遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『鳥居大図鑑』 藤本頼生 編著  グラフィック社

2019-06-16 13:33:38 | レビュー
 日本の神々について書かれた本は、文庫や新書から始まり専門書まで、書店に行くと様々なものを目にすることができる。手許にも幾冊かある。しかし、神社と直接関係が深い鳥居については、私はあまり書店で見かけたことがなかった。
 長年愛用している『図説 歴史散歩事典』(監修・井上光貞、山川出版社、2版)に記載されている建築編中の「鳥居」の項、4ページの説明が身近で手軽に役立つ参照資料だった。その冒頭に「一般に鳥居は神社の門であるといわれるが、起源については、日本始原説とインド・中国・朝鮮渡来説とがあって定説がない。鳥居の語源も『鶏が止り居る横木』、『人が通り入る門』説があり、定かでない」とその語源・起源について述べるにとどまる。それに続き「鳥居の部分名抄」と「鳥居の形式分類」をイラスト図入りで、簡明に概説している。必要最小限の説明がここに凝縮されている。
 本書のタイトルを見て、「大図鑑」というネーミングにまず関心を引かれた。上記の4ページの概説以上に枠を広げた「鳥居」の解説本があれば便利だろうなと思っていたからである。

 上掲書の4ページのコンパクトな概説を超えて、いくつかの観点で鳥居の世界に数歩深く踏み込んだ本との出会いとなった。本書は鳥居の実物写真を多く取り上げて、個々の鳥居の特徴、見どころを説明している。つまり、鳥居のバリエーションを比較しながら楽しめる本である。

 まず冒頭に、鳥居のルーツについて、見開きでまとめてある。本書でも「定説はない」が結論である。しかし、以下とおり、諸説を列挙している。
 日本起源説: 長鳴鳥説、文献記録説、鴨居説、語感・語呂転化説、
        注連柱(標柱)説、羨門説、原初説
 外国起源説: 古代インド説、華表(花表)説、紅箭門説、高門(ソム・プラト)説
私にとっては、上記4ページの冒頭の説明から、一歩踏み込み具体的に諸説の要点と考察の広がりを知る資料となった。

 次に、「鳥居の型式と系統」について、鳥居の各部分の名称をイラスト図で説明した後、鳥居を「神明系鳥居」(6図)、「明神系鳥居」(6図)、「明神系から発展」(6図)に系統化する。鳥居のイラストを18図、1ページにまとめて、その差異を簡潔にまとめている。
 上掲書で言えば、「神明鳥居、明神鳥居、変形鳥居」という3系統区分で、計11図のイラストが併用されている。本書「鳥居の型式と系統」の見開き2ページが上掲書の概説に相当し、その後「図鑑」としての解説が展開されていくことになる。

 本書は、北は北海道から南は沖縄まで、プラス1としてアメリカ・ハワイ州を加え、総計56社の神社について、代表的あるいは特徴的な鳥居の実例写真を図鑑として掲載している。具体的かつ対比的にそれぞれの鳥居の特徴を説明していくという列挙方式が採られている。勿論、一つの神社には、複数の鳥居が建立されている。一の鳥居、二の鳥居・・・・というように。本書では各神社の実態に合わせて、複数存在すればその相互の違いも説明されている。
 鳥居の実例写真をまず掲載した後、別途鳥居の写真の中に番号を追記し、そのディテイル(Detail)について、部分写真あるいはイラスト図を併用して解説を加える方法がとられている。各ページでは写真やイラスト図がウエイトを占め、そこに特徴や必須事項を書き加えるという構成のしかたである。まざに図鑑的なまとめ方と言える。
 そのため、鳥居の見方・着目点が捉えやすくなり、どういう風に鳥居を観察すれば良いかがわかりやすい。
 勿論、鳥居は神社そのものの入口である。本書では、神社所在地、創祀、主祭神についての説明と由緒にも最小限で言及している。1神社を2ページあるいは4ページのボリュームで説明した図鑑になっている。どこからでも手軽に読めるというのが利点だろう。結果的に、抽象化すると「鳥居の型式と系統」イラスト図集の1ページに集約されていくことになる。

 鳥居の実例写真による説明を読んでいくと、神社の鳥居により、笠木の形状に円形・五角形・かまぼこ形など各種あることや、鳥居の素材も様々なものが使われていることなどという細部情報がわかるようになりおもしろい。また、神社の歴史が古いと被災という一原因も含めて、けっこう鳥居の再建が行われていること、その機会に鳥居の素材も変化していることなども良くわかって興味深い。巨木や巨石という素材の入手難があるためか、金属製や鉄筋コンクリート製への移行が見られる傾向もうかがえる。

 冒頭に引用した本書の表紙は、佐賀県藤津郡太良町所在の「大魚神社」の鳥居である。海中鳥居であり、海岸から遠い方の海中鳥居2基を干潮時に撮った景色が撮られている。この神社自体とこの興味深い形の鳥居を本書で初めて知った。本書で初見の神社がけっこう多かった。そういう点からも図鑑の意義が十分ある。

 写真による図鑑形式の良さは、鳥居の写真や神社の景色、その特徴をビジュアルに眺めることで、現地で実際に見てみたいという動機に繋がることだろう。また、同じ系統の鳥居がどれだけバラエティに富んだものを含んでいるかを具体的に確認できるところに、その集約の利点がある。

 本書には、コラムが3項目、各見開き2ページで設けられている。「鳥居ランキング」、「謎の鳥居、不思議な鳥居」、「鳥居だけが佇む風景」である。
 たとえば、「鳥居ランキング」は鳥居の大きさとして、高さで上位神社ベスト11をランキングしている。6位が2社、9位が2社あるためである。
 ベスト3をご紹介しておこう。1位:熊野本宮大社(和歌山県、鉄鋼製)、2位:大神神社(奈良県、鉄鋼製)、3位:彌彦神社(新潟県、鉄筋コンクリート製)となるそうだ。 このことご存知でしたか。私は知りませんでした。

 楽しみながら、鳥居についての基礎知識を深めていき、神社という領域の広がりを知ることができる本である。

 ところで、少し辛口になるが気になった点にも触れておこう。
 神社により、表記に相違があるのを反映しているのかも知れないが、一の鳥居、一ノ鳥居、一之鳥居という表記が混在している。それが神社による表記差によるものとするなら実態の反映としてよしとしよう。しかし、特定の神社のページで、一の鳥居と一之鳥居が混在する記述はいただけない(p127)。一の鳥居、二の鳥居、三ノ鳥居という記述の混在もある(p135)。
 「随神門」(随身門)について、北口本宮冨士浅間神社(p55)では、隋神門と随神門と表記されていたり、二ノ宮荒田神社では随心門(p120)と随身門(p121)が混在する。 また、上記鳥居ランキング表(p23)の1位では「鉄鋼製(耐候性鋼板)」と備考に明記されているのに、熊野本宮大社の冒頭説明(p128)の中で、「2000(平成12)年造営の鉄筋コンクリート製で、・・・・」という記述になっている。p130に記載の説明では、「鳥居の素材は耐候性鋼板で竣工は2000(平成12)年5月11日」と記述している。
 「2 柱が地中不覚に埋められている」(p141)なんてのも。こちらは「深くに」の誤植というのは勿論すぐに気づくレベルではあるのだが・・・・。
 他にもまだ幾つか・・・。余分な字が残ると判断できる箇所。脱字と思える箇所。現存神社の主祭神の説明ならば、その神社が開示する表記法をまず尊重したらどうかと思う事例(p150,151)。
 編集あるいは校正プロセスに改善点があるのではないだろうか。図鑑と銘打つからには、このあたりもう少し、注意深く対処してほしい気がする。本書が改版される際には、パーフェクトな修正を期待したい。(問題箇所探しは、結構注意深く読むトレーニングにもなる。探してみてほしい。)

 ご一読ありがとうございます。

本書に関連して関心事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
烏森神社 ホームページ
虎ノ門金比羅宮 ホームページ
随神門 :「彌彦神社」
随身門 ;「コトバンク」
境内案内図  :「神田明神」
鹿島神宮 ホームページ
香取神宮 ホームページ
伊勢神宮  ホームページ
豊川稲荷  ホームページ
伏見稲荷大社 ホームページ
日吉大社  ホームページ
三輪明神 大神神社 ホームページ
熊野本宮大社 ホームページ
吉備神社南随神門 :「文化遺産オンライン」
大山祇神社 ホームページ
【大山祇神社】国宝の山!しまなみ海道に鎮座する神秘のパワースポット:「海賊つうしん」
播磨国二之宮荒田神社  :「Omairi」
出雲大社  ホームページ
筥崎宮鳥居  :「福岡市の文化財」
太宰府天満宮[福岡]  :「人文研究見聞録」
八幡総本宮 宇佐神宮 ホームページ
有田焼陶祖神 陶山神社 ホームページ
鵜戸神宮 ホームページ
鳥居について  :「神社本庁」
鳥居  :ウィキペディア
鳥居とは  :「コトバンク」
鳥居について  :「出雲大社紫野教会」
真っ赤なトンネルに願いを!千本鳥居が美しい西日本の神社7選 
    :「どこいく? トリップアドバイザー」

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