140億年の孤独

日々感じたこと、考えたことを記録したものです。

源氏物語(巻七)

2013-08-28 00:05:05 | 源氏物語
瀬戸内寂聴訳「源氏物語巻七」には、
柏木・横笛・鈴虫・夕霧・御法・幻・雲隠・匂宮・紅梅が収められている。

【柏木】
女三の宮が御子を生むが、引き続いて病に伏せる。
その様子を聞いた朱雀院は山を下る。そして出家を願う女三の宮を落飾させる。
葵や紫の上を苦しめた六条の御息所の物の怪が女三の宮取り憑いていたのだという。
子どもが生れてまもなく柏木は亡くなってしまう。
「幼い時から、人とは違った高い理想を抱いて、何事につけても、人よりは一段、まさりたいと、
公私につけて並々ならず自負してきた。しかし、一度、二度と蹉跌を重ねるうち、
そんな望みはなま易しくは叶わないのだと、思い知らされ、その度毎に、次第に自信を失ってきた」
そのようなことを思いながら死んで行く柏木は負け犬なのだろう。
世の中は様々な種類の負け犬に満ちている。
機動戦士ガンダムSEEDの敵役であるラウ・ル・クルーゼも競争社会の不合理を嘆いている。
彼は世界を否定する権利を持って生れてきたのだ。
負け犬にすらなれない哀しい運命・・・

【横笛】
夕霧は未亡人となった女二の宮の邸を訪ねる。母君である御息所がその応対をする。
御息所は柏木の形見である笛を夕霧に贈る。

【鈴虫】
秋好む中宮は、物の怪になって名乗り出る母の妄執の炎をさましてあげたいと考え、
出家を望むが、親代わりの源氏は許そうとはしない。
それにしても全編を通して六条の御息所は化け物のような描かれ方をしていて気の毒だ。
生き霊とか物の怪とか魔女にされた者には無実を証明する手段はない。
真実などはどこにもなく影響力のある人が言ったことや多くの人々が信じたことが
事実に取って代わる。

【夕霧】
「この帖はまるで現代のサラリーマンの家庭の夫の浮気事件のようで、
ことごとくリアリティのある描写が、はからずもユーモア小説のようなおかしさを誘い、
おもわず笑ってしまう。芝居で言えば世話物に相当する」と解説に書いてある。
夕霧は友人である柏木の妻であった女二の宮を口説こうとするがうまくいかない。
彼は源氏の息子だが女の扱いに慣れていない。父と違って女に恥をかかせてしまったりする。
女の方はうまく騙されたいと思っているだけかもしれないのに・・・
そして大勢の子どもを抱えてすっかり所帯じみた雲居の雁の君とは口論が絶えない。
源氏を中心とした物語がまもなく終ろうとしている中で「ユーモア小説」を挿んでいるのだが、
それは源氏や紫の上のような実在しそうにもない主人公と
夕霧や雲居の雁の君のような実在しそうな人物を
対比させるためではないかと思う。

【御法】
紫の上が亡くなる。解説によると「出家すればセックスが出来ない戒律があったので
源氏は女たちの出家を嫌がった」ということだが、紫の上はとうとう出家もさせてもらえなかった。
幼い頃から源氏に養育され、その教養とたしなみの深さは源氏の虚栄心を満足させ、
その美しさは源氏の欲望を満足させてきた。彼女の人生に何の意味があっただろう?

【幻】
「紫式部はまるで悪意があるかのように、変り果てた源氏の姿を、くどくどしいまでに
書きつける」と解説に書いている。主人公が最愛の人を失って哀しみに暮れ、
人生の無常を悟って、物語が終るというのではなく、ひたすら惨めな晩年が描かれている。
紫の上が亡くなってしまって源氏の生きる意味もまた消失してしまったという感じがする。
経済力のない哀れな女君が源氏の情けを受けて生きていたように見えて
実は源氏が紫の上に依存して生きていたのではないかと思う。
「もの思ふと過ぐる月日も知らぬまに年もわが世も今日や尽きぬる」
(物思いにふけっていて月日が経つのもつい知らないでいた間に今年も自分の生涯も今日で終ってしまうのか)
そんな歌で源氏を主人公とした物語は閉じられる。
・・・私たちは明日も生きているという前提で今日を生きている。
目標やノルマを達成するために現在のあり方は制限される。
日々の糧を得るために現在は未来の犠牲となる。場合によっては魂を売ってまで生き延びねばならない。
現在に張り付いている他の生き物たちとは異なる生き方を強いられる。
未来を予測する能力を持ち、未来を変えようとする意思を持ち、
「7つの習慣」に沿って成長を自覚する喜びを持ち、
前向きに主体的に積極的に生きなければならないという教義と
明日も生きているという前提で
私たちは今日を生きている。
ドラッカーさんやコヴィーさんにとって世界はそのようなものだと思う。
それを虚構だと思う人間はニヒリズムに陥ってしまうので彼らは本能的に怖れる。
ニヒリズムやペシミズムはそれ自体が共産主義と同様に遠ざけねばならないものとされる。
疑問を持つこと自体が禁じられている世界にあっては、
一度こぎだした自転車を止めるようなことがあってはならない。
4千本もヒットを打ったことは素晴らしいと言って皆でお祝いしなければならない。
明日、死ぬことがわかっていたら、今日は何をして過ごすだろうか?
来年、死ぬことがわかっていたら、今年は何をして過ごすだろうか?
商業主義に呑み込まれた世界で一個の商品としてしか生きる術がない自分を見つめてみよう。
私は1本もヒットが打てない人間なのです。
そんな自己紹介はOK?・・・

【雲隠】
本文なし

【匂宮】
明石の中宮が生んだ三の宮(匂宮)と柏木の胤で女三の宮が生んだ薫を中心に
源氏の後の世代の話が語られる。

【紅梅】
柏木の弟にあたる按察使の大納言は一の姫君を東宮妃として入内させる。
「后は藤原氏から立てるようにとの春日明神の御宣託も、もしや自分の代で実現することが
出来たらどんなにいいか」と彼は考えている。
源氏物語の時代は藤原氏全盛の時代よりも前に設定されている。
なんで神が藤原氏の味方をしているのかはよくわからない。
その後、中の姫君を匂宮にと考え、
歌のやりとりをしている。