私は京都から神戸方面に行くときは大抵JRではなく私鉄を利用していたため(個人的にJRよりも私鉄の方が好きだったので)、神戸高速鉄道の路線を利用する機会というのは度々ありました。
この会社の路線は全線地下路線で、神戸市内を東西に結び(一部の区間だけ南北に走っていますが)、阪急、阪神、山陽電鉄、神戸電鉄の各私鉄の車両が乗り入れています。
実はこの神戸高速鉄道というのはかなり珍しい鉄道会社で、何が珍しいのかというと、路線と駅の施設を保有するだけで、肝心の鉄道列車は一両も保有していないのです。この事情は、会社の誕生の経緯によります。
神戸高速鉄道が開業する以前は、神戸市内を走っていた阪急、阪神、山陽電鉄、神戸電鉄の4私鉄のターミナル駅はみなバラバラに離れた場所にありました。
そのため、市内には4社もの私鉄が路線を敷いて列車を走らせていたにも拘わらず、それぞれの路線が離れていて繋がっていなかったため市内の鉄道の利便性は悪く、かといって、私鉄4社だけで市内の地下を掘って鉄道を建設することは費用面で無理がありました。
そこで、これらの4社と神戸市が出資して第3セクターの鉄道会社を設立し、その新会社に新路線の建設と運営を任せることにしたのです。
こうして昭和33年10月に設立されたのが神戸高速鉄道株式会社で、神戸高速鉄道の所有する路線は、市内西部の山陽電鉄の西代駅と市内東部の阪急の三宮駅を結ぶ5.7kmの路線と、この路線の中間駅である高速神戸駅から阪神の元町駅を結ぶ1.5kmの路線、計7.2kmの東西線と、神戸電鉄の湊川駅から東西線の新開地駅までの400mを結ぶ南北線で、これらの路線はいずれも昭和43年4月に開業しました。
開業時にはまだ運転されていませんでしたが、現在では、阪神の梅田駅と山陽電鉄の姫路駅を、東西線を経て結ぶ直通特急も運転されており、利便性は大幅に向上しています。
このように異なる鉄道会社の路線の接続が実現できたのは、神戸電鉄を除く3社の路線の軌間(レール幅)がいずれも1435mmで、集電方式も架空線方式、車両も19m級と規格が同じであったためです。但し電圧だけは違っていたので、当時600Vであった阪急と阪神は、神戸高速鉄道の開業時に山陽電鉄に合わせて電圧を1500Vに昇圧しています。
しかし、神戸電鉄だけは軌間が1067mmと他の3社とは異なっていたため、神戸電鉄と接続する南北線だけは、神戸電鉄に合わせて1067mmの軌間で作られました。このため南北線と東西線は、新開地駅の構内は同一駅として繋がっているのですが、線路は繋がっていません。
ところで、神戸高速鉄道のような形態の鉄道会社は「第三種鉄道事業者」といいます。
厳密な定義はもっと複雑なのですが、簡単にいうと、鉄道車両と路線を保有している鉄道会社を「第一種鉄道事業者」といい(大部分の鉄道会社はこれに該当します)、鉄道車両のみを保有し路線を保有していない鉄道会社を「第二種鉄道事業者」といい(一部自前の路線を保有してはいるもののJR貨物はこれに該当します)、そして鉄道車両は保有せず路線のみを保有している、神戸高速鉄道のような鉄道会社を「第三種鉄道事業者」というのです。
関西圏では神戸高速鉄道以外にも、大阪市内のJR東西線を保有する関西高速鉄道㈱や、京都市営地下鉄東西線の御陵・三条京阪間の区間を保有する京都高速鉄道㈱、関空のある人工島と対岸を結ぶ関西空港線をJRと南海に貸して運行させている関西空港㈱などが、それぞれ第三種鉄道事業者に当たります。
そしてこの定義に従うと、神戸高速鉄道の場合、同社線に乗り入れる4社の各私鉄は、自社の路線においてはぞれぞれ第一種鉄道事業者なのですが、神戸高速鉄道線に乗り入れる時は、第三種鉄道事業者である神戸高速鉄道に線路使用料を支払い、第二種鉄道事業者として列車を運行している事になるのです。
このため、神戸高速鉄道自身は列車の運行には直接的は関わっておらず、運行は全て4社に任せており、駅の管理も他社との接続駅では接続する私鉄側に任せ、途中駅となる6駅だけに自社の駅員を置くなどし、脇役に徹しています。
なお神戸高速鉄道線内の運賃は、一旦4社の収入としてしまい、各社経費を差し引いた分を線路使用料と業務委託費として神戸高速鉄道に支払うという仕組みになっています。
ちなみに、平成14年4月、神戸高速鉄道は北神急行電鉄から北神線の鉄道施設を譲り受け、この路線における第三種鉄道事業者にもなりました。