安倍首相が「この道しかない」というアベノミクス。
その政策はいわゆる「リフレ」であり、インフレをわざと起こしていくことです。
この本はそんなリフレ政策が最悪の誤った主張であり日本経済が崩壊する可能性があるとして、日本経済がどうなってしまうかのプロセスを丁寧に追っている。
第0章のリフレ政策の概説の後からリフレ派の理論的な誤りを第5章までに縷々述べている。最近私自身が反リフレ派の本をよく読むせいか、おなじみの議論なんですが、通貨供給量を増やせばインフレになり円安となって経済は成長するなんて言うのは、つまるところみんなにそういう期待を抱かせることによって「信じる者は救われる」となること。そこには経済学としてのきちんとした裏付などなく、なせば成るの気合があるのみ。
実際、アベノミクスで円安になり株は上がったと宣伝されているのですが(それだけだという議論もあるのですがひとまずそれは措いといても)衆議院解散頃から円高は修正されてきており株も反転してきている。為替の動向は日銀の金融緩和だけでは決まらずアメリカ、欧州などの経済の動向などの複雑な要因によって決まってくるのだし、株価も外国人投資家の動向に大きく左右されている日本の株式市場の特質からリスクマネーがどこに向かうかに左右されがちです。
株価について言えば民主党政権があまりにも酷くてまともな政権運営ができていなかったことから、自民党政権に復帰したことによる安心感とともになんとなくもやもやが晴れた気分が寄与していたかもしれません。
しかしみんな何故インフレがそんなに好きなんでしょうか。生活するうえでインフレになって困る人は多いと思うのですが、株などの資産を持っている人、金融を始めとする市場関係者とそこに凭れている人たちにとってはインフレにならないと旨味がないのでしょう。アベノミクスが誰のための政策がわかります。でも総選挙でもアベノミクスへの批判はあっても真正面から日銀の異次元の金融緩和に激しく対立した議論はなかったと思うのですけど、私に見えなかっただけか…
まあ理論的なことは伊東光晴先生の「アベノミクス批判」で十分かと思います。
この本の白眉は第6章のリフレ政策を政治家や経済学者やエコノミストがなぜ大好きで必死に主張するのかという謎に迫っているところです。
政治家にとって批判相手が必要で、日本が悪いのは官僚のせいだと言っていたのですが、官僚を使いこなせなかった民主党政権から変わって、いつまでもそんなことばかり言ってられなくなってきました。ここで経済が悪いのは日銀のせいだという議論が盛り上がったのでしょう。更にデフレで物価が下がっているのはお金が足りないから、お金を刷って、そのお金をぐるぐる回せば景気が戻ってくる。
分かりやすい論理です。
ぐだぐだ言っている日銀は責任を取ろうとしないので、政治家がリーダーとして思い切った政策=アベノミクスを行い国民にアピールする。実際これで総選挙は圧勝したのです。
白川前日銀総裁はバランス感覚に優れ国際的にも評価が高かったのですが、生真面目ではったりがない分、損をしていたと思います。そしてそこをリフレ派に攻撃されてしまいました。でも白川前総裁時代から日銀は伝統的手法にこだわらずやれることは最大限取り組んでいたのですがプレゼンが下手だったんですね。あえて言えば竹中平蔵ぐらいの白を黒と言いくるめるようなプレゼン能力があればと思いますが、実直な学者肌な人には望むべくもないか…
しかし異次元の金融緩和で株価は上がりましたが実体経済は回復し長期成長見通しは改善したのでしょうか。円安により輸出企業の円換算の企業利益は大幅増ですが、輸出数量は伸びていません。このことだけをとっても円安になれば輸出は回復し日本経済は成長するといった浜田宏一の説は誤っていました。日本の輸出は円建てで行っています。為替の動向に業績が左右されない企業にならないとこれからも為替に右往左往するだけです。
経済学者の間ではリフレ派というものは全く非主流派で、著者は金融市場に対する金融政策のプロでなく現実がわかっていないうえに机上の融論が大好きな人がリフレを主張していると切って捨てています。リフレ派の議論を突き詰めていくとヘリコプターから金をばら撒けということになります。具体的手段を持たずに政策提言しているのですが、勇ましい議論ばかりで現実的な話にならない。つまるところ「期待に働きかける」しかなく、日銀に気合が足らないとなっていきます。でも勇ましいだけにマスコミ受けはするし、安倍首相の覚えめでたく、もてはやされているのです。
このまま日銀が黒田総裁の元突っ走っていったらどうなるのでしょうか。
そもそも中央銀行の役割は貨幣価値を守ることであり、円という通貨が高く評価されることは日本の国富を守ることだと思います。先日モノづくり企業の人たちと話していたのですが、企業にとっては長期の企業戦略を考える時、為替の安定のほうが大切で、過度の円高も困るけど円安が進みすぎるのも困るという意見でした。これ以上の通貨安競争をするのはいかがと思います。でもアベノミクスは止まりそうもないですね。
超成熟経済国家としての日本の資産価値をうまく生かし人材を育成し、地域のコミュニティ、環境、社会的背景、経営者、従業員の醸し出す雰囲気を有機的に結合して日本しかできないという価値あるものを生み出す「場」を作っていくこと、著者は人的資本の蓄積をもたらす雇用を増やすことが日本経済の唯一の改善策として提言しています。
でもこれってアベノミクスの第3の矢でやろうとしていることの真逆では。個別企業にとって短期的には解雇を簡単にし派遣労働を受け入れることは合理的かもしれませんが、長期的にはその存立を危うくすることになるかもしれませんし、総資本の立場でいえば日本人総体としての熟練が途絶え優秀な人材の再生産に齟齬をきたします。若者が非正規のままでは未婚率を上昇させて少子化を激化させるだけです。
その政策はいわゆる「リフレ」であり、インフレをわざと起こしていくことです。
この本はそんなリフレ政策が最悪の誤った主張であり日本経済が崩壊する可能性があるとして、日本経済がどうなってしまうかのプロセスを丁寧に追っている。
第0章のリフレ政策の概説の後からリフレ派の理論的な誤りを第5章までに縷々述べている。最近私自身が反リフレ派の本をよく読むせいか、おなじみの議論なんですが、通貨供給量を増やせばインフレになり円安となって経済は成長するなんて言うのは、つまるところみんなにそういう期待を抱かせることによって「信じる者は救われる」となること。そこには経済学としてのきちんとした裏付などなく、なせば成るの気合があるのみ。
実際、アベノミクスで円安になり株は上がったと宣伝されているのですが(それだけだという議論もあるのですがひとまずそれは措いといても)衆議院解散頃から円高は修正されてきており株も反転してきている。為替の動向は日銀の金融緩和だけでは決まらずアメリカ、欧州などの経済の動向などの複雑な要因によって決まってくるのだし、株価も外国人投資家の動向に大きく左右されている日本の株式市場の特質からリスクマネーがどこに向かうかに左右されがちです。
株価について言えば民主党政権があまりにも酷くてまともな政権運営ができていなかったことから、自民党政権に復帰したことによる安心感とともになんとなくもやもやが晴れた気分が寄与していたかもしれません。
しかしみんな何故インフレがそんなに好きなんでしょうか。生活するうえでインフレになって困る人は多いと思うのですが、株などの資産を持っている人、金融を始めとする市場関係者とそこに凭れている人たちにとってはインフレにならないと旨味がないのでしょう。アベノミクスが誰のための政策がわかります。でも総選挙でもアベノミクスへの批判はあっても真正面から日銀の異次元の金融緩和に激しく対立した議論はなかったと思うのですけど、私に見えなかっただけか…
まあ理論的なことは伊東光晴先生の「アベノミクス批判」で十分かと思います。
この本の白眉は第6章のリフレ政策を政治家や経済学者やエコノミストがなぜ大好きで必死に主張するのかという謎に迫っているところです。
政治家にとって批判相手が必要で、日本が悪いのは官僚のせいだと言っていたのですが、官僚を使いこなせなかった民主党政権から変わって、いつまでもそんなことばかり言ってられなくなってきました。ここで経済が悪いのは日銀のせいだという議論が盛り上がったのでしょう。更にデフレで物価が下がっているのはお金が足りないから、お金を刷って、そのお金をぐるぐる回せば景気が戻ってくる。
分かりやすい論理です。
ぐだぐだ言っている日銀は責任を取ろうとしないので、政治家がリーダーとして思い切った政策=アベノミクスを行い国民にアピールする。実際これで総選挙は圧勝したのです。
白川前日銀総裁はバランス感覚に優れ国際的にも評価が高かったのですが、生真面目ではったりがない分、損をしていたと思います。そしてそこをリフレ派に攻撃されてしまいました。でも白川前総裁時代から日銀は伝統的手法にこだわらずやれることは最大限取り組んでいたのですがプレゼンが下手だったんですね。あえて言えば竹中平蔵ぐらいの白を黒と言いくるめるようなプレゼン能力があればと思いますが、実直な学者肌な人には望むべくもないか…
しかし異次元の金融緩和で株価は上がりましたが実体経済は回復し長期成長見通しは改善したのでしょうか。円安により輸出企業の円換算の企業利益は大幅増ですが、輸出数量は伸びていません。このことだけをとっても円安になれば輸出は回復し日本経済は成長するといった浜田宏一の説は誤っていました。日本の輸出は円建てで行っています。為替の動向に業績が左右されない企業にならないとこれからも為替に右往左往するだけです。
経済学者の間ではリフレ派というものは全く非主流派で、著者は金融市場に対する金融政策のプロでなく現実がわかっていないうえに机上の融論が大好きな人がリフレを主張していると切って捨てています。リフレ派の議論を突き詰めていくとヘリコプターから金をばら撒けということになります。具体的手段を持たずに政策提言しているのですが、勇ましい議論ばかりで現実的な話にならない。つまるところ「期待に働きかける」しかなく、日銀に気合が足らないとなっていきます。でも勇ましいだけにマスコミ受けはするし、安倍首相の覚えめでたく、もてはやされているのです。
このまま日銀が黒田総裁の元突っ走っていったらどうなるのでしょうか。
そもそも中央銀行の役割は貨幣価値を守ることであり、円という通貨が高く評価されることは日本の国富を守ることだと思います。先日モノづくり企業の人たちと話していたのですが、企業にとっては長期の企業戦略を考える時、為替の安定のほうが大切で、過度の円高も困るけど円安が進みすぎるのも困るという意見でした。これ以上の通貨安競争をするのはいかがと思います。でもアベノミクスは止まりそうもないですね。
超成熟経済国家としての日本の資産価値をうまく生かし人材を育成し、地域のコミュニティ、環境、社会的背景、経営者、従業員の醸し出す雰囲気を有機的に結合して日本しかできないという価値あるものを生み出す「場」を作っていくこと、著者は人的資本の蓄積をもたらす雇用を増やすことが日本経済の唯一の改善策として提言しています。
でもこれってアベノミクスの第3の矢でやろうとしていることの真逆では。個別企業にとって短期的には解雇を簡単にし派遣労働を受け入れることは合理的かもしれませんが、長期的にはその存立を危うくすることになるかもしれませんし、総資本の立場でいえば日本人総体としての熟練が途絶え優秀な人材の再生産に齟齬をきたします。若者が非正規のままでは未婚率を上昇させて少子化を激化させるだけです。