遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『さむらい 修羅の剣』 鳥羽 亮  祥伝社

2012-03-02 15:29:17 | レビュー
 この著者の作品を読むのは、これが初めてである。副題の「修羅」という言葉と劇画タッチの装画に惹かれて手に取った。

 本書表紙の雰囲気そのまま、まさに時代活劇そのもので、文字で綴った劇画という印象が残った作品だ。シンプルなストーリーで展開がスムーズ、話の展開に脇道がなくストレートなので読みやすい。清涼飲料水を飲み、スカッと気分の切り替えをするような感じで読み終えた。いわば、少し重い本を読んだ後などの気分転換にはもってこいというところである。
 著者はすでに100冊を越える作品を上梓されているようだが、どんな雰囲気の作品が多いのかは知らない。これから時折、この著者の作品を読み継いでいこおうかと思う。

 本書は、陸奥国、倉田藩十三万石での中老の派閥争いに巻き込まれてしまった下級武士で剣技に秀でた武士を主人公にした物語である。城代家老が病気がちで隠居したがっていることから、その後釜をねらう中老、深田と木崎の両派閥をめぐる話なのだ。木崎派の中心人物である武部と越村が、中老・深田の排除を策す。越村が隊長となり、9人の刺客部隊を編成して深田暗殺を実行しようというのだ。
 この隊士に組み込まれるのが、畑中宗次、篠田、宇田川その他である。東軍流堀川道場の師範代をつとめ、藩内では知られた遣い手の越村の推挙で、宗次、篠田、宇田川らは徒士になれたという恩義がある。越村から、「深田の悪政を放置しておけば、取り返しのつかないことになるぞ」「おれが、おぬしらを選んだわけを知っているか。堀川道場で腕がたち、骨のある男だと見込んだからだ」と言われれば、彼等は拒否できない立場なのだ。そして、越村は、「深田は、おれが斬る」と言う。

 9人の暗殺隊は、城から帰る途中の中老・深田の一行を鳶の森で襲う。隊士は警護の家臣たちを相手にし、越村自身が深田を暗殺する。事が成就すると、隊士には仙岳寺にて待てと指示し、越村は菊沢と中老に一旦報告に行き、その後寺にむかうと言う。
 実は、暗殺した隊士を抹殺し、中老・深田暗殺の責任を宗次以下の隊士に押し付ける策謀だったのだ。宗次、篠田、宇田川は口封じの策謀からからくも脱出することができる。しばらく、彼等は阿弥陀堂に身を潜めるが、その間に深田暗殺は宗次らの行為とされてしまう。
 越村は、宗次以下を探索・追跡し、皆殺しにより証拠隠滅をはかろうとする。武部・越村の魂胆がわかった宗次らは、深田を直に手がけたのが越村であることを明らかにし、あらぬ濡れぎぬを払拭しなければという怒りに燃える。

 越村からの目を逃れるために、宗次らは藩所有の御直山の一隅にある鹿取村に向かう。宇田川の面識がある山岸小十郎が住んでいるので、そこに頼ろうとする。だが、行ってみると、鹿取村では村の存亡に関わる事態が進行していた。中老・木崎、大目付・武部、郡代・柴崎の一統が鹿取村の樵や筏師から材木の買いあげを半値にするという悪政を行っていたのだ。村人三人が斬り殺され、捕らえられた者もいた。宗次らは、これが藩の材木を一手に扱う富田屋から賄賂を受け取った柴崎らの悪行であることを知らされる。

 木崎一派の存在は、倉田藩にとっても由々しきことだということが明らかになっていく。捕らわれた村人の救出、暗殺隊に加わり策謀により貶められて死んで行った隊士への悲痛な思い、越村に中老・深田暗殺という濡れぎぬを被せられた怒り・・・・それらが、宗次に、修羅の剣をふるわせていくことになる。

 文字で綴った劇画と喩えたのは、まさに真剣での戦いの場面が主たる読ませ所になるストーリー展開の作品だからでもある。単純明快な修羅の剣の太刀さばき・・・・劇画に描かれると一層イメージしやすいだろう。殺伐さが強まるかもしれないが。


ご一読ありがとうございます。

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イメージを広げるために作品の背景になる語句とその波紋をネット検索してみた。

東軍流  :ウィキペディア
富田勢源 :ウィキペディア
富田流  :ウィキペディア
一刀流   :ウィキペディア

東軍流沿革 :「東軍流」(直師夢想東軍流)サイト
 こういう流派もあるようです。

五行の構え :ウィキペディア
日本剣道形 重要事項・立会
日本剣道形 四本目 
剣術用語 :「新撰組活劇」(←新撰組ファンにはよいサイト)

郡奉行 :kotobank.jp
郡代  :ウィキペディア
目付徒目付 :ウィキペディア
勘定奉行 :ウィキペディア

ぶっさき羽織 ← 古写真で読み解く広重の江戸名所:森川和夫氏


ネット検索でこんなことも知りました。
加来耕三/PRIVATE


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