聖書のはなし ある長老派系キリスト教会礼拝の説教原稿

「聖書って、おもしろい!」「ナルホド!」と思ってもらえたら、「しめた!」

ルカの福音書2章1-7節「全世界と飼葉桶」

2017-12-17 16:25:04 | クリスマス

2017/12/17 ルカの福音書2章1-7節「全世界と飼葉桶」

1.全世界の住民登録を

 イエス・キリストの誕生は、ローマ皇帝の住民登録(国勢調査)が背景にありました。ローマ帝国の人口調査をする、それが

「キリニウスがシリアの総督であったときの、最初の住民登録であった」

とわざわざ書いています。イエス・キリストがお生まれになったのは、本当にこの歴史のただ中でのことでした。私たちが今2017年、日本の政治や世界の様々な情勢の中で生きているように、イエスもこのローマ帝国のアウグストゥスの時代にお生まれになりました。

 悩ましいことにここに書いてある通りの住民登録が世界規模で行われた、という記録は歴史の資料には残っていません。ローマ皇帝がローマ市民の登録を命じたとか、各領土で領民調査をさせたことは確かですが、世界規模での住民登録を命じて、ヨセフも含めたローマの領土の全ての人々が自分の町に帰らなければならなかった、という事実は確認できないのです。しかし何か大きな政治的な状況があって、ヨセフは身重になっていた妻マリアを連れて、わざわざナザレからベツレヘムまで百キロ以上の旅を、何日もかかって果たしたのです。こうして、マリアはイエスをベツレヘムで、ダビデの町で生み、そこで飼葉桶に寝かせたのです。

 そもそも皇帝が(国家が)住民登録をするのは「国勢調査」とも言われるように、国の勢いを図るため、税金による経済政策や軍事的な戦略を立てるためです。ローマ市民や貴族、有力者はともかく、下々の人間は統計上の数に過ぎません。シリアの総督が住民登録をして、属州に過ぎないガリラヤやユダヤの住民が登録をしなければならなかった…そんなことは記録にも残らない小さなことだったのかもしれません。まして、この貧しい結婚し立ての夫婦がトボトボとナザレから旅をすることなどは小さな出来事、新聞があったとしても記事にならない事でした。けれどもそこにイエスはおいでになっていました。人間の皇帝にとっては、人は統計上の数です。いちいち気に留めていることは出来ません。けれども神は、その民の小さな一人にまで目をかけておられます。先にマリアは歌いました。

一46私のたましいは主をあがめ、
47私の霊は私の救い主である神をたたえます。
48この卑しいはしために目を留めてくださったからです。」

 主はマリアに目を留め、この貧しい夫婦の旅にともにおられました。主にとって、マリアもヨセフも、そして私たちも誰一人として数に過ぎない人はいません。神は小さな一人とともにおられます。そして、そこから救いや恵みの御業を始めて下さる主、王であられます。

2.ヨセフとマリアのしたこと

 もう一つヨセフが住民登録のために

マリアとともに自分の町に帰って行った

とあるのも、全住民が夫婦共々出身の町に帰らなければならなかった、ということではないのでしょう。そんなことを私たちがしなければならないとしたら、大変な騒ぎになって、膨大な出費や反感を買うことになるでしょう。ヨセフは元々ナザレの出ではなく、ダビデの町ベツレヘムとの特別な繋がりがあったので、ベツレヘムに行くことを選んだのかもしれません。その場合でさえ、妻まで一緒に行く必要はなかったはずです。それも身重になっていたマリアを連れてだと、旅は大変で、手間もかかる以上に母体の危険も伴います。誰かに預けて、自分だけ登録して帰ってきた方が遙かに現実的です。しかし、ヨセフはそうしませんでした。安心して預けられる人がいないくらい、マリアの妊娠やヨセフ夫婦の揺れ動きは目立って、噂話やいじめなどになっていたのでしょうか。いずれにせよ、ヨセフがマリアとともにベツレヘムに上って行ったのは、外から強制されたのではない、二人が選んだ特別な勇気ある決心だったに違いありません。

 ベツレヘムに着き、マリアは月が満ちて、男子の初子を産みました。

布にくるんで飼葉桶に寝かせた

とありますが、

「布」

は産着とも訳せる言葉です。その辺にあったボロ布では間に合わせたでなく、ちゃんと用意していた産着の布にくるみました。飼葉桶に寝かせたのも、最近の考古学や民俗学が進みまして、今のようなホテルや民宿などを考えるより、もっと古民家での民泊であれば、個室でお産など相応しくないのは当然で、人目を憚り、動物たちのスペースで産んで飼葉桶に寝かせたのは、最善の選択だったとも言われるようになりました。ヨセフが精一杯イエスの父親としての義務を果たそう、マリアを守ろうとしていた事、マリアも長旅の後で初産を果たせるように準備をしていたし、産着を用意して飼葉桶にそっと寝かせた。そのヨセフとマリアの行動に、聖書がちゃんと目を留めていることも忘れてはならないのでしょう。人の歴史やメディアで取りざたされて覚えられるようなことではないけれども、聖書はちゃんとそこでの人間の営みを大切に見ています。マリアとヨセフにとってはまだまだ先のことは分かっていません。生まれる子どもがどんな人生を送り、世界の歴史の中でどんな意味を果たすか、自分たちのこの旅が聖書で記録され、後々世界中のページェントで上演されるなんて思いもしないはずです。そうした無心の精一杯の中で、イエスが生まれたのです。

 だれも迎え入れなかったクリスマス、以上に、小さなことを誠実にしているヨセフとマリアの姿を記しつつ、ルカはキリストの誕生を伝えます。決して「小さな事を忠実にしているヨセフとマリアだからキリストの親に選ばれた」のではありませんよ。キリストが来られたのは、一方的な憐れみ、神の恵みによる選びです。そして、その神の恵みは、小さな者に現され、その小さな者の小さな精一杯の営みが、新しい意味を輝かせるのです。イエスの誕生は、「不本意な歓迎」であるよりも、「ささやかさへのスポットライト」でした。

3.ナザレ人イエス

 「使徒の働き」は、このルカの福音書と同じルカが書いた、福音書に続く教会の記録です。そこで教会はイエスのことを

「ナザレ人イエス」

と呼び、弟子たちも

「ナザレ人の一派」

と呼ばれました。それはイエスの出身地ですが、ナザレという村自体、当時四八〇人ぐらいの人口だったろうとも言われる寒村で、小さな寂れた場所だったのですね。ナザレ出身というだけなら、生まれたのは実はベツレヘムとも言えます。しかしそのベツレヘムに来た経緯自体が、ナザレでさえ安心できないほど、卑しめられていたからでした。臨月だったのに住民登録を命じられ、ヨセフがマリアを連れて大旅行を決心し、旅先の宿屋で布にくるんで飼葉桶に寝かせた、という本当に地味な苦労がありました。名門アウグストゥスのような権力や居心地良さ、強力なリーダーシップ、尊敬や称賛…そうしたこととは一切無縁のあり方をなさいました。全世界の本当の主、本当の神であり王であるお方でありながら、ローマ皇帝の気にも留めない所で、生き営んでいるナザレの夫婦のもとにおいでになった。そして、最後は十字架の死にまで低く、貧しい歩みをしてくださった。その驚くべき謙り、犠牲も卑しめられることも厭わない私たちへの愛、それが

「ナザレ人イエス」

という呼び方に託されていたのです。

 ヨハネの福音書一11で言われますように

「この方は御自分のところに来られたのに、ご自分の民はこの方を受け入れなかった」

のです。イエスに居場所を与えず、最後は十字架につけて殺した人間の罪は事実です。今も私たちが、イエスを自分の人生と心に相応しくお迎えせず、すぐに追い出したり、ぞんざいな対応しかしていないのも私たちの現実です。ただし、それは私たちを責めるため、恨みがましく非難するために聖書がそういうのではありません。「本当はナザレ人ではなくエルサレム神殿やローマの宮殿にお迎えすべきだった」のでしょうか。いいえ、そんな恨み節を聞かせるのがクリスマスではありません。王であるキリストが、本当に貧しくなってくださいました。神を差し置いて人が人を支配し、末端の人を統計上の数としか見ずに、それで全世界を支配したつもりになっている時、その神御自身が最も小さい人の所に来ておられました。全世界の上にいますお方は、飼葉桶の中に寝かされる赤ん坊として、御自身を委ねられました。こんな失礼はないと責めるためではなく、それは私たちを救うため、私たちが人間的な基準の評価とは全く違う価値を与えられている事実を知るため、神の民として引き上げられたものとして歩むためでした。

 この飼葉桶は、ローマ皇帝のベッドやローマの都よりも広く素晴らしい場所となりました。マリアが用意した産着は、どんな王の衣よりも喜ばれました。キリストが来られた時、人の支配とは全く違う、神の恵みによる御支配が明らかになりました。それは私たちにとっての希望です。この方こそ私たちのためのしるしなのです。

「ベツレヘムの飼葉桶に寝かされた主を静かに受け入れ、十分に思い巡らします。あなたの測り知れない謙りと、私たちへの愛を感謝します。あなたの御支配は上からではなく下から始まりました。私たちも人の評価や競争でなく小さなことを大事にさせてください。普通の営みが何一つ無駄でなく、主が祝福して御国のわざとしてくださることを信じて、励ませてください」

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 問103「休ませてくださる神」... | トップ | 問104「敬意への自由」エペソ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

クリスマス」カテゴリの最新記事