芥川竜之介,河童 他二篇,岩波文庫緑70-3,2004(改版第2刷).
これまでに何回も読んだ作品をまた読み返してみた。
「河童」は無類に面白い。
社会風刺的な色合いも濃いが,やはりなんといっても人間を戯画化した河童達の生き生きとした姿が面白い。
僕もぜひとも河童の国を覗いてみたくなった。
「蜃気楼 -或は「続海のほとり」」は,何ということもない,日常の断片を切り取ったような作品である。
これといって筋もなければ,強烈なテーマがあるわけでもない。
現代風に言えばホームビデオを見せられているような,そんな感じである。
そうした静かな味わいの作品ではあるけれども,晩年の作品であるため芥川の抱えていた「発狂する恐怖と不安」は相変わらず暗い影を落としており,
素人にはよさがあまりピンとこないような名匠のシブい一品,といった体をなしている。
なんと評したらよいのかわからないのだが,巻末の吉田精一氏の解説に紹介されている三島由紀夫や佐藤春夫の短評は,なんだか実に的を射ているように感ぜられ,諸氏の慧眼に感服した。
どことなく侘びさび的な素朴な趣があるという感想はあながち間違っているわけではないらしい。
そんな,つかみどころのない,絵画的な作品である。
ぜひ映像化したいなぁ。
「三つの窓」は軍艦での兵士の話で,軍隊に疎い僕には正直ちんぷんかんぷんだった。
けれども,やはり漂っている暗い影の重苦しさを感じた。
こうした晩年の作品を読むと,芥川の初期の王朝物をじっと読む気になれない。
そのころは文に勢いがあり,ちょっと生意気なんじゃないの?,と鼻につくほどに独特の才気がほとばしっているせいで,読みづらいのだ。
少し我慢して読めば夢中になれそうな気もするが。
とりあえず,「歯車」と「河童」は大好きな作品達である。