Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「オーケストラ!」ラデュ・ミヘイレアニュ

2010-05-19 00:04:12 | cinema
オーケストラ!LE CONCERT
2009フランス
監督:ラデュ・ミヘイレアニュ
原案:エクトル・カベロ・レイエス、ティエリー・デグランディ
脚本:ラデュ・ミヘイレアニュ、アラン=ミシェル・ブラン、マシュー・ロビンス
出演:アレクセイ・グシュコフ、メラニー・ロラン、フランソワ・ベルレアン、ミュウ=ミュウ、ドミトリー・ナザロフ

監督はルーマニアの生まれ。80年にチャウシェスク圧政から逃れフランスに移住。マルコ・フェレーリの助監督などを経て長編を撮るように。日本では『約束の旅路』(2005・同年セザール賞で脚本賞)が知られる。
てことです。
ワタシはお初にお目にかかります。

前作『約束~』もそうだったようだが、本作『オーケストラ!』でもユダヤ人に関わる問題が題材となっている。

ワタシは知らなかったのだが、ソ連時代、ブレジネフ政権下でユダヤ人排斥が行われたそうで、この映画はその渦中にあったユダヤ人音楽家たちの、その29年後の出来事である。
「ホロコースト後」に、あるいはスターリン批判後に、なおユダヤ人の公職追放などが行われたというのもちょっとしたショックであるが、考えてみればわかるように、特にヨーロッパ~中東世界でのそのへんの話は一筋縄で理解できないし、今に始まった話でもなければいつ終わるというモノでもないだろう。

そういう重たい題材を背景にしつつも、この作品はコミカルで人情味にあふれた軽さを持っている。何につけても深くはっきり掘り下げられることはなく、ほのめかされる程度に描かれるこの映画では、苦しい困難や運命をどっしり提示しないかわりに、悲痛な願いをこめた未来への希望もまた描かれない。こんなんでいいのかな?とふと思わなくもないのだが、時代をそうやって軽くとらえておくというノリもある面では必要なことで、そういう観点でとりあえず認めておくとしよう。

そういう意味で、一番不満を集めそうな点=結局最後にどうなったのかがはっきり描かれない、というところも、逆にワタシには面白く思えたな。音楽家たちが地位を回復したとか、若い世代は希望を持っているとか、そういう「結末」を回避したところに、「事を軽く見る」スタンスを選択した者なりの誠実な一貫性を感じるからだ。「結末」を提示できるほどに大胆不敵な者など本当はそうそういるはずはないのだし、1958年に生まれたルーマニア人の監督にそれが可能だとは決して思ってはいけない。(「結末」が許される映画作家なんて、今はざっと見回した中ではワイダくらいしか思いつかん。)

さて、ということで、結末はいろいろ想像しなきゃいけない。聡明なアンヌ=マリーはおそらくギレーヌの置手紙の段階である程度のことが理解できたのだろう。チャイコフスキーを完奏したことはアンドレイの物語の結末でもあり、アンヌ=マリーの物語のひとつの終わりでもある。どうやら世界を演奏旅行したらしい?彼らの未来はしかしまったく明るくない。よくてもとの鞘に、清掃員に闇市に救急車運転手にポルノビデオの音入れ係に戻るだけ。ギレーヌはアンヌ=マリーのもとに戻りあらためて真実を語り涙のうちにアンヌ=マリーと抱擁するだろう。キャビアは売れず韓国産SIMフリー携帯が飛ぶように売れるロシアの経済は?なお共産党復権に賭けるイヴァン(だったかな?)の忠誠心は?そして、世界のユダヤ人たちは・・・

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チャイコフスキーの演奏はクレジットによるとブダペストのオケのもののようだけど、なかなかにダイナミック。あの音がなければ感動はもうちょっと薄いものになっただろう。

これはルーマニア出身監督によるロシア人の物語を描いたフランス映画である。このところのフランスの映画への貢献はこのような越境的なものであるのはなんだかうれしいと思う。CANAL+などの資本の懐の広さなのか。クストリッツァなどのヨーロッパ勢や、トラン・アン・ユンやツァイ・ミンリャンなどのアジア勢まで。

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twitter上の仮想行政区粒谷区に属するオケ「粒谷区立管弦楽団サジタリウス」のメンバーでやった「オーケストラ!」鑑賞オフに参加して観たのでした。
しかしその日、不覚にも、というかいつものように前半眠りこけてしまったので^^;その翌週、一人で再鑑賞したのでした。銀座シネスイッチは外まで行列ができる盛況ぶりでした。


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