Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「エレニの帰郷」テオ・アンゲロプロス

2014-02-04 21:47:16 | cinema
「エレニの帰郷」テオ・アンゲロプロス
2008ギリシャ/イタリア/ドイツ/ロシア
監督・脚本:テオ・アンゲロプロス
脚本:トニーノ・グエッラ、ペトロス・マルカリス
音楽:エレニ・カラインドルー
出演:ウィレム・デフォー、ブルーノ・ガンツ、ミシェル・ピッコリ、イレーヌ・ジャコブ、クリスティアーネ・パウル 他


前売券を購入して鑑賞に備え、
劇場に行ってみたらその時間帯は割引で観れますよといわれ、
しばし考えた後、その日は現金で割引料金を払い鑑賞。
後日わざわざその時間帯を外して前売券で再度観に行きました。

得したのか損したのかよくわからんが、
まあアンゲロプロス2回観たので幸せである。


残念なことにテオの遺作であるだろう『エレニの帰郷』は
めずらしくギリシャを舞台とはしていないのだけれど、
内戦や軍事政府成立や共産主義勢力台頭などのなかで辛い過去を持つエレニを初めとする老年3人が
心に思いをそれぞれに抱きながら20世紀の終わりを迎えるとともに
次の世代へ、決して思いや経験を共有はできない若い世代へ
それでも愛情を繋いでいける、
決して明るくはないけれどもつかの間のミレニアムの喧噪のなかで
かすかな期待にすべてを懸けるような終わりを持つ
素敵な映画でありました。

テオの他の作品に(特に前作の『エレニの旅』に)観られるような様式美は
今回の作品にはあまり多くは感じませんが、
そのかわり?例がないくらい時制をばしばし飛ばしてきます。
最初は理解するのが大変。
二度観たので二度目はよくわかったですけど。

主に1953年から74年頃のエレニやヤコブやスピロスの物語と
1999年のベルリン、エレニの息子である映画監督の物語とを画面は頻繁に行き来する。
両者の物語は1999年末のベルリンで長い旅を終え出会うのだが
それは長い旅の末の帰郷であるとともに
老人たちの人生の終わりであり
苦しかった世紀の終わりでもあり、
映画監督(シナリオ上はAと呼ばれる)の娘エレニへのバトンタッチでもある。
多層的な瞬間なのだ。
そのことにいたく感動してしまった。

「第三の翼」というモチーフが幾度か出てくるが
まさに第三の翼の存在であったヤコブが
最後に翼を広げるようにゆっくりと白い空を背景に手を広げる無音のシーンや、
困憊したエレニの手から(超自然的なことに)河の水が滴り落ちるところとか、
もちろん最後にスピロスがエレニに語りかけると孫のエレニの小さい手が答えるところとか、
列挙していくと大変なんだけども。

いいよねえ。

一番???となったのは
シベリアを逃れたエレニが働いているというトロントにあるバーのシーン。
スピロスが入っていくと、なぜか1999年のエレニとヤコブも一緒にいる、
しかもそこはベルリンであることが電話の会話でわかる。
でもスピロスがバーの奥に入っていくとそこはどうやら1970年代のトロントらしいのだ。
この間ずっとワンカットなので、??????
となった。

こういう手法は『旅芸人の記録』でもあったけど、あっちでも????となったし。
こういう自由さがいいよね。
それにそもそもAが撮っている映画というのが
どうもわれわれが観ているこの『エレニの帰郷』ぽいんだよね。
????


あとは、、
Aはエレニの息子だけど、Aを演じるウィレム・デフォーは、エレニのイレーヌ・ジャコブより10歳くらい年上なんだよね。
そもそもエレニの若い時から老齢までイレーヌが演じるので、年齢はエレニの頭髪で表現されている。
こういうなんというかお芝居的な設定も面白い。
時制がよじれていくところや、水が滴るとか、リアリズムを基調としながらも演出的非リアリズムを構造として組み入れる感じは、映画のやり方としてワタシは結構好みなのですね。大真面目なんだけど虚構も丸出しみたいなのが好きです。

リアリズム追求すると、どうもうさんくさくなるという気がする。
観る方もこれはあり得ないだろうとかこんなことはなかったとか
そういことばかり気になってくるし、
なによりそこで描かれる物語がほんとうらしくなるほどに、そうでなかった物語を隠しているような気がしてならなくなっちゃうのよね。

まあいいか。

ということで、これでテオの映画はおしまいなのか、
事故のときに撮影していた『もう一つの海』が形になってでてくるのか、
まだ今後には期待を繋いでいこう。

*****

路面電車についてはパンフではすみんが触れている通り、ムルナウ、、とつぶやきたくなる。
もっともソクーロフほどにはムルナウ的ではなかったけど。すばらしいシーン。

音楽がとてもよい。エモーショナル。

配給は東映、配給協力にフランス映画社。フランス映画社がんばれ。。

パンフはシナリオ採録しているので買いよ。



@バルト9

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2 コメント

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 (とらねこ)
2014-03-16 18:12:27
一度目に見た時と二度目に見た時で印象が違ってしまうんですけど
二度見る映画って不思議と、その映画の全てに没頭してしまうんですよねえ
なんか私も20世紀を本当に超えてしまったのか、それ以来が夢のように思われたりもするのですわ。

>なによりそこで描かれる物語がほんとうらしくなるほどに、そうでなかった物語を隠しているような気がしてならなくなっちゃうのよね。

うん、こういう考えいいな。
返信する
 (すた)
2014-03-18 01:40:40
☆とらねこさま☆
たしかに。20世紀を越えたって本当かな?
ほんとうなのかなあ・・夢のようだな。
この映画もやっと越えるところまでだし・・・
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