遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『日本人ならぜったい知りたい十六菊花紋の超ひみつ』 中丸薫ほか共著 ヒカルランド

2013-03-04 10:50:00 | レビュー
 テレビのちょっとしたバラエティ番組を見ているよりも、よほどおもしろい本と言えるかもしれない。その面白さというのは、まじめに一見論じられているなかに、どことなく胡散臭さと滑稽さが入り交じった面白さというニュアンスである。この種の本はどういう読み方ができるものか・・・・・人によってすごく幅ができるだろう。結果的に私個人は様々なニュアンスで「おもしろい」と感じる。

 本書のタイトルに、「日本人ならぜったい知りたい」と付いている。ほんとうに絶対知りたい? まずそう問いかけたくなる。売らんがためのタイトル付けの一種に思える。ちょっと誇大・・・まあ、最近この手のタイトル付けが多いとは思うけれど。
 副題は「ユダヤと皇室と神道」である。まあ、冒頭の「ユダヤ」から、日ユ同祖論の分野を取り扱った本だろうという推察が付けられるかもしれない。まさにそのジャンルの本である。今野敏氏の小説を読んだ一冊に、その背景に日ユ同祖論を取り扱ったものがあった。一冊くらいはこの分野の本を読んでみたかったので、たまたまこの本を手に取った次第だ。

 本書は、序文の後、4部構成になっている。本書のおもしろさの感想を織り込みながら、内容の紹介をしてみたい。私の印象が妥当なものかどうかは、本書をお読みいただき、ご判断願いたい。

 冒頭、カラー写真がずらりと掲載され、その各ページに著者・中丸氏の顔写真が載っている。なぜ、そんなに何枚も載せるのだろう・・・・。写真は、墨田区向島にあるという三囲神社である。ここの石碑に三井高棟(三井総領家第10代当主)の名が刻まれていること、秦の始皇帝に仕えた蒙恬将軍の石碑があること、三井邸より移された三角石鳥居があること、三井関係の会社名が並んだ石標があること、三井家先祖を祀る顕名(あきな)霊社がこの神社の境内にあること、狐や狛犬の石像を紹介する。これらはユダヤと関係するという感想が付されている。狛犬=獅子・ライオン=ユダヤと結びつくそうな・・・。序文で、「この三井家は秦氏と同属で、そのルーツは間違いなくユダヤにあります」(p21)、また第1部の対話で「私が少しずつ調べていく中でもわかりました。日本の財閥、三井、三菱、住友は、もとはみんなユダヤ人です。私はそれを全部調べました。」(p109)と中丸氏は発言している。類推が多少述べられているが納得できる証拠は提示されていない。

 序文のタイトルは「ユダヤと皇室と神道-十六菊花紋をめぐる世紀の謎をここに開封します」であり、中丸氏の文である。三井家のルーツはユダヤ、狛犬はユダ族の印、皇室はユダヤの流れを汲むものであり、日本語にユダヤ起源の語彙が多い、十六菊紋と類似の紋章がエルサレムのヘロデ門にあることなどを述べている。日ユ同祖が秘められた謎なのだという。異文化間には表層的な類似点、相違点を探せばいろいろ発見できるというのはよくあることではないだろうか。同源と論証できるためには精緻な数多くの証拠あるいは、出所が明白な資料のもとに論理展開が必要だと思うのだが、如何だろう。イメージ的には、1、2点の類似ではなく考古学的論証の類の論理展開という意味合いで。

 第一部は、アミシャーブ(失われた十支族調査機関)のラビたち3人-ラビ・エリヤフ・アビハイル、ラビ・ダビデ・アビハイル、マイケル・グロス-と中丸氏の対談記録だ。途中に挿入された図版を含めて本書の約半分のページ数に及ぶ対談になっている。だが、不思議なことに対談形式でありながら、私には対談になっているようには感じられない。ラビたちは終始、対話の文脈の中で、中丸氏の発言語句をとらえ、(旧約)聖書の内容を引用して語りかけているだけである。神のなせる業を語り、聖書に記されたことを引用し、その内容が何時とは言えないが必ず実現するという主張である。改宗すればユダヤ人になれる、聖書に記された神が唯一の神であると語る。一方、中丸氏は自説を滔滔と語っている。ラビたちに対する質問も投げかけるだけでお終い。ラビたちの返事との対話の積み重ねがあるようには読めない。こんなおもしろい対話にならない対談を延々と通訳するのは、大変だろうなと感じる。
 中丸氏の話はおもしろい。ご自分が輪廻転生した過去の記憶を交えて、質問するのだ。たとえば、3500年前にはギリシャにいた、モーセの時代にモーセと40年近く一緒に過ごした(p52)、「モーセを川から拾って助けたプリンセスも私でした」(p182)などと。ユダヤ教の一神教の人々に対し、一貫して宇宙創造神を奉じる立場から質問が展開される。これでは神の存在についてもコミュニケーションが取れるとは思えない。また、「2012年12月22日からフォトンベルトに、光子の帯に入っていくときに、電磁波がすごく強いから、3日間、真っ暗な世界が来るということがありますから・・・」(p151:注記本書の出版は2011年1月31日)、「それでわかったことは、日本の皇室もシリウスの星からUFOでおりてきた。イスラエルの人たちも、別の星からやっぱり神に選ばれた者としてアフリカのどこかにおりて、それがイスラエルの地まで行った。」(p174)、「たとえば宇宙連合というのがあるんです。そこにクェンティンさんという存在がいます。五次元の人です。ここは三次元ですね。その方とコンタクトして、呼べばすぐコミュニケーションがとれる。」(p178)などという話がポンポンと飛び出してくる。著者の頭脳構造はどうなっているのだろうか。検証できない話が次々に出てくるのはそれなりに興味深くもある。だが、対話が噛み合うはずがない。

 第2部は、中丸薫、小林隆利両氏の対談である。「明治天皇の孫二人が語る『皇室とユダヤ 最後のひみつ』というタイトルでの対談記録だ。それぞれ自称で明治天皇の孫だとか。中丸氏は「父・堀川辰吉郎が明治天皇と御側女官の権典侍・千種任子とのあいだに生まれた子供」(p238)、小林氏は明治天皇の「内親王である母・仁」(p237)という発言が記されている。その二人により、皇室はユダヤの流れという話が対談として語られていく。
 この対談はフルベッキという人物にウェイトがかなり置かれて話が展開している。それは、「宣教師フルベッキを取り巻く志士たちの群像」という幕末に撮られた集合写真」が話の核心の一つになっているためでもあるようだ。この写真に、明治天皇が同席しているという。これについては、後掲の補遺に加えたが、ネット検索中に異論の掲載を見つけた。このフルベッキ写真そのものの人物同定に論議が存在するようだ。
 この対談、けっこうおもしろく興味深い話題に満ちている。しかし同様に検証できるソースに乏しいと感じる次第。(今は提示できないが証拠はあるという論理構成部分があるようだが。)

 第3部は、共著者の一人、久保有政氏による「ここまでわかった!日本とユダヤのひみつ[最先端研究エンサイクロペディア]」といテーマでの論述だ。
 日ユ同祖論の百科事典的集約という内容だと理解した。著者が翻訳された数冊の本と著者自身の研究成果のまとめだとされている。(旧約)聖書を引用しながら、様々な日本の事象、事項の中にユダヤの痕跡あるいは類似点、関係性があると解説されている。ある意味で、日ソ同祖論の典型をこの3部でボリュームとしてはまとまった形で通覧できる。そういう視点での捉え方があるのか、という意味では本書の中で一番まとまっていて興味深くはある。ただ、事象・事項の対照的説明の列挙という形に留まるのは仕方がないところか。
 第3部表紙の裏ページに、「原文・久保有政 これは海外向けに英語で書かれたものを翻訳者が邦訳したものです。英語版はインターネットを通じて広く読まれています」と記されているが、原文のソースがどこに掲載されているか、この第3部の翻訳者は誰かについては、記載がない。なぜだろう・・・・。ネット検索して、著者名による英文記事を見つけたが、本書と同一のものではなかった。補遺に後掲する。
 また、本書の第1部の箇所に、対談内容のその箇所とストレートにリンクしているとは思えない形で、随所に日ユ同祖論につながる図版が数多く引用されている。著者の翻訳書からの引用であり、翻訳書名を出典として明記されてはいるが、引用されている日本の図版について、そのもののソースについては記載がないものが大半であり、どこからの引用なのか、検証ができないのは残念である。(引用ソースの本の確認はしていないので、その点ご了解願いたい。)

 第4部は資料編となっている。「イスラエルの失われた十支族とは、何か」がここのタイトルである。これには出典が明記され、翻訳者名も明記されている(快東みちこ氏)。十支族の名称等の資料的な説明のまとめである。

 いろんな意味で「おもしろい」本だとしか言いようがない。
 

ご一読、ありがとうございます。

人気ブログランキングへ
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。

 本書に出てくる固有名詞で関心をいだいたものや関連事項について少し検索してみたものをリストにまとめておきたい。本書内容にも関連し、さまざまに賛否両論出ている分野でもあるようだ。これまた興味深いところ・・・・・

明治天皇 :ウィキペディア
明治天皇睦仁
明治天皇誕生秘話にまつわる奇々怪々 :「時空を超えて 大戦回顧録」
「明治天皇すり替え説」を追う :「しばやんの日々」

日ユ同祖論 :ウィキペディア

Israelites Came to Ancient Japan  久保有政氏による海外向け記事

堀川辰吉郎 :ウィキペディア

「明治天皇と昭和天皇と私」小林隆利牧師

ヨセフ・アイデルバーグ :ウィキペディア

聖書は日本神話の続きだった  :「風来坊」

三囲神社 :ウィキペディア
三囲神社 :「三井広報委員会」

元伊勢 籠神社 [奥宮 真名井神社] ホームページ

伊勢神宮 ホームページ

伏見稲荷大社 ホームページ

上賀茂神社 ホームページ

下鴨神社 ホームページ

吉水神社 ホームページ

木嶋坐天照御魂神社 :ウィキペディア
木嶋神社 通称(蚕ノ社) :「名所旧跡めぐり」 

グイド・フルベッキ :ウィキペディア

フルベッキ写真 :「写真が紐とく幕末・明治」

『「フルベッキ群像写真」と明治天皇“すり替え”説のトリック』:「舎人学校」

佐伯好郎 :ウィキペディア

多胡碑 :ウィキペディア

多胡碑記念館

秦氏と日本人 ← アブラハム小辻(小辻節三)

猪群山 ← 飯牟礼山の神蹟:「戦国奇譚|古代妄想|寺町奇譚」

     インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

人気ブログランキングへ
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。