先日、鳥越一朗さんが著した『電車告知人 明治の京都を駆け抜けた少年たち』という小説を読みました(ユニプラン刊)。
上のイラストは、その本のカバーを開いて表側の面全体をスキャンしたもので(ちなみにカバー裏面には路面電車の路線図が描かれています)、小さくて分かり辛いかもしれませんが、カバーの左端で、半纏を着て提灯を手に持って走っている少年が、俗に「先走り」と称された電車告知人です。
この本のコピーは、『「危のおっせー、電車が来まっせー」と叫びながら、チンチン電車を先導した告知人(先走り少年)たちの愛と友情の物語』で、アマゾンなどでは以下のように紹介されていました。
『明治28年、京都の街に日本初の市街電車が走り始める。電車による事故を防ぐため設けられたのが空前絶後の「告知人制度」。告知人のほとんどは12歳から15歳の少年だった。電車の前を走りながら、通行人に危険を知らせた彼らの実像はいかなるものであったか、環境保全面からLRT(路面電車)が見直される今、著者の想像力が明らかにする』
基本的にはこの紹介文通りの内容の小説で、期待を裏切ったり意表をつくような劇的な展開などはないものの、特に物語の前半部では、告知人の少年達の生活や過酷で危険な勤務実態がリアルに描かれており、とても興味深かったです。
また、物語の後半部は、主人公である13歳の告知人・中田敬二郎と、彼にとっては“友達以上恋人未満”である京都在住のロシア人少女アンナとの、恋愛と呼ぶにはあどけなさ過ぎる清らかな(笑)交流の描写が中心となっていましたが、これもなかなか微笑ましくて良かったです。
そもそも告知人制度は、人々に電車の接近を知らせて電車との接触事故を防ぐために京都府令第六十七号電気鉄道取締規制により定められた制度でしたが、しかしマッチ箱のような小さな電車に運転士・車掌・告知人の3人の乗務員が付くのは人件費がかさみ、何よりも、告知人の勤務実態は危険な上に過酷・重労働で、実際、人々に危険を知らせるための告知人が電車に轢かれるという本末転倒な悲惨な事故が相次いだため、告知人制度は明治37年、規則改正により廃止されました。
明治28年~37年までの僅か9年間、京都の路面電車にだけ設けられたこの告知人という仕事や制度について知りたい方は、是非御一読をお勧めします。
ちなみに、同じ著者の著した『麗しの愛宕山鉄道鋼索線』もなかなか興味深い作品で、私は京都在住時、これを読んで急に愛宕山に登りたくなり、実際に登ってきました(笑)。