遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『英和対訳 神道入門』 山口 智  戒光祥出版

2012-05-13 12:52:52 | レビュー
 本書序文の冒頭に、著者は「外国人とりわけ英語圏の人々に日本の神道について全般的な説明を行うことである」とその目的を述べている。日本語では「神道入門」だが、「SHINTO from an INTERNATIONAL PERSPECTIVE」という英文タイトルになっている。国際的な観点という語句を使っている趣旨は、キリスト教その他世界宗教との相違点対比などを盛り込んだ説明を取り入れていることによると理解した。

 なぜ、本書を読む気になったか? それは、外国人を第一ターゲットに書かれているということなので、神道の全体像をまず理解するのに比較的入りやすく、入門として便利ではないかという思いからだった。
 自宅から歩いて行ける距離に地元の神社があり、年始には毎年初詣に行く。長年、京都市内の諸神社を時折訪れていながら、また神前結婚式もしていながら、今まで「神道」というものを総合的に考えたことがほとんどなかった。少し基礎的な事項を学び、風習・慣習的枠組みに留まっている状態から、一歩踏み出して理解を深めたかったからである。
 意外と同類の日本人が多いのではないだろうか、あるいは大半のひとがそうなのかも知れない。そんな方々には、分量的にもお薦めの一冊といえる。英語ではどう表現できるのか・・・・、それは興味・関心次第の附録扱いでもよいだろう。

 日本語文をまずは読んだだけで、英文は部分読みだけである(普段目にしない単語を頻繁に使うということをしていないようなので、比較的読みやすい英文だと思う。日本の宗教文化を説明するテキストとして役立ちそうだ。)従って、この読後印象は日本文での説明を通読した結果で書いている。

 本書の構成をまずご紹介すると、「総合的に」の意味がご理解いただけるだろう。
第1章  神道-日本の正統「宗教」
第2章  神道の歴史的展開
第3章  神道の分類
第4章  神社
第5章  神道の祭り
第6章  皇室の神道祭祀
第7章  神社の制度的側面
第8章  神道の国際的な宗教的位置及び意義
第9章  国際社会と神道
第10章 神道と自然環境
第11章 典型的な祝詞の英訳
 
 第1章の冒頭「1.神道とは何か」および第8章で、著者は神道の「神」概念を宗教比較の形で説明している。結局、神道の「神」概念を明確に定義することはできないということを再確認できる。日本人の風習、生活感覚などと一体化されているからということに落ち着くようだ。この対比的説明により、逆にその違いが具体的に分かりやすいといえる。

 私個人が一番理解を深める上で役立ったのは、第2章、第3章である。「神道の始まり」の末尾に、「この神道の本質は、歴史を通じて今日まで変わっていないが、神道は仏教、道教、儒教と政府の政策の影響を受け、特に神仏習合が進展した」と記されている。神仏習合思想を、「神身離脱説、護法善神説、本地垂迹説」という形で簡潔に整理されている点はわかりやすい。「どのように仏教を理解し、信仰するかという観念的な問題が生じ、主に僧侶たちが神と仏の関係について思索を巡らした。その結果、仏教を神道と調和させる考え方が8世紀頃から生み出され(p25)」たと著者は記す。
 また、神仏分離が維持されていた局面(伊勢神宮と宮中)もあることを再認識した。
 神道思想が整備確立されたのは、仏教伝来に対応するためだったと昔聞いた記憶がある。そんなものかと思う程度にとどまっていた。本書で、「伊勢神道、吉田神道、儒家神道、国学」という形でその歴史的展開が簡潔にまとめられていて、参考になった。吉田神道が「仏教に対する神道の優位性を主張するために、本地垂迹説を裏返したものであった」(p37)というのも興味深い。明治の神仏分離と神道の扱い、そして戦後の神社の民間団体化の変遷の概略を押さえることができ、頭の整理ができた次第である。
 神道を、「神社神道、皇室神道、教派神道、民俗神道」と4分類されている。こういう分類で、いままで神道を考えたことがないので、ある意味、目から鱗というところだ。また、皇室神道を意識していなかったので、第6章(ごく簡単にしか記述されていない)と併せてその基礎知識、知らなかった事実を知る機会を得た。知るということは、おもしろいものだ。
 ネット検索で調べて見ると、個別項目ではかなり詳細に情報提供してくれているサイトがある。そういう情報を読み、理解を深めて行く上でも、本書程度のまとめかたのものを総合的、全体的に読んでおくと、まずは入って行きやすくわかりやすい気がした。(当然ながら、語句の使用法にはバリエーションがいろいろ散見されていくので。)

 多くの人は、参拝した経験・日常感覚で神社を何となく知り、馴染んでいる。しかし、「磐境」「神奈備」「神籬」、本殿の基本様式と機能、鳥居の様式、なぜ狛犬というのか、神社の建物の識別法・・・・などについて、説明できるくらいに、神社をご存じだろうか。第4章はこんな基礎知識を知るために有益である。神職の資格がどうなっているかということも、おもしろく学べた。また、第5章では、祭典と祭礼の区別、祭典における標準的な式次第、主要な祭り(祭祀)の分類整理などについて興味深く読んだ。今までは特定の祭りしか意識していなかったので、神社には年間を通じて祭祀行事が結構数多くあるものだと思った。

 第7章、第9章、第10章は、神社の制度的側面や社会的な側面の状況を整理しておくのに有益である。第2次世界大戦以前と戦後の神社の位置づけの違いがよくわかる。また、神社境内の石碑・案内板に記載の言葉の持つ意味について、理解を深めることにもなる。

 私が興味深く感じているのは、第11章「典型的な祝詞」である。英訳もさることながら、まず祝詞の内容が具体的にどういうものかということを本書で初めて具体的に理解できたのだ。ここには、典型的な祝詞として、「大祓詞、祓詞、例祭祝詞、祈年祭祝詞、新嘗祭祝詞」が掲載されている。漢字だけでそれも古語で書かれた詞全文にふりがなが振られている。ゆっくり読んでいけば、大凡の意味は理解できる。正確な理解をするためには、分析的に精読していかねばならないが・・・・。漢字だけの文だがいわゆる漢文ではなく、古語といえど日本文なので、その点仏教の経典と比較すれば、読みやすい。
 地元の神社の祭礼で、神職が祝詞の文書を捧げて本殿前で奏上されるのに何度か立ち会った経験がある。漢字ばかり並んだ祝詞文が背後から見えていたが、こういう内容なのかということを具体的に知ることができおもしろかった。
 そこで、ネットでも祝詞について情報が得られるかと検索してみた。いくつか見つけることができた。本書と併せて、理解を深める手がかりが、インターネットという手段で身近にあったのだ。ちょっと楽しい・・・・

 最後に、本書の印象深い章句を引用しておきたい。

*自然と祖先を崇敬することが神道の本質となった。 p21

*神道は民族宗教であり、日本人は神道とは何かを直感的に理解し感じることができるため、他の世界宗教のようにその思想や教義を説明する必要があまりないのである。そのため、神道では言葉による論理的な説明が精緻になされず、経典を持っていないのである。 p153
 → そのことが、神道の宗教としての限界にはならないのだろうか・・・

*神道の祈りは、本来は共同体の福利のためであり、個人のための祈りは後から発達したものであって、神道は現在、この二種類の祈りを包含しているということに留意すべきである。  p155
 → 現在、本来の祈りの部分をどれだけの人が意識しているだろうか・・・

*神道は、より楽観的でプラグマティックでり、我々は現世を楽しみ、より良くすべきであると考える。  p165

*日本人は、神は森に鎮まると久しく信じてきた。そのため神社は、通常、森の中や近くにあるか、木々に囲まれている。・・・・このように神道は、自然を尊重し、崇拝する宗教である。  p179

 七五三、初詣、神前結婚式、祭り・・・。風習、慣習、生活感覚で何となく馴染んでいる「神社」、「神道」というものを、少し見つめ直してみることは、自分自身の行動を見つめ直すことにつながるという思いがしている。


ご一読ありがとうございます。


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 ネット情報では、どの程度の知識情報が得られるものか? 本書を契機に、記載のキーワードから、さらに広げ、深める材料収集として、ネット検索してみた。

神道 :ウィキペディア
三輪山 ご由緒  :大神神社のHP
山岳信仰 :ウィキペディア
古神道  :ウィキペディア

神仏習合 :ウィキペディア
神身離脱説 ← 「神仏習合」とは何か :7.日本の神々と仏たちの正体 小澤克彦氏
護法善神 :ウィキペディア
本地垂迹、反本地垂迹 :ウィキペディア
「神」と「仏」の日本宗教史~その2 本地垂迹説の成立と平安時代の宗教 :「ジュケンブログ 社会」
第10回 古代・中世の神道・神社研究会「神仏関係論の再検討」
:グループ2「神道・日本文化の形成と発展の研究」 國學院大學21世紀COEプログラム

熊野三山 表「社殿・祭神・本地仏」 :ウィキペディア
 熊野本宮大社
 熊野速玉大社
 熊野那智大社
八幡大神ゆかりの伝承 :八幡総本社 宇佐神宮のHP
Re: 鹿島神宮と神宮寺 :「神さまのぶらんこ」 鎌倉とんぼ氏
神宮寺  :ウィキペディア
「八坂神社と御祭神」 祇園神の習合 :八坂神社(京都)のHP

修験道  :ウィキペディア
立山大権現、立山信仰  ご由緒 :雄山神社のHP
  左サイドの項目「ご由緒」を選択してください。
立山の歴史・立山信仰  :「立山リゾート研究会」のサイトから

権現 :ウィキペディア
明神:ウィキペディア
徳川家康公;日光山東照大権現 由緒 :日光東照宮のHP
  徳川家康 墓所・霊廟・神社 :ウィキペディア
明治神宮とは  :明治神宮のHP

御霊信仰 :ウィキペディア
御霊会に関する一考察(御霊信仰の関係において) 伊藤信博氏
御霊信仰の諸相 桂川将成氏
今宮神社と御霊信仰 :「ようこそ博物館へ」 水龍氏
五條市の御霊神社 :「ななかまど」
 このサイトでは、各地の御霊神社ととりあげています。
「北野天満宮天神」由緒 (菅原道真公) :北野天満宮(京都)のHP

宮中祭祀 :ウィキペディア
宮中祭祀主要祭儀一覧 :宮内庁
 
延喜式  :ウィキペディア
延喜式神名帳 :ウィキペディア
延喜式神名帳 :「玄松子の記録」
明神大社 :ウィキペディア
二十二社 :ウィキペディア
近代社格制度 :ウィキペディア
社格 :「玄松子の記録」

延喜式検索システム :皇學館大学

神道の系譜 :「女神占い秘話」
山王神道 :ウィキペディア
両部神道 :ウィキペディア

伊勢神道 :ウィキペディア
伊勢神道思想の発展と継承 -家行・慈遍・親房・兼倶- 高橋美由紀氏
高橋美由紀 『伊勢神道の成立と展開』から :「後深草院二条」
 度会行忠の思想における「礼」と「心」、行忠の神仏観

吉田神道 :ウィキペディア
吉田兼倶 :ウィキペディア
吉川神道 :「宗教いろいろ」
吉川神道 :「難経鉄鑑」のサイト 六妖會氏
吉川惟足 :ウィキペディア
垂加神道(スイカシントウ):「本居宣長記念館」HP
垂加神道 :「難経鉄鑑」のサイト 六妖會氏
『垂加神道の人々と日本書紀』への書評 高橋美由紀氏
山崎 闇斎 :ウィキペディア

神道について (儒家神道、国学の神道思想) :市谷亀岡八幡宮のHP
 花の写真のあるあたりから、具体的な説明が始まります。
 このサイトには、「神道とは何か」「神道の発生」「室町中世へ」等
 そして「現在から未来へ」と歴史的プロセスで説明がなされています。
儒教と神道  「神道講座テキスト」新熊野神社
平成心学塾宗教篇  一条真也氏 :「平成心学塾」
 第一講 神道の世界
 第四講 神道と仏教
 第六講 儒教と神道 
 
国学 :ウィキペディア
復古神道 :ウィキペディア
荷田春満 :ウィキペディア
賀茂真淵 :ウィキペディア
本居宣長 :ウィキペディア
本居宣長記念館のHP
平田篤胤 :ウィキペディア
大国隆正 :ウィキペディア
大国隆正 (別名 野之口隆正) :「福山誠之館同窓会」
「大国隆正の学風について」 中村聡氏

教派神道  :「女神占い秘話」
教派神道  :ウィキペディア
 当項目に記載の「神道十三派」のうち、天理教を除く十二派の教史・教義の簡略な説明は、「教派神道連合会」のHPの「What's 教派神道?」という項目に記されている。

国家神道の基礎知識  大黒学氏
国家神道  :ウィキペディア
比較宗教学 4.神道と天皇制  講義レジュメ 安黒務氏 :ICIのHP
 a.神道とは何か  b.平田神道と国家神道

神仏分離 :ウィキペディア
太政官布告・神祇官事務局達・太政官達など :日本の塔婆
廃仏毀釈 :ウィキペディア
廃仏毀釈              :「東白川村の廃仏毀釈」
廃仏毀釈の背景 復古国学と復古神道 :「東白川村の廃仏毀釈」
神仏分離と神葬改宗 神仏判然令の発布:「東白川村の廃仏毀釈」
廃仏毀釈の断行           :「東白川村の廃仏毀釈」
廃仏毀釈と民衆の動き        :「東白川村の廃仏毀釈」

神道指令 :ウィキペディア
神道指令 :「中野毅ゼミCyber Library」
国家神道、神社神道に対する政府の保証、支援、保全、監督並に弘布の廃止に関する件

神祇官 :ウィキペディア
官職:神祇官  :「官制大観 律令官制下の官職に関わるリファレンス」MinShig氏 
神職  :ウィキペディア
神職と神社 まめ知識 :「有職装束研究 綺陽会」のサイトから
神職養成講習会 :國學院大學のHP

神社本庁のHP 
 現在のほぼ全国の神社の軸、要にあたるところ。
 ここには、「神社のいろは」が簡潔にまとめられています。
  名称、狛犬、境内の小さな神社、氏神と崇敬神社、社殿、神さま
神社本庁 :ウィキペディア
神社疔  :ウィキペディア

伊勢神宮 恒例祭及び式 :伊勢神宮のHP
 日別朝夕大御饌祭、 神宮の行事
 神宮の御料地 
伊勢神宮 :ウィキペディア

「正岡正剛の千夜千冊」のサイトから 
 書評を通じて、正岡氏の神道論への思考の一端が発露されているように感じます。
 第六十五夜 鎌田東二   『神道とは何か』
 第百九夜 海津一朗    『神風と悪党の世紀』
 第四百九夜 高取正男   『神道の成立』
 第六百六十八夜 佐藤弘夫 『アマテラスの変貌』
 第六百九十四夜 大江時雄 『ゑびすの旅』
 第七百七十七夜 黒田俊雄 『王法と仏法』
 第七百九十六夜 山本七平 『現人神の創作者たち』
 第九百十夜 逵日出典   『神仏習合』
 第千八十七夜 山本ひろ子 『異神』
 第千百九十夜 村上重良  国家神道
 第千九十夜 ヘルマン・オームス 『徳川イデオロギー』
 第千百四十七夜 津城寛文 鎮魂行法論
 第千百八十五夜 佐伯恵達 廃仏毀釈百年
 第千二百十五夜 土橋寛  日本語に探る古代信仰
 
神社知識 :「玄松子の記録」
 神社について情報満載の優れものサイトです。
 本殿 このサイトに、本殿様式が詳説されています。
 鳥居 このサイトに、鳥居が詳説されています。
 燈籠 
 祝詞 祓詞(「神社本庁作文」によるもの) 原文と仮名まじり文
  6種類の祝詞が掲載されています。探せば、公開されているのですね。
「祓詞のはなし」 :「~新川の社務所から~」 ごんねぎ氏
 他の項目を検索していて、このサイトでも見つけました。
 さらに、「天津祝詞の太祝詞」考というテーマでも、詳細な論究が載っています。 
狛犬分類学  :「狛犬ネット」元祖「狛犬サイト」 by たくき よしみつ氏
 狛犬に関する蘊蓄を傾けたサイトです。
こまけん 日本参道狛犬研究会 :綾瀬稲荷神社の私設HP 円丈責任編集
 メニューが豊富です。書き方が楽しいですよ。
 円丈式狛犬分類カタログ 
狛犬の歴史  :「狛犬と私」clearwater氏
 狛犬豆知識、狛犬の仲間たち、狛犬アルバムを備忘録として作成されています。
 
「甦る神道 -民衆宗教の原点-」 山折哲雄氏 :「教派神道連合会」HP
  教派神道連合会結成百周年記念講演  左サイドから標題項目の選択が必要です。
 
「万葉集神事語辞典」収録語一覧 :國學院大學デジタル・ミュージアム
図書館デジタルライブラリー 神道文化関係 :國學院大學デジタル・ミュージアム
 延喜式祝詞、延喜式巻八、古語拾遺、沙石集などの古文書画像が閲覧できます。

Shinto :From Wikipedia, the free encyclopedia
Kami :http://en.wikipedia.org/wiki/Kami
List of Japanese deities :From Wikipedia, the free encyclopedia
Japanese mythology :From Wikipedia, the free encyclopedia
Syncretism : From Wikipedia, the free encyclopedia

國學院大學から、海外向けにこんな発信がなされているのを見つけました。
Encyclopedia of Shinto 
 ここには、Movies List として、神道関連の動画も沢山掲載されています。
Basic Terms of Shinto 神道基本用語集 
Images of Shinto: A Beginner's Pictorial Guide(図説による神道入門)
 イラスト図による用語説明からその詳細理解ができるリンクが張られています。

UNIVERSITY OF HAWAI'I AT MANOA LIBRARY
偶然、これらの情報源が、ハワイ大学の図書館で神道のリソースとしてリンクが張られているのを見つけました。(Japanese Studies Collection)

Magatsubi no Kami and Motoori Norinaga's Theology UEDA Kenji :國學院大學

ところで、こんなQ&Aもネットには出ていますね。(YAHOO!JAPAN 知恵袋)
日本国家成立以前にあった固有信仰が、神祇信仰、神道へと変化する時期っていつで...


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