Klein の不等式。

"Entropy inequality" なるものに純然たる数学的な興味が湧いて，いろいろ関連文献を漁っている。
物理的な解釈は全く念頭にない。それが不要だとか，興味がないというわけではなくて，単にそこまで勉強している余裕がないというだけである。

Lindblad 氏の "An Entropy Inequality for Quantum Measurements" (CMP, 1972) という論文を読んでみようと思い，今の自分の実力で読めるかどうかを判定するため，最初のページに目を通してみた。

すると，Klein's inequality という，初めて聞く不等式が出てきた。

Lindblad 氏は Ruelle 氏の "Statistical Mechanics" という1969年に出版された教科書を参考文献に挙げている。

幸運なことに，この本の中で Lindblad 氏の論文で引用されている箇所（27ページと28ページ）が G○○gle books の無料レビューの範囲に含まれていたので，Klein の不等式の証明の概要をつかむことができた。

ついでにネットで検索したところ，いろいろ面白そうな文献がいくつか見つかったが，中でも Ruskai 氏の

"Inequalities for quantum entropy: A review with conditions for equality" (J. Math. Phys, 2002)

と Carlen 氏の

"Trace Inequalities and Quantum Entropy: An Introductory Course" (Contemporary Mathematics, 2010)

は，まさに僕のような者にとってうってつけの参考書かもしれないと大いに期待している。

Klein の不等式に話を戻すと，Ruskai 氏が

O. Klein, Zur quantenmechanischen Begründung des zweiten Hauptsatzes der Wärmelehre, Z. Phys. (1931)

という文献を挙げている。

さっそく入手してみてみたのだが，不等式が書かれているのは774ページだけであり，その不等式が，今日 Klein の不等式と呼ばれているものそのものなのかどうか，今の僕にはよくわからない。

Klein 氏の他の論文を探していないのでわからないが，もしこの論文を元にして Ruelle 氏が，その著書の26ページで紹介している "A Convexity Inequality" を Klein 氏に帰しているのだとしたら，Klein 氏が本当に示した不等式よりも一般化された不等式に対して Klein 氏の名が付けられてしまったことになる。

そう呼ぶのが本当にふさわしいのかどうか疑問に思えるような名称をつけるのは，あまりやらない方がよいと思うのだが，どうだろうか？

ちなみに，エントロピーに関する総合報告としてよく引用される Wehrl 氏の論文

General properties of entropy, Reviews of Modern Physics (1978)

には，Klein の不等式の参照元として Ruelle 氏の著書が挙げられている。
したがって，「Klein の不等式」の名付け親は Ruelle 氏の可能性が高くなってくる。
残念ながら Ruelle 氏の著書の参考文献リストを確認できないため，この問題の探求はここで終わらせざるを得ない。

なお，Ruskai 氏は Ruelle 氏の著書には言及していない。

ついでなので有限次元の行列に対する Klein の不等式の証明を述べようと思ったが，まだ勉強していないので，それはまたの機会にしよう。

※　その後，ちゃんと証明を投稿した。（20120415付記）

リャクシスギ。

「クレカ」という言葉を初めて目にしたので，何だろうかと思ったが，すぐに「クレジットカード」の略であることに気付いた。

何でもかんでも略せばいいってもんじゃないと思うが・・・。

そういえば，冬季によく見かけて気になる略語に「インフル」がある。
どうしても金貸しの「ア○フル」を連想してしまう。

最近はテレビ番組を見ないのでまだCMをやっているのか知らないが，かれこれ十年ほど前，かわいいチワワが起用されて話題になった。
そのCMのシリーズで，タレントの女性が「アイ○ルです」と言うのだが，「インフル」という文字を見かけるたび，その声で「インフルです」と頭の中に響く。たまったものじゃない。

※　今回のもじりは，それだけです。