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主に自分の身の回りのことと担当講義に関する話題。時々,寒いギャグ。

静電磁場とベクトルポテンシャル。

2012-04-26 20:58:06 | mathematics
数学と物理学のどっちなのかよくわからないが,物理的な考察は数学公式を見出すための発見的論法として使用するだけなので,数学の話ということにしよう。かといって数学的な厳密性にこだわるわけでもないので,そのあたりは物理っぽいともいえる。だから,どっちでもあると言えるし,どっちでもないと言える。

ベクトル場のなんとか分解



わけのわからない出だしから始めたが,さらにまたはっきりしない話を続ける。

ベクトルを太字で表記するのが面倒なので,普通の文字を使用することにする。
また,最も単純な場合について考察するだけなので,ベクトル場は全空間で定義されており,滑らかで,無限でゼロになるなど,都合のよい性質を何でも持っていると仮定して話を進める。

ベクトル場 F は,回転がゼロになるベクトル場 G と発散がゼロになるベクトル場 H の和に分解できる。
すなわち,F=G+H である。
この事実は Helmholtz 分解という名で呼ばれることがあるが,Weyl の名がつくこともあるし,Hodge 分解ということもあるらしい。誰の名前を付けるのがもっとも適当なのか,今のところ僕にはまったく判断がつかないが,そういうときは Helmholtz-Hodge-Weyl 分解とでも呼んでおけば悩まずに済みそうだ。(その手の専門家から,ちゃんと区別していないのでとんでもない話だとお叱りを受けてしまうかもしれないが,そんなことをいちいち気にしていたら何も書けなくなってしまうので,あえて無神経に話を進めることにする。)

与えられたベクトル場 F に対して,本当にそんな都合の良い「回転ゼロ成分」G と「発散ゼロ成分」H が定まるものだろうか?

その問いには,実際に G と H を F をタネにして構成してみせることによって答えることができる。

まず G を求めることを考えよう。ここで,前提知識として「Poisson 方程式(非斉次 Laplace 方程式)は解ける」ということにしておく。Laplace 方程式を実際にどう解くかについては,後で改めて述べる。

そうすると,-Δφ=∇•F という Poisson 方程式の解であるスカラー場 φ が存在することになる。それは F を用いた積分で表すことができるが,それも後で述べる。

さて,G:=-∇φ とおくと,Δφ=∇•(∇φ) だから -Δφ=∇•G が成り立つ。したがって,∇•(F-G)=0 となる。

これが -Δφ=∇•F という Poisson 方程式を考えたねらいであった。

次に,∇•(F-G)=0 について考えよう。よく知られている事実として,あるベクトル場の回転は,必ず発散が 0 になる。ならば,F-G があるベクトル場 A の回転になっていれば,自動的に ∇•(F-G)=0 が満たされることになって大変都合がよい。

そんな都合のよいベクトル場 A は果たしてあるのだろうか?

F はもともと与えられており,G も F を使って具体的に書き表せることがわかっている。したがって,偏微分方程式 ∇×A=F-G が解けるかどうかが問題である。

このままでは考えにくいので,両辺の回転を取ってみよう。そうすると

∇×(∇×A)=∇×(F-G)

となるが,ベクトル解析の公式を用いると,この左辺は

-ΔA+∇(∇•A)

と書き換えられる。また,G は「回転ゼロ成分」だから,右辺は ∇×F になる。したがって

-ΔA+∇(∇•A)=∇×F

が解けることがわかればよい。

※ 最初にこの記事を投稿したときは,G が「回転ゼロ成分」だから ∇×G がゼロベクトルになることにうっかり気付かず,∇×(F-G) という表記のまま以下の部分も書いてしまった。その後,太田浩一著『マクスウェル理論の基礎 相対論と電磁気学』で引用されている Blumenthal の1905年の論文を見て,∇×(F-G) ではなく ∇×F だけを含むすっきりした公式が得られることに気付いたので,以降の記述でそのように書き改めた。(2012/4/28 付記)

この左辺の第二項がなければ,成分ごとにみるとスカラー場の Poisson 方程式になるから,解の積分表示が可能となる。

そして実は,第二項を落として得られる方程式 -ΔA=∇×F の右辺のベクトル場の発散が 0 であることが効いて,この方程式の解 A の発散も 0 になる。つまり ∇A=0 であるから,この A はもともと解きたかった方程式 -ΔA+∇(∇•A)=∇×F をも満たすのである。

このような幸運に恵まれた結果,F-G=∇×A を満たすベクトル場 A を手に入れることができた。G=-∇φ だったことを思い出すと,結局

F=-∇φ+∇×A

という公式が得られたことになる。右辺の第一項は回転ゼロのベクトル場であり,第二項は発散ゼロのベクトル場である。したがって,F を回転ゼロのベクトル場と発散ゼロのベクトル場の和に分解するという当初の目的は達成された。

せっかくなので,記念にこの φ を F のスカラーポテンシャル,A を F のベクトルポテンシャルと呼ぶことにしよう。

ちなみに,G=-∇φ と H=∇×A の L2 内積は 0 になるので,G と H は直交している。したがって,F を G と H の和に分解したということは,F を「直和分解」をしたことに他ならない。このことから,F の分解の仕方,つまり G と H が一意的に定まることが理解できよう。

物理学では,このような G を F の横成分(∇ に平行な成分),H を F の縦成分(∇ に垂直な成分)と呼ぶそうな。それはおそらく Fourier 変換を経由すれば納得の行くネーミングであろうが,そもそもベクトル場の Fourier 変換がなんなのかよく知らないので,ぼんやりと想像しているだけである。

なんかおかしい



さて,ベクトル場 F を生み出すスカラーポテンシャル φ とベクトルポテンシャル A があることがわかったが,それはなんとなく Hamilton の4元数を彷彿とさせる。4元数は確か実部を「スカラー部分」と呼び,残りの i,j,k の一次結合の部分を「ベクトル部分」と呼ぶのだったと思う。

ちょうど,F にとってはスカラーポテンシャルがスカラー部分であり,ベクトルポテンシャルがベクトル部分になる,というように言葉の上での対応がつく。

ところで,ベクトル場 F の成分は3つしかないが,スカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルの3つの成分をあわせると4つのスカラー関数になる。つまり,F の3つの成分を生み出すのに4つのスカラー関数が必要となる勘定になる。数が合わない。何かおかしいのではないだろうか?

この違和感に対する完全な回答はまだ持ち合わせていないが,おそらくゲージ (guage) 不変性という概念が深く関わっているのだろうと想像している。

どういうことかというと,F が φ の勾配と A の回転という,導関数によって表せるということがポイントなのである。

まず,定数は微分したら 0 になって消えてしまうので,φ に好きな定数 C を加えて φ+C に変えても,F の「回転ゼロ成分」になんの影響もない。ただし,この性質はここで取り上げた疑問とは直接関連はないのではないかと感じている。

それよりも,A の方が問題である。A の回転が「発散ゼロ成分」に相当するわけであるが,先の議論で使用した事実「スカラー場の勾配の回転はゼロベクトルである」を思い出すと,A に好きなスカラー場 ψ の勾配を付け加えて A+∇ψ に変更しても,∇×(A+∇ψ)=∇×A だから,F の「発散ゼロ成分」にはなんら影響を及ぼさない。このような大きな自由度があるため,ベクトルポテンシャル A には本質的に一意性が成り立たない。

ベクトルポテンシャルが持っているそのように大きな自由度を逆手にとって,適当な条件をつけて,相手にするベクトルポテンシャルを絞ることが可能になる。

たとえば,A ' を F の「発散ゼロ成分」を生み出すベクトルポテンシャルの一つとすると,-Δψ=∇•A ' を満たすスカラー場 ψ を用いて新たなベクトル場 A:=A '+∇ψ を定義すると,∇×A=∇×A ' であるから,A もやはり F のベクトルポテンシャルになっている。したがって,F は発散がゼロであるようなベクトルポテンシャルを必ず持つわけである。

先ほど ∇•A=0 となるような都合のよいベクトルポテンシャル A があるかどうかを気にしたが,ここで述べたような事情により,このような条件を付け加えても不都合が生じないのである。

ベクトルポテンシャルをふるいわけるこの条件は Coulomb ゲージと呼ばれているらしい。

なお,ベクトルポテンシャル A はもちろんベクトル場であるから,それ自身も「回転ゼロ成分」と「発散ゼロ成分」を持つことになる。Coulomb ゲージを採用するということは,A 自身が「発散ゼロ成分」であることを要求するわけだから,A の「回転ゼロ成分」はないことになる。したがって,A はスカラーポテンシャルを持たず,ベクトルポテンシャルだけを持つことになる。

F のベクトルポテンシャル A のベクトルポテンシャルもまたベクトル場だから,スカラーポテンシャルやベクトルポテンシャルを持つ。そのベクトルポテンシャルについても同様である。

なんだか気の遠くなるような話であるが,ベクトルポテンシャルには必ずその親となるベクトルポテンシャルがあることになる。電磁気学では,電場と磁場の一世代前に相当するスカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルまでしか登場しないようであるが,電磁場のベクトルポテンシャルのさらに一世代上のポテンシャルは考えないのであろうか?たぶんそれを考えるメリットはなさそうであるが,こういった,ちょっと馬鹿げた妄想に一度くらい耽ってみるのも悪くはあるまい。

ともかく,例えばこのような Coulomb ゲージという条件を追加すると,ベクトルポテンシャル A の3つの成分を完全に独立には選ぶことができなくなって自由度が1つ減り,その結果,ベクトル場 F の成分とポテンシャルの成分に関して 3 対 4 の比であったように思われたのが,実際には 3 対 3 のように釣り合っていたのだ,という理解に到達することができた。

電磁気学的発想による偏微分方程式の解法



この記事の締めくくりとして,Poisson 方程式の電磁気学的な発想に基づく解法を述べよう。

まず,位置 a にある点電荷 q が位置 r に置かれた単位電荷に及ぼす Coulomb 力 F は

F=(kq/|r-a|3)(r-a)

で与えられる。これを前提とすると,点電荷 q から発した直線に沿って無限遠方から,点電荷 q から d だけ離れたところにある位置まで単位電荷を動かしたときに Coulomb 力のなす仕事は,Coulomb 力と変位の向きが正反対であることに注意すれば,簡単な線積分によって kq/λ と求まる。λ=|r-a| なので,φ(r):=kq/λ とおいて,これを点電荷 q が作る位置 r における静電ポテンシャルと呼ぶことにしよう。

さて,実験事実として Coulomb 力は重ね合わせの原理を満たすことがわかっているので,静電ポテンシャルも重ね合わせの原理を満たすことになる。したがって,電荷密度 ρ が与えられているとき,位置 x にある空間の微小な領域 dV における電荷は ρ(x)dV であるから,こうした電荷が作る静電ポテンシャルを空間全体にわたって足し合わせることにより,電荷密度 ρ が作る静電ポテンシャル φ(r) が

φ(r)=k∫ρ(x)dV/|r-x|

で与えられることが分かる。

Gauß の法則により,φ は Poisson 方程式 -Δφ=4πkρ を満たすことがわかっているので,これは Poisson 方程式の解の積分表示に他ならない。

ここで,定数 k は電磁気学の単位系から決まる定数であるが,ここでは数学にしか興味がないから,k=1 ととることにする。

この ρ を ∇•F に置き換えれば,F のスカラーポテンシャルが得られるわけである。

また,ベクトル版の Poisson 方程式 -ΔA=∇×F の各成分はスカラー版の Poisson 方程式であるから,それぞれに先ほどの解の積分表示(ただし k=1 ととる)を適用することにより,

A=∫∇×F dV/|r-x|

のようにベクトルポテンシャル A の積分表示が得られる。この右辺の発散が 0 であることは,∇×F の発散が 0 であることから,積分と微分の順序交換および電磁気学でよく知られた技巧(r 変数に関するナブラを x 変数に関するナブラに変換するテクニック)を用いて示すことができる。

※※ φ は -Δφ=∇•F の解だから,φ=∫∇•F dV/|r-x| と書き表せる。こうしてみると,スカラーポテンシャルは F の発散から生み出され,ベクトルポテンシャルは F の回転から生み出されることになる。Blumenthal の1905年の論文の1ページ目に,これらの公式に相当する

∫(div u /r) dτ, ∫(rot u /r) dτ

という式が書かれている。それを見て「美しい」という感想を抱くことを禁じえなかった。僕は「数学の美」というものがよくわからないので,それについて語ることが好きではない。だから,あまりに感銘を受けてつい「美しい」とつぶやいてしまったことは,今回が初めてかもしれない。(2012/4/28 付記)
コメント (1)
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