タイトルに惹かれて手に取ってみました。政治家には興味が全く無いのですが、著者も凄い人ですし、大物政治家を支える側近達から何らかのヒントが掴めそうな気がしたので読んでみる事にしました。
背表紙より。
「古今東西、国家を率いるリーダーには、必ず「軍師」が控えていた。日本でも、安岡正篤師や後藤田正晴氏などが歴代首相を支えてきた。しかし、「軍師」なき今、１年前後で「首相交代」になる軽量内閣ばかり。元「軍師」でもある著者が、憂国の情をもって「軍師なき日本に明日はない」と強く訴える。」
わが「軍師」論
後藤田正晴から鳩山由紀夫ブレーンまで
文春文庫
2010年5月10日第1刷
佐々淳行（さっさ あつゆき）著
著書紹介より。
「佐々淳行。1930年東京生まれ。東京大学法学部卒業後、国家地方警察部（現警察庁）に入庁。目黒警察署勤務をふりだしに、警視庁外事・警備・人事課長、警察庁調査・外事・警備課長を歴任、「東大安田講堂事件」「連合あさま山荘事件」等では警備幕僚長として危機管理に携わる。その後、三重県警察本部長、防衛庁官房長、防衛施設庁長官等を経て、86年より初代内閣安全保障室長をつとめ、昭和天皇大喪の礼警備を最後に退官。以後は分筆、講演、テレビ出演と幅広く活躍。「危機管理」という言葉のワードメーカーでもある。93年「東大落城」で第54回文藝春秋読者賞受賞。2000年第48回菊池寛賞を受賞。著書の他に「完本 危機管理のノウハウ」「菊の御紋章と火炎ビン」「わが記者会見のノウハウ」等がある。
佐々淳行ホームページ 」
悪いひとたち!?がいる町へ
（追記）
平成19年の都知事選で、石原氏本人から選対本部長をお願いされて、やった事の無い大役を引き受けてしまったが、結果、石原都知事を勝利へと導いて行く。佐々氏の軍師ぶり（奇抜なアイデアで石原陣営の弱点を次々とアピールポイントに置き換えてしまう戦略）には驚かされるモノばかりであった。多方面の「軍師」についても沢山書かれており、一番心を惹かれた章を自分への戒めと思い、書き写しておきたい。
佐々淳行著「わが「軍師」論」P.217より転記。
「紫電改戦闘機隊最後の’軍師’ー勲を語らなかった零戦の英雄と大喪の礼」
大空に散った仲間たちのことを戦後も思いつづけた海軍のエース志賀淑雄さんの生涯
平成17年（2005年）11月25日、ノーベル工業株式会社会長志賀淑雄さんが91歳の波乱にみちた生涯を終えた。志賀さんは日本海軍史にその名を残す零戦の飛行隊長で、敗戦により価値観が崩壊した戦後の日本では忘れられた英雄だった。
初めて志賀さんに会ったときの驚きを、筆者は今も忘れない。（中略）。志賀さんは、中肉中背の、礼儀正しく穏やかで謙虚な中年紳士という印象だった。渡された名刺を見て首をひねった。志賀淑雄？聞いたことがある名だ。共産党幹部に同名異人がいるな。まてよ、共産党は「義雄」だったか？もしかして太平洋戦史によく出てくる有名なゼロ戦乗りか？
「失礼ですが、もしかしてハワイ空襲の空母「加賀」のゼロ戦制空隊長の志賀さんですか？」とたずねてみると「ハイ、その志賀でございます。こうして生き恥をさらしております」という返事がかえってきた。
戦史上、筆者の知っていた志賀淑雄海軍少佐は、鹿児島県出身、海兵62期、旧姓四元、源田サーカスとよばれた海軍戦闘隊の超エースの一員。ハワイ空襲以来「加賀」「飛龍」「隼鷹」「信濃」と四隻の空母の分隊長又は飛行長として徹頭徹尾太平洋のあらゆる空海戦を最前線指揮官として戦い抜いた。
とくに南太平洋海戦では三回も攻撃隊指揮官として出撃し、最後は沈みゆく米空母の上を超低空飛行で航過し、艦番号を自分の目で確かめて、それが「ホーネット」であることを報告した英雄だった。
彼の乗り組んだ日本空母は四隻とも沈み、昭和19年（1944年）11月からは本土決戦の日本海軍最後の精鋭戦闘機「紫電改」の松山第343空の飛行長として、源田実大佐の下、果敢な空中戦を生き抜いた空の勇士だった。
戦後は源田大佐、山田大尉など著名なエースたちは航空自衛隊に入隊し、みんな功成り名を遂げて幕僚長、参議院議員などと栄達したが、志賀さんは野に下って警察官の装備資材、特殊警棒や防弾チョッキなどを研究開発する「ノーベル工業」という昔の戦友たち十数人を社員とする町工場を経営し、ヒッソリと社会貢献していたのだった。
気性の烈しい軍人だったようだ。
麾下（きか）の零戦隊から特攻隊志願者を差し出せと高級幕僚が命令してきたのを断乎拒否し、「どうしてもというなら私が征く。その時は参謀殿、貴官も私と一緒に征け」とくってかかり辟易（へきえき）した参謀は尻尾をまいて引き上げたというエピソードもある。
ホーネット撃沈の際には第二次攻撃までに空母「翔鶴」「瑞鶴」のパイロットたちはほとんど戦死し、闘志まさに尽きんとしたわずかな寄せ集めの艦戦、艦攻、艦爆のパイロットたちを「隼鷹」の飛行長だった志賀大尉が「もう一回行こう。私が指揮する」と励まして第三次攻撃を敢行し、遂にホーネットを沈めたという武勳詩もある。
「なぜ航空自衛隊に入らなかったのですか？」とたずねると、「多くの部下を戦死させました私のできることは、彼らの菩提（ぼだい）を弔うことと、生き残った戦友たちや戦死者たちの遺族の生活の面倒をみることです。空戦中、敵機に後ろに廻りこまれてあわや撃墜されるかと思ったとき、列機が間に割りこんで庇ってくれ、被弾炎上したその零戦の搭乗員が私に挙手の礼をして墜ちていきました。その姿が忘れられません」という答えだった。
部下に殉職者を出した経験のある筆者には、数限りない修羅場をくぐり、地獄をみ、多くの部下同僚を戦死させた志賀さんの菩提遁世（ぼだいとんせい）の心境はわかるような気がした。
戦争がなくなった戦後でも、日夜命がけの任務を遂行している警察官の身の安全についての志賀さんの力のいれようは尋常でなく、利益を度外視して警察のニーズに対応してくれた。
（中略）
・・・枯炎の心境であった志賀さんは、いざ量産、やっと儲かるという段階になると実に爽やかに大企業に儲けの機会を譲ってしまい、筆者らはそのあまりな無欲さぶりに歯がゆい思いをしたものだ。
謙虚な人柄だった。ある時、「志賀さん、零戦の星として四年も最前線で戦い抜いたんですから、さぞ沢山敵機を撃墜したでしょう？撃墜記録は何機ですか？」ときいてみた。
答えは「単独撃墜は((六機))でございます。あと協同撃墜はもっと多うございます。ある程度撃っておいて、まだ撃墜記録のない新参の列機に墜させるんでございます」。
これには筆者は恐れ入った。ハワイ空襲、ミッドウェイの支援作戦だったアリューシャン作戦、珊瑚海海戦、南太平洋等々艦上戦闘機零戦の分隊長、飛行長を四年間第一線の艦隊勤務で、最後は松山の紫電改第343空飛行長として、勝ち誇る米高速機動部隊のパイロットたちをして「日本にまだこんなに強い戦闘機が残っていたのか」と驚嘆せしめた志賀淑雄少佐のことだ。撃墜50機といおうが、100機といおうが、流石「源田サーカス」の列機だった名パイロット、当然のことと世人は納得するだろうに、「六機」ときた。
この人は「本物だ」と思ったものだ。
簡素なうちにも追悼の心みちみちた葬儀の祭壇には、生前の遺言の由で勲六等単光旭日章も勲五等宝章も功五級の金鵄勲章（きんしくんしょう）も飾られていなかった。日頃から功名を誇ってはいけないと家人を戒めていたという。
戦死者に対する菩提心は本当に深いものがあった。平成元年（1986年）「昭和天皇大喪の礼」が荘厳に挙行された折、筆者は大喪の礼実行委員会の治安警備担当の実行委員たる内閣安全保障室長だった。恒例弔事の一つに「殯宮祗候（ひんきゅうしこう）」があった。文武百官が交代で天皇の御柩を諒闇（りょうあん）の「松の間」で無言でお守りするお通夜である。1月20日その第七組に筆者は招待された。祗候するのにふさわしき者を推薦せよというので筆者は躊躇なく志賀さんを指名した。白いカーテン、御簾（みす）をめぐらせた天井の高い500平方メートルぐらいの殯宮の螺鈿（らでん）の黒椅子に志賀さんは沈黙して祗候した。退出後お茶を賜ったとき、低い声でいった。
「私は戦死した全ての零戦搭乗員の名簿を懐に祗候致し、心の中で彼らの勲（いさお）しを陛下に御報告致しました。文武百官の列にお加え頂きまして誠にありがとうございました」
筆者は日本のために戦い、大空に散った空の勇士たちを代表するにふさわしい人を招いてよかったと目頭が熱くなった。昭和史の語りの部志賀さんは、遂に勲を語ることなくこの世を去った。
志賀淑雄さん、どうぞ安らかにお眠り下さい。
（文庫版のための追記）
志賀淑雄さんはミッドウェイ海戦で沈んだ空母「加賀」の零戦分隊長として、源田実、淵田美津男氏らの軍師役だった。そして終戦のとき、松山の日本帝国海軍最後の最強の紫電改戦闘機の源田実司令の飛行長だった。終生No.2の軍師役に徹底した生粋の海軍軍人だったのである。
（原題「勲を語らなかった零戦の英雄を悼む」(2006.6) ）
）。
」って言いながら地団駄を踏んでいたから出て来たのかな？（笑）
