いと言われている。
ここに至って、中国はその2049年への野望を隠さずに来ており、アメリカの覇権の鼎の軽重を問おうとしている。アメリカも自らの覇権を脅かす存在としてようやく認識しだし、ペンス副大統領の歴史的な演説以来その中国政策を大きく転換してきている。
これからは何やら春秋戦国時代のように誰が覇者になるかで権謀術策が飛び交うのだろうが、日本の立ち位置はどうすればいいのか。アメリカのほぼ属国である以上アメリカの世界戦略に従わざるを得ないのだが、尖閣問題もあり望まないのに最前線に立たされる恐れもあり、経済的には大きく投資していて貿易相手国としても大きな位置を占めているので悩ましいところです。
訳文は読みやすいし360ページほどの本ですが、苦労なく読めましたが、中国とどう付き合っていくのか考えさせられます。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする