怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「もし高校野球のマネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」岩崎夏海

2016-07-29 07:11:44 | 
この本が出たときには「もしドラ」と言われて評判になりベストセラーになった記憶です。奥付を見ても初版から半年で12版と版を重ねていました。
著者は放送作家で、AKB48のプロデュースにも関わっていたという人。業界人がうまく時代を読み込んで書き飛ばした本かと思っていたのですが、読んでみたらこれが結構面白いし、ドラッカーのエッセンスをうまく取り込んでいて経営学の本としてもよくできています。
バカにしていてすいません。

野球部のマネージャーがドラッガーの「マネジメント」を読んでみて、そこに書いてあることを実践していくことで公立のさして強くもないどこにでもあるような野球部を甲子園に引っ張っていく。ありえない設定で絶対に無理なはずなのですが、そこはちゃんとありそうかなと思わせるような工夫がしてあります。
ストーリーとしては「べた」で如何にもとんとん拍子に展開して行くのですが、それなりに涙あり苦悩ありで最後まで読者を一緒に引っ張っていきます。
ところで最初に出てくるのがマネージャーの資質。
*マネージャーが始めから身につけていなくてはならない資質がひとつだけある。それは才能ではない、「真摯さ」である。
う~ん、真摯さ、なんなんだろう…でもわかるような気もする。
組織をマネジメントするためには、まず最初に「組織の定義づけ」から始めないといけないとか。
*「我々の事業は何か」との問いは、ほとんどの場合答えるのが難しい問題である。「我々の事業は何か」との問いは企業を外部すなわち顧客と市場の観点から見て、初めて答えることができる。
ここから野球部の定義として「顧客に感動を与えること」が導かれ、目標が甲子園に行くことに決まります。
ここで私の元の職場のことが突然のごとく思い出されてしまったのですが、このところ保育園の待機児童が問題とされ、都知事選挙でも各候補が待機児童ゼロを訴えています。ところで保育園の顧客はだれなんだろう。保育園の顧客は当然ながら子どもです。今の議論は市場の観点ばかりで論じられていて、顧客のことがあまり顧みられていない気がしてならない。今の労働環境や子育て環境の息苦しさを鑑みれば保育園にいろいろ無理をしてもらっても、そこでひとまず矛盾を解決してもらうのが一番なんだろうけど、それが子どもにとって一番いいことなのだろうか。社会の矛盾を全部押し付けて保育園だけで解決するというのは無理があると思います。発言権があるのは親で、保育園を成り立たせている市場ばかり見ているのでは。本当は親の働き方を含めて子どもにとっていい方法を真摯に議論しなくてはいけないはずなのに、労働行政では企業の経営を維持しなくてはいけないことが優先されて踏み込めないままです。こういうこともあって日本人の働き方も含めて少し中長期に解決すべきと訴えたら落選確実ですね。でも票を取るためにひたすら人気取りで待機児童ゼロを訴えているだけ、本当に子どものことを考えているのだろうか、難しい状況を理解しているのだろうかと思うような首長が誰とは言いませんがいるのも事実でしょう。
ちょっと話がそれてしまいましたが安易に保育園を作れば問題が解決すると考えている人が多い風潮には腹立たしい想いですし、真の問題の解決にはならないと思うのです。ちなみに保育園児一人に毎月たしか30万円余りの経費が掛かります。ほとんどが公費負担ですが財源をどうするかの訴えも聞いたことありませんけど、そこをスルーするのは真摯さが足りないのでは。
閑話休題。この本には随所にドラッカーの言葉が引用してありますが、仕事をしていくうえで悩み迷っていたことにズバリ切り込ん来るので結構心に響きます。
*人のマネジメントとは、人の強みを発揮させることである。人は弱い。悲しいほどに弱い。問題を起こす。手続きや雑事を必要とする。人とは、費用であり、脅威である。
 しかし人は、これらのことゆえに雇われるのではない。人が雇われるのは、強みの故であり能力の故である。組織の目的は、人の強みを生産に結び付け、人の弱みを中和することである。
人間は弱いんですよね。弱い私です。でも組織はそんな弱い人間を束ねて各人の能力以上の力を出させていく。その通り!心に刻んでおきましょう。
*成果とは何か理解しなければならない。成果とは百発百中のことではない。百発百中は曲芸である。成果とは長期のものである。すなわち間違いや失敗しないものを信用してはならないということである。それは、見せかけか、無難なこと、下らないことにしか手を付けない者である。成果とは打率である。弱みがないことを評価してはならない。そのようなことでは、意欲を失わせ、士気を損なう。人は優れているほど多くの間違いを犯す。優れているほど新しいことを試みる。
おお!何度も失敗してきた私を評価していただいた上司に感謝!そして失敗のない者を評価することのむつかしさは胸に響きます。
高校野球について触れておくと、この本で高校野球のイノベーションたる戦術を提示しているのですが、それが「ノーバント・ノーボール作戦」。送りバントとボール球を打たせる投球術を無くすということです。無駄にアウトを一つやらない、無駄に球数を増やさない。確かに有りですね。炎天下で一人の投手が連投するのは批判の的ですが、東京とか愛知では何回戦も勝ち抜かないといけないので無駄に球数を増やせば投手は持たない。練習方法もこの作戦に特化すればかなりのところまで行けそう。この本では甲子園まで行くんですけど、それは出来すぎ。まあ小説ですから。でもこの本を読んで実践する高校もあったんではないのかな?
読了後「ドラッカー」の本、手始めに「マネジメント」を読んで見ようかと思わされます。
ベストセラーにはそうなるだけのものがありました。
コメント
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