遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『鬼神伝』 高田崇史 講談社NOVELS

2015-10-28 09:11:56 | レビュー
 新書版サイズの本書は、「鬼の巻」と「神の巻」の合本として出版されている。単行本として出版された「鬼の巻」をまず読んで、その読後印象記を先にまとめて掲載している。そのため、「鬼の巻」については、こちらからご一読いただければ幸いです。

 そこで、ここでは合本の後半となる「神の巻」についての読後印象をまとめてみたい。
 「鬼の巻」では天童純が平安時代にタイムスリップしてしまい。そこで遭遇したSF的お伽話風冒険譚だった。この「神の巻」は、「不仁王寺」での源雲との出会いがきっかけでタイムスリップし、その後現実の日常世界に天童純が戻るところで終わった。元の世界に戻った天童純は、鬼について疑問点を自分なり調べる。そんな中で半年が経つ。7月の祇園祭の宵山の日に、天童純は東山にある六道珍皇寺(ろくどうちんのうじ)の小野篁像に引きつけられるようにして境内に立つ。鐘楼から響き渡る長い長い周波数の鐘の音を聴き、天童純はぐらりと、軽い眩暈(げんうん)を覚えると同時にタイムスリップしたのだ。天童純が気がつくと、そこは鞍馬山の奧の院、魔王殿の前であり、そこに水葉が現れる。再び天童純は平安時代にタイムスリップしたのだ。しかし、それは1年6ヵ月の時間が経っている時点での水葉との再会だった。オロチとの再会でもある。そして、まずは竜宮までオロチの背に乗って戻り、天童純はなつかしい面々との再会して、円座になって語り合う。そこで天童純は、その後の状況を知るということになる。つまり、リーダーとなっていた海神亡き後も「人」並びに人に加担する帝釈天や四天王たちと鬼神たちの戦いが続いているのだ。

 篁から天童に文が来て、阿修羅王に会えと言う。阿修羅王に会った天童純は、藤原基良らが企てている計画について教えられる。それは「神の鱗」計画だという。鬼神側から草薙剣を奪い取り、吉野山に祀ることにより、伊勢神宮の内宮に祀る八咫鏡、京の内裏にある勾玉と吉野山とのそれぞれの地点を繋いでできる直角三角形、つまり鱗の形の結界を作り上げて、その内に鬼神を封じ込めるという計画である。伊勢ー京の都、京の都ー吉野山、吉野山ー伊勢のそれぞれがほぼ700町の距離であり、結界を作り上げるための最小単位なのだという。鬼神たちがこの神の鱗に封じ込まれないためには、草薙剣を奪取されないことであり、そのためには戦わざるを得ないということになる。阿修羅王は帝釈天と彼自身の戦いをする。鬼神や天童は自分の敵は自らの自尊心をかけて自分で倒せと阿修羅王は告げたのだ。
 阿修羅王に教えられたことを天童純は水葉や鬼神たちに伝える。海神が亡き今、大勢の犠牲者をだして攻撃をかけるより、講和をはかりこれ以上の戦を止めてはどうかという考えを山神が語る。しかし、再び小野篁から届いた便りは、好機を逃さず、阿修羅王と連携して戦えというものだった。
 そんな折、海邪鬼が拾ったという2枚の紙を水葉に差し出す。そこには「来怒夜者罠」「巽艮卯午巽酉」という文字が記されているものだった。
 戦を推し進める中で、2枚の紙に書かれた暗号の謎解きが重要な意味を持つことになっていく。
 
 さらに篁は天童純に基良たちが、既に四天王を甦らせており、貴船にあった亀石を使って弥勒を呼び寄せ、戦に加担させようとしていると伝える。ここでは弥勒は「三拝の一二三」と間接的な名称で呼ばれている。貴族は弥勒の名前が不吉なので直接に名を呼ばないという。この物語でおもしろいのは、弥勒が破壊菩薩として位置づけられていることだ。
 そして、数字の持つ意味、その一例として和歌の五七五七七の数字の持つ意味、さらに56億7000万年後に弥勒が如来となって現れるといわれているこの数字の持つ意味を解釈していく。この解釈、なかなか神秘的・・・・。ちょっと興味深いところだ。言霊の世界に通じる解釈というところか。ここを一読するだけでもおもしろい。この解釈、古き時代からあるのだろうか・・・・・。

 この戦いがどういう結末を迎えるか? 本書をお楽しみいただきたい。
 このことだけ触れておこう。貴族により素戔嗚尊と娘媽神(のうましん)とにかけられていた呪が解け、天童純が再び、現在の世界に戻ったということ。


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本書後半のストーリーに関連して、関心を抱いた事項とそこからの波及事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
六道珍皇寺 ホームページ
牛頭馬頭  :ウィキペディア
牛頭馬頭  :「祭と民俗の旅」
牛頭天王  :ウィキペディア
平安時代の闇のヒーロー「小野篁」の華麗なる地獄めぐり :「NAVERまとめ」
小野篁  :ウィキペディア
小野篁の地獄通い  :「左大臣」
弥勒菩薩  :「コトバンク」
弥勒菩薩  :「仏像ミニ知識」
大黒天  :ウィキペディア
第1回秀吉の出世守り本尊「三面大黒天」の謎  高橋伸幸氏 :「歴史人」


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