日本庭園こぼれ話

日本の歴史的庭園、街道、町並み。思いつくままに
Random Talks about Japanese Gardens

湖西散策(上)=海津~湖の辺の道~今津・・・滋賀県(改編)

2020-12-17 | 歴史を語る町並み

滋賀県のほぼ中央に、南北に長く横たわる日本最大の湖、琵琶湖。その面積約670平方キロメートルは、淡路島に匹敵するとか。日本地図を見ると、琵琶湖の南端は京都に隣接し、北端は日本海のすぐ近くまで迫っています。

そのため古来より、明治時代に鉄道が開通するまでは、畿内と北陸・日本海を結ぶ水上交通路としても大きな役割を果たしてきました。

沿岸の地名を眺めると、特に湖の西岸には大津、今津、海津、塩津など、港を意味する「津」のついた地名が並んでいることに気づかれるでしょう。

海津は湖上交通の港町としてだけでなく、漁業の拠点でもあり、また特に江戸時代は、北国街道の宿場町として繁栄しました。町並みは、そうした過去の姿をよく残し、「自然と人の暮らしが作り上げてきた文化的な風景」を対象とした「重要文化的景観」の一つに選定されています。

JR湖西線マキノ駅から湖畔沿いに少し行くと、湖岸に軒を連ねる家々の足元に、累々と積まれた見事な石垣に目を奪われます。「重要文化的景観」の構成要素にもなっているこの石積みは、江戸時代に築かれたもの。

記録によれば、元禄年間に度々、大波があり、家屋や街道が被害を受けたことをきっかけに、代官・西与一左衛門の尽力によって築造されたとあります。それが今日もなお、湖岸に「高さ2.5メートル前後の石積みが、1.2キロにわたって続く」独特の景観を見せています。

遠望すると城郭都市のような豪壮な石積み景観ですが、近づくと、花壇の一部になっていたり、物干しとして利用していたりと、暮らしに溶け込んでいる様子がほほえましくもあります。

現在の海津の町並みには、かつてそうであった琵琶湖水運の拠点としての賑わいはありませんが、家並みや、いくつかの老舗の店構えなどが、その歴史を物語っています。

蔵造りの海津漁業協同組合旧倉庫、琵琶湖特産の鮒鮨で知られる「魚治」、造り酒屋の「吉田酒造」、あるいは400年以上の伝統を持つという手づくり醤油の「中村商店」など。また集落内に寺院の多いのも特徴の一つかもしれません。

 

海津の町並みが延びる先、琵琶湖に大きく突き出ている半島は、海津大崎。琵琶湖八景の一つ「暁霧・海津大崎の岩礁」として知られ、湖岸を4キロにわたって彩る桜の名所にもなっています。(日本の桜名所100選)。

湖のほとりに続く小径は「近江湖の辺(うみのべ)の道」という遊歩道。湖西の近江舞子から北回りで湖東・近江八幡まで、琵琶湖の湖岸全体で、約140キロの自然歩道が整備されているそうです。海津大崎とは逆の方向、高木浜、知内浜方面に向かって歩いてみました。

さざ波が軽やかに打ち寄せる岸辺を、空に舞う水鳥の群を眺めながら歩けば、「われは湖の子 さすらいの 旅にしあれば しみじみと・・・・」と『琵琶湖周航の歌』が思い出されます。(年齢がバレそうですね)

(上:「湖の辺の道」の中でも、風光明媚な知内浜からの眺め)

このあたりからは、濃緑の松並木が延々と水辺を縁取り、まさに白砂青松の光景。今津浜までの約8キロにわたって、2,000本以上のクロマツが並木をつくっているそうで、「日本の白砂青松100選」にも選定されています。

この松並木は、防風林として、あるいは「魚付き林」として、明治末期から地元の人々の手によって植林、保護されてきたそうです。

高木浜から今津まで、足に自信のある方は「湖の辺の道」を辿って約11キロを歩いても良し、そうでない方はマキノ駅に戻って、湖西線で2つ目が近江今津です。

 

今津に着いて、ここから船で竹生島に向かう予定ですが、船の出港までに時間があったので、港から600メートルほど北にある曹澤寺を訪ねました。「江戸後期の枯山水の名庭」があると、ガイドブックで読んだからです。

今津もまた、かつて若狭街道と湖上水運の拠点として栄えた町で、今津港のある浜通りを、曹澤寺に向かって歩くと、道筋には老舗旅館の丁字屋や、ベンガラ色の格子戸など、歴史を感じさせる建物が点在しています。

江戸時代の今津宿は、加賀藩の領地だったということで、曹澤寺は加賀前田家ゆかりの禅寺。風格のある山門や本堂がその由緒を物語っています。庭園は滝と流れを表現した枯山水。

しかし実生の樹木も多数あり、灌木などは後に植えられたものらしく、どこまでがオリジナルの姿か分からなくなっているそうです。また借景となっていた背後の山も、中景の建物で遮られるなど、往時の姿は大きく損なわれていると思われます。

ただ石組や流れに架かる石橋など、格調高い構成は、名園であったことを想像するに難くありません。庭園の維持管理の難しさを感じさせられました。

今津の町並みを彩る歴史的建造物に、アメリカ人建築家・ヴォーリスの建物があります。ウィリアム・ヴォーリスは、メンソレータムを日本に普及させた実業家としても知られていますが、建築家でもあり、明治末期から昭和前期にかけて、教会や学校を中心に全国で1,600件余りの建築設計を手がけたそうです。

琵琶湖の周囲の町、特に近江八幡市に彼の残した建築物が集中していますが、ここ今津にも旧郵便局、教会、そして現在はヴォーリス資料館になっている旧銀行(上の写真)の、三棟のヴォーリス建築が、近代化の象徴として、その名もずばりの「ヴォーリス通り」に並んでいます。

今津は『琵琶湖周航の歌』が生まれた町でもあります。歌碑のある今津港から、琵琶湖に浮かぶ竹生島へ渡ります。

 

* お断り=最新の情報ではないので、景観が変わっているところもあるかもしれません。

 


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